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夫に好きな人がいる

6月初旬

喧嘩が増えてた。

私も、仕事が繁忙期なのもありイライラしていて、夫の些細なことが気になる。

ある晩に、夫から「気に入らないなら離婚」と言われる。売り言葉に買い言葉じゃないけど、私もカッとなってたので、「わかった近々離婚届持って帰るわ」と返す。

後悔してるんだけど、この時わたしは「もう夫のこと好きじゃないし、今後また好きになることもない」と言ってしまった。

でも、この時はただの口喧嘩で、お互い本気じゃないと思っていた。

そう思っていたのは私だけだった。


6月中旬

あれから何度か「離婚の話し合いしよう」「離婚届はまだ?」と言われていたが、繁忙期で疲れており、「仕事が落ち着くまで待って」と返していたら、次第に言われなくなった。


6月下旬

繁忙期が終わった。

頃合いを見計らってか、夫から「離婚の話し合いしよう」と言われる。この頃の私は離婚のことをすっかり忘れてたし、思い出しても「ただの口喧嘩だったじゃん」としか思えず、イラついた。

これも今となっては後悔してるんだけど、夫から「だってもう俺のこと好きじゃないんでしょ?」と言われて、否定できなかった。この頃はもう夫のやること成すこと全てにイライラしてて、実際、セックスは私側がレスってた。レスなので子供もいない。だから、離婚していっか、とこの時は本気で思ってた。

とりあえず年内に離婚しよう。今後のタスクは、まずお互いに両親に報告すること。次に家と車の処分を決めること。子供がいないので決めることはこれくらいでしょ。って。

夫から、「苗字は戻してね。ウチの実家厳しいから、それだけお願い」って言われた。意味がわからなかったけど、なんとなくモヤっとした。


母親に電話で報告した。「もうちょっと頑張ってみないか」と言われた。

それを夫に伝えたけど、夫は興味なさそうだった。

義両親は、すんなり認めてくれたらしい。

離婚の署名はお互いの親に頼もう、俺は新幹線で行くから、増田は車使っていいよ、と言われた。

本当に終わるんだ。と思ったら、どんどん怖くなってきた。


7月初旬

離婚が決まってから夫はすごく明るくなった。元気になった。というか、なんかいつも浮かれているように見えた。

夫は自分の欄を記入した離婚届をわたしに手渡した。

このときようやく「本当は好き、本当は離婚したくない」と言った。

自分でもよくわからないけど、涙がたくさん出た。


夫は明らかに困ってたけど、わたしが期待した返答はなかった。

「そうは言っても、もう決まったことでしょ?いざ離婚届を目の当たりにしたから動揺してるだけ。時間かかってもいいから心の整理つけてね。なるべく早い方が助かるけど。」


夫はずっと私にベタ惚れだと思ってた。

周りの人からは、私の隣にいる時の夫は幸せそうってよく言われた。

SNSでよく見る「理想の恋人」象に夫はぴったり当てはまってた。

頼まなくても、私の写真をいっぱい撮る。スナップショットもいっぱい。

SNSにわたしの写真をアップする。

週末はかならずデートに誘ってくれていたし、記念日や誕生日はもちろん、なんでもない日でもプレゼントをくれた。

私とデートに行った日のことを毎回日記につけていて、時折本棚から出してきては思い出話をした。

旅行に行くと、かならず風景と一緒に私の写真をたくさん撮ってくれて、それを製本アルバムにするのが常だった。

年に1回くらい、セックスを受け入れてあげると、とても喜んだ。

こんな風に、夫はわたしにベタ惚れだった。ベタ惚れだと思ってた。

そういうところが鬱陶しくもあって、冷たく接したときもあったけど、

こんな夫に、私が泣いてしおらしく「離婚したくない」と告げれば、絶対にすぐに考えを改めてくれると思っていた。

現実は違った。


「心の整理になるなら、夫婦カウンセリングとかにも付き合うから」


それだけ行って、離婚届を押し付けられた。


今までは仕事や飲み会が終わったらラインしてくれていたけど、何も来なくなった。ただいまも言わなくなった。無断で外泊することもあった。

この頃から、夫はもしかして浮気しているんじゃないかと思うようになった。


7月中旬

夫の気を引きたくて、ある朝トイレのドアノブにコード類をぶらさげてみた。

夫は、「なにこれ?」と聞いてきた。

「辛くて、死のうとしたけど、ほどけちゃったの」

と返すと、「ふふっ」と笑われた。


夫が毎晩のように「離婚届書く気になった?」と言ってくるのが苦痛で、私の方から、「1ヶ月、もう一度夫婦として暮らさせて欲しい。それでも気持ちが変わらないなら、離婚を受け入れる」と告げてみた。

夫は、かなり熱し易く冷め易い。もし浮気相手がいるのだとしても、時間が経てばその気持ちも落ち着いて、私の元に帰ってくると思っていた。

夫は、「わかった、1ヶ月だけ、離婚の話はしない。でも俺の気持ちが戻ることはない。1ヶ月後は問答無用で別居する。あと、俺たちだけでは話が進まないから、いずれにせよこの期間中に夫婦カウンセリングに行く」と言った。

