なぜ陰謀論がいけないかというと、単純に、間違ってるからです。なんの根拠もないからです。
間違ったことや間違った価値観を信じるのは個人の自由だ? 以前は私も、おもしろがってるぶんには罪はないし、オトナになればバカバカしさに気づくはずだ、と寛容な態度を取っていたのですが、それは甘すぎたと反省し、きっぱりと否定することにしました。
バカバカしさに気づくどころか、根拠のない陰謀論に取り憑かれた連中が、政治の力を利用すれば自分が信じる価値観を正当化し、すべての人に強制できる可能性に気づいてしまいました。そしてそれを躊躇なく実行するようになったんです。日本だけでなく世界中で。
いわゆるネトウヨや排外主義者の一部は、自分たちを「普通の日本人」と称するのを非常に好むなんてのは、あるあるネタみたいだけど、研究結果として出ています。
日本人は特有の価値観や偏った習慣を「普通」と称し、それに逆らう者を「普通じゃない」という理由で攻撃・排除するという見かたは、日本文化論としても秀逸です。
重要なのは、普通かどうかではなく、正しいか間違ってるかです。間違ってることを「これが普通だから」との理由で押しつけられるのは不条理きわまりない。
そして、もうひとつ、まったく予想だにしなかったのが、石丸伸二さんの躍進でした。私はこの人の存在自体、まったく知りませんでした。投票日まで泡沫候補の1人くらいの認識しかなくて、事実上、小池さんと蓮舫さんの一騎打ちだと思ってたので、意外すぎる結果に驚きました。
選挙後に、石丸さんについて初めて調べました。著書も読みましたが、いろんな自己啓発書の寄せ集めのような中身スカスカの本でした。具体的なエピソードがほとんどなくて、抽象的なことばかりなので、著者の人間性や個性がまったく見えてこないんです。
市長時代の記事や過去の言動、選挙後のテレビ出演時の受け答えなどから総合的に判断するかぎりでは、「対人スキルゼロの詭弁家」というのが私の評価です。わざとハラスメント発言をして自分を強い男に見せたがる幼稚な面には不快感をおぼえましたし、この人を政治家としても人間としてもまったく支持できません。
そんな石丸さんがどういう風の吹き回しで銀行員を辞めて政治家になろうと思ってしまったのか。人間的な側面には興味があります。歳を取るにつれて、自分より年齢も学歴も下の連中が出世していくことに焦りをおぼえたのでしょうか。ご自分では、故郷をなんとかしたかったみたいな綺麗事の理由しか述べてませんけど。
自分のことを客観的に評価できてないところからも未熟さを感じます。銀行員はゼネラリストだから政治家に向いているなどとアピールしてますが、石丸さんはゼネラリストではないですよ。おそらく彼の資質をもっとも正しく見抜いていたのは、勤めていた銀行の人事部です。幹部候補のゼネラリストとしてでなく、アナリストというスペシャリストとして起用することで彼の能力を最大限引き出せると判断したのでしょう。人間に興味がなさそうな石丸さんにとっても、人でなくデータと向き合うその職種こそ天職だったんじゃないかと思えるのですが、なぜか、高度な対人スキルを必要とされる政治家への転身を志してしまったのです。
そして幸か不幸か強運なのか、安芸高田市長になれたわけですが、東京在住の私はその辺の経緯をまったく知りませんでした。ということは、全国ニュースで報じられるほどの実績は残してないってことです。
市長時代の言動を調べると、対人スキルのなさが如実に現れてます。対話によって異なる意見の合意点を模索し、問題解決に導くというようなことをまったくやってません。自分に批判的な意見には耳を貸さず、意見が対立する議会をネットで叩いて悪者イメージを植えつける戦法ばかり。それをネットで読んだ石丸信者たちが議員たちにいやがらせをする事例が頻発し、議員から名誉毀損で訴えられて敗訴してますが、石丸さんは自分の非をまったく認めようとしません。
かといって、問題解決に役立つ斬新なアイデアを連発するようなひらめきの才もない。都知事選の選挙公報でも、著書と同じように、何の新鮮味もない抽象的な公約ばかりを並べてました。
全国的に日本の地方議会が腐ってるのは事実です。それこそ異常な慣例や既得権を「普通」「伝統」と称して維持してるだけなので、既存の政治にノーを突きつける者が現れれば、快哉を叫ぶ市民は必ずいます。
でも、既存の政治を批判・否定するだけなら中学生でもできるんです。じゃあ、具体的にどんな改革を進めるのか。それが市民全体にとってどうプラスになるのか。そしてそれをどうやって実現するのか。そういったことをわかりやすく説明し、実現のためには賛否両派の人間と真摯に向き合う。そういった能力こそが、オトナの政治家、首長に求められるのですが、はっきりいって石丸さんにはその能力が備わってません。
さらにつけ加えるなら、利他的な精神が欠如していることも問題です。困ってる人や立場の弱い人を助けよう、みたいな気概も感じられないし、いったい誰のために、何のために政治をやろうとしてるのでしょうか。
私は詭弁を弄する人を信用しません。詭弁家は自分の間違いや失敗を認めようとしないのです。間違いや失敗を認めることを恥、負け、屈辱だと考えるからです。選挙後のインタビューなどを見ていると、石丸さんも自分の間違いを決して認めようとしない人だとわかります。とにかく、自分に向けられた批判や疑問を詭弁で打ち返すことしか頭にない。
今回の選挙では、石丸さんの支持者は20代の若者が多かったとの分析が出てましたけど、人生経験の浅さが反映されてます。私なんかは経験上、石丸さんみたいな人が上司だったら最悪だなとまっ先に考えてしまいます。自分のミスを認めずに詭弁でごまかす人はだいたい、失敗を誰かのせいにします。やっぱり石丸さんみたいな人は、一匹狼的なスペシャリストが向いてるのです。