『「やさしさ」の免罪符』は、その内容の特性上、インターネット空間における言論を多く参照しています。その対象は匿名の個人の投稿も含まれます。
本書の「脚注」のURLのほぼすべてをWEBリンクが占め、紙媒体が脚注にあるのは1つのみでした。「参考資料」としては数々の書籍等が掲載されていますが、その中にもWEB媒体があります。それ自体が本書の大胆な試みの1つと言えるでしょう。
本書ではリンク先の情報は「2024年3月11日現在のもの」であるとしていますが、これらのリンク先にはGoogleの検索結果やTwitter(現在はX)での検索結果、togetterまとめなど、遷移先の情報の内容が変動するのが当然視されるURLも含まれています。
そのため、本書の機能を完全なものにするためには、検証可能性を担保させるべく、WEB上の「根拠」が仮に消されても追跡可能なようにする必要があると考えました。その結果、今回、Twitter(X)などSNSのリンク先については一般的に削除されやすいので優先的にWEB魚拓を採っています*1。これは単なる「スクリーンショット」による画像化ではなく、特定の時点でのウェブコンテンツがそのまま保存されるものです。
仮にリンク先が削除されていても、Internet Archiveの"Wayback Machine"や"Archive. today"などのアーカイブサービスでURLを打ち込めば、過去の時点の状態で表示されることになります。
本書の電子書籍中でも「当時の投稿は削除されている」としてハイパーリンクされていないものが1つだけありました。これは2011年当時の頃の魚拓が複数残っているので、そちらを覗いてみれば確認ができます。これはTwitter(X)の投稿の事を指していますが、アカウント運営本人が投稿の削除やアカウントの削除をしていなくとも、Xの側から投稿の削除を求めたり強制的にアカウント凍結をする場合もあるという点は要注意です。
『「やさしさ」の免罪符』ではここで挙げたような変更は影響してないと思われますが、もはや「そういうことを避けるために紙媒体のみ参照するべきだ」と言うことができない状況になっています。なぜなら、紙媒体では存在しないWEB媒体の記事によって読者を煽動するメディアが現実に存在しているからです。それは運営者の規模の大小は関係ありません。
本書は、そうした「動き」をも捕捉し得るものとして機能させるべきだと、勝手ながら私は考えています。それは後述するように、林氏のフィールドワークを無駄にしないためにもなると思っています。
『「やさしさ」の免罪符』に記載されている内容については、私は林氏のTwitter(X)のアカウントをフォローしていたので、彼のTwitter(X)上のフィールドワークの一部をリアルタイムで見てきました。本書は、その成果が大きく反映されていると証言できます。
他の人からはどう見えていたかはわかりませんが、ここ数年の間だけでも、日本や福島を貶める非科学的で無根拠な主張をするアカウントに対して林氏が反論を試みている場面が何度もありました。
それは単に「破綻した主張をしている者を取り上げて論破」などという枠に留まるものではなく、彼のそれは風評加害者への反撃であると同時に資料収集でもあり、更には記録化でもあったのだと言えます。