<反社会性人格障害の診断基準(一部を抜粋)>
1.法律にかなって規範に従うことができない、逮捕に値する行動を繰り返す。 2.自己の利益のために人をだます。 3.衝動的で計画性がない。 4.喧嘩や暴力を伴う易刺激性、攻撃性。 5.自分や他人の安全を考えることができない。無謀。 6.責任感がない。 7.良心の呵責がない。他人を傷つけてもいじめても物を盗んでも気にしない。責められれば正当化する。
(反社会性人格障害の診断にあたってはこれらの特徴や行為が全てが必要ではありません)
[...]サイコパスの特徴を持ちながらも犯罪行為は行わず、社会的には成功した人を原田は、「成功したサイコパス」、「マイルド・サイコパス」だと呼んでいます。原田のような考え方をする研究者によると、一般に思われている以上にサイコパスは多く、なんと人口の1%くらいがサイコパスだと言います。
サイコパスの最大の特徴は何か。原田によると、やはり「良心の欠如」とされます。サイコパスには他人の痛みに対する共感が全く無く、自己中心的な行動をして相手を苦しめても快楽こそ感じさえすれ、罪悪感など微塵も感じないのがサイコパスの特徴なのです。
では、そんなサイコパスに対して、被害者の痛みを理解できるように、心理教育を行うとどうなるのか。刑務所にて、犯罪を犯したサイコパスたちと、犯罪は犯したけれどもサイコパスではない受刑者たちに対し、被害者の苦痛や心理について教育を行うと、後者は刑務所を出所後に再犯率が下がった(被害者の苦痛がわかって更正した)のに対して、サイコパスの方は逆に再犯率が上がった、というデータがあるそうです。その理由としては、サイコパスが被害者の心理を理解した上でそれを悪用するようになったから、と考えられているのです。
この点は、私も臨床の実感として同意します。私が精神科病棟にて入院患者を治療する立場にあった時、サイコパスもしくはマイルド・サイコパスのような人が時々入院してきました(ここであらためて、99%の精神科入院患者さんは病気であっても人格障害でもなくサイコパスでもない善良な人たちであることを強調しておきますが)。彼らサイコパスが病棟内で他の患者さんや看護師らを痛めつける(女性の髪の毛に火を点けて燃やすとか、幻覚妄想状態で意思疎通困難な患者さんに対して看護者が気づきにくい部分を何カ所も切りつけるなど)行為を行った時、彼らの良心に訴えかけるようにカウンセリングしても、全く無駄であるどころか、彼らは問題行為に私たち医療者がどのように対処するかを学習していき、暴力・残虐行為は悪質化していくばかりだったのです(池田小学校事件の犯人は、事件前に精神科に入退院を繰り返しています。
自分が触法行為を犯した時に司法や医療がどう対応するかを学習していったようです。)。医療者がサイコパスの「良心に訴えかける」スタンスでは、まったくどうしようもなかったのです。
当院を開院した後も時々サイコパスが受診してきたことがあります。しかし、彼らの受診目的は邪悪なもので、反社会的な行動をして懲罰を受けそうになった時や、家族らにDVを振るい関係が悪くなった時などに、精神疾患として責任を回避しようとして受診するのです(会社の金を横領したり、部下を自殺に追い込んだ後に受診して精神疾患の診断書を要求してきたケースを思い出します。)。そんな身勝手な彼らに対して、私は「治療」する手立てを持ち合わせていません。