都知事選で最も大きな要素となるのは「知名度」だ。その点、蓮舫氏のことはほとんどの人が知っている。その蓮舫氏が出馬を表明したことで、「もしかしたら小池知事を倒すのではないか」と期待が湧き上がった。しかし、期待はその瞬間がピークだった。
最初の失敗は5月27日に出馬表明をしたにもかかわらず、具体的な政策を語らずに時間が経過してしまったことだ。「相手に良いところをパクられる」というのがその理由だったが、よく考えればこれは意味不明だ。
「自民党がベッタリとついている小池知事ではできない。だから私がやる」として「反自民・非小池都政」をテーマにしていたのだから、先に政策をどんどん発表して話題を作り、政策論争の主導権を握るべきだった。
ところが、立憲の都議会議員団が中心になって作ったという政策には「小池知事ではできないこと」が明確になっていなかった。
都民ファーストの会の都議も首を傾げる。
「なんでああいう政策を主張しているのか、ちょっともったいないと思います。それに主張を聞くほどに本当に都政の政策に関心があるのか疑問に思うようになった」
そもそも、蓮舫選対に「どうやったら小池知事に勝てるか」という戦略があったとは到底思えなかった。蓮舫氏は「無所属のオール東京で」と語っていたが、実態は立憲民主党の議員や秘書が何十人も手伝っていた。そうしたリソースを使う一方で、戦略性のなさが目についた。
立憲民主党の国会議員秘書は、告示直後に党本部の選対から事務所に「各事務所に200部ずつ確認団体のビラを配るので、それぞれの自宅付近でポスティングしてください」と連絡があったという。
「議員も秘書も東京に住んでいるとは限らないのにどういうことなのか。そもそも告示後のポスティングは問題なんじゃないか。そんなことを秘書同士で言っていたら、結局その話は無くなりました。
電話かけも自主的に手を上げたら100件単位で任される、というので、誰もやらなかった。ある秘書が手を上げたら、電話を貸してくれるわけでもなく、党本部の一室に呼ばれ、行ったら誰もいなかったそうです。ほとんど誰も電話がけなんてやってないってことです。
7月に入ってからも急に『推薦ハガキの宛名を貼るのに人員が足りないから明日都合つく人はいないか』と頼まれた。これは蓮舫陣営から頼まれたことのようですが、終盤戦になってからハガキ送るなんて聞いたことがない。どういう体制でやっているのかと不思議に思いました」
都連所属のある国会議員は、自分ですらもどういう体制で選挙が行われているのか分からなかったと語る。
「蓮舫陣営の選対本部長が誰なのか分からなかったので都連幹部に聞いたら『いない』と言われた。事務局長もいないようです。だから誰が責任者で、どういう体制でやっているのかが分からないんです。
都内の30ある衆議院選挙区ごとに支部選対を立ち上げたが、総合選対は開かれていない。日程が決まり、自分の地域で街頭演説があるとなれば、支部として対応するという感じで、全体像がどうなっているのか最後まで全然分からなかった」
筆者の主観であるが、蓮舫氏の演説はキンキンがなり立てるので、好きな人はいいかもしれないが、そうではない人は聞いていられない。しかも内容がどんどん小池知事の批判ばかりになっていて、共感を呼ぶ演説とは思えなかった。実際、自民党の調査では女性からの支持が小池知事の約半分という傾向だったが、それは最後まで変わらなかった。
つまり、これまでの蓮舫氏のキャラではまず勝てないという状況から始まったにもかかわらず、従来の姿勢を貫き通したのだ。その結果、よりコアなファンの期待を上げるだけで無党派層の取り込みはできなかったということであろう。立憲支持層でも7割以下しか固められなかったこともそれを示している。
また、終盤戦では蓮舫陣営とその支持者によるなりふり構わぬ品のない言動が目に余った。
7月6日の最終日、新宿駅前での最後の演説。応援弁士を務めた野田佳彦元首相はこう発言した。
「(自民党の)脱税のチームに応援される人も私は同じ穴のタヌキだと思います。同じ穴のタヌキは駆逐しようじゃありませんか」
仮にも国のトップだった人物とは思えない品のなさである。また、杉尾秀哉議員は演説で「もう緑のたぬきには任せられない! 8年もやれば十分だ」と語った。
辻元清美議員は5日の街頭演説で、「アメリカ大統領も2期8年。それ以上は長すぎる」という主張を展開した。だが、元民主党衆院議員の達増拓也・岩手県知事は現在5期目で、17年目を迎えている。5期目を目指した昨年の知事選では立憲民主党は支持している。主張に一貫性がなく、その場しのぎで適当なことを言っているようにしか見えなかった。
また、蓮舫陣営の確認団体のビラや看板を持った人たちが小池知事の街頭演説に押しかけ、それを掲げながら「辞めろ」「学歴詐称」などと叫んでいた。これに対しても蓮舫氏はSNSを通じて「相手陣営の妨害行為は控えるように」といった呼びかけの一つもするべきだったのではないか(安野たかひろ候補はそうした呼びかけを行っていた)。
そして、何より蓮舫氏自身の振る舞いについても批判の声が出ている。それは蓮舫氏が泉健太代表を「排除」したことにある。
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「枝野さんや野田さんなど他の応援弁士の時には壇上で並んでいるのに、泉さんの時だけは並ばなかった。そして泉さんが演説を終えると、握手をすることもなければ目も合わせることなく、入れ替わりで壇上に上がったんです。いくらなんでも代表への敬意がなさすぎるし、感じが悪い」
街頭演説での応援弁士として野田佳彦、枝野幸男、辻元清美の3氏は少なくとも6回以上ずつも現れている。その一方、泉代表はこの平日の1回しか応援に呼ばれることはなかった。あまりにも応援弁士が偏っていることが「旧立憲民主党による都知事選」という見え方を強くした。
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こうした振る舞いに、泉代表に近い議員の一人は呆れた様子でこう語る。
「人として終わってるよ。そういう、人への配慮とかこれまで全くやってこなかったんだろうね。まあ、(人として終わっている以前に)始まってないよね。そういう人間性が滲み出ているから支持も広がらないんだと思う」