今まで、セックスしたい、デートしたいと懇願してくるのは夫の側だったのに、立場が完全に逆転してる。なんだか薄寒い気分だった。


7月下旬

夫婦カウンセリングに行った。

よく覚えていない。聞かれたことに答えただけ。会話してて、私自身自分が支離滅裂だと思うくらいだったから、カウンセラーのキョトン顔も納得だった。

セックスはイヤ。一緒の寝室もイヤ。スキンシップもイヤ。夫のイヤなところはスラスラ出てくる。好きなところは出てこない。でも離婚したくない。

唯一覚えているのは、

「離婚は夫婦の合意がないとできないから、離婚したくないならそのまま居ればいいけど、旦那さんの意思はかたい様だから、そんな人と一緒に居続けるのは、大変かもしれない。」


義両親の家に、夫に黙って伺った。

夫さんと、別れたくないということを伝えに行った。

義母はずっと困った顔をするばかりで、玄関より中に入らせてはくれなかった。


8月初旬

デートに誘った。断られるかと思ったけど、承諾してくれた。夫はもはや、わたしの写真を撮ろうともしなかった。

旅行にも行った。夫は、ずっとスマホに夢中で、こちらを見向きもしなかった。

夫との旅行で、初めて私が宿や食事の支払いを担った。

こんな自分が夫に愛されているわけないのかも、とようやく気づき始めた。


夫が趣味でやっている釣りの社会人サークルに、私も行ってみたいと伝えてみた。

そのサークルのことはホームページで調べていて、次にいつ集まりがあるのかも知っていた。

夫は、「今はメンバー募集をしてないから、連れて行っていいのかわからない。担当者に聞いておく」と言った。


8月中旬

夫は、「サークルには来ないで欲しい」と言った。定員の問題ではなく、夫が来てほしくないんだな、と思う言い方だった。


夫から、「1ヶ月経ったけど、離婚の意思は変わらないので、別居するね」と言われた。

夫はその日のうちに荷物をまとめると実家に帰った。

別居とは言っても、ウィークリーマンションとかそういうのだと思っていた。

実家にすんなり転がり込んでいるということは、義両親は、もうわたしの味方じゃないんだなと、実感した。


毎週週末になると、夫は私が住む家に来て、離婚をせっつく様になった。

逆に、なんでそんなに離婚したいのか?と聞いた。

わたしは、本当はあなたが好きだし、離婚したくない。

これからはセックスだってするし、子供も産む。

そう言うと、

「もうあなたとしたいと俺は思わない」と言われた。

夫は、「幸せにしたい人がいる。僕の人生を僕に返してください」と言った。

呼吸が止まるかと思った。


8月下旬

探偵にたのんで、夫の不倫の証拠を掴むことにした。

でも、夫は毎日職場と実家を行ったり来たりするだけだった。

お金だけを失った。


9月初旬

とある週末、夫との話し合いの最中に、なんだかものすごく苦しくなって、気づいたら廊下の床に倒れていた。

夫によると、ヒステリーを起こした末、階段の手すりで首を吊って、意識を失っていたらしい。咄嗟に夫が縄を切ってくれたから、床に落下したらしい。実際失神していたのは数分もないらしいけど、夫が話し合いのためにダイニングテーブルに着いた以降の記憶がない。

おしっこを漏らしていたので、シャワーを浴びて、その日の話し合いはそれでおわった。


わたしの精神がおかしいため、夫は別居を一旦辞めて帰ってくることになった。

ついでに、遠方のわたしの両親も、来ることになった、

夫は「たとえ殴られても離婚は諦めないよ」と言っていた。

夫と私の両親の話し合いは、私なしで行われた。

何を話したのかは聞かなかった。

そのまま、わたしの母親がしばらく同居することになった。

私は職場を休職することになった。


9月中旬

私が発狂するのを恐れた夫は、離婚について口に出さなくなった。


ある日、私の母が義両親の家に行っている隙に、夫が自室でスピッツのチェリーをウクレレで弾き語りしていた。

なんどもやり直していて、多分録音か録画かしているんだろうと思った。

私のことをこんな風に追い詰めておいて、自分は他の女にラブソングを歌ってる余裕があるのか。夫のスピッツのチェリーを贈られる女は、もはや私ではないのか。

そう思うとカッとなって、気づいたらわたしは包丁を出して、夫の自室に向かっていた。

あまり覚えていないけど、気づいたら警察にいた。

逮捕されていた。

翌日、母と夫が一緒に迎えに来てくれて、帰ることができた。被害届を取り下げてくれたらしい。

夫は手を縫ったしい。本当に自分がイヤになった。


9月下旬

夫が入っている社会人サークルの人たちのTwitterアカウントを見つけた。みんなプロフィールにサークルの名前を入れていたから、すぐわかった。

夫のアカウントは非公開になっていたけど、@夫のアカウント名で検索したら、夫が交わしているリプライは見ることができた。

とある怪しいアカウントをみつけた。

顔写真がアップされていた。夫好みのルックスをしていた。

夫から好意的なリプライを送られているようだった。

さらに、その子の仲良しのアカウントを見つけて、そのアカウントの返信欄を見てみると、その子の裏垢らしきものと会話している可能性が高いリプライを見つけた。

もちろんその子の裏垢らしきアカウントは非公開だが、夫との関係を匂わせるようなツイートでもしてるのか?と思う様な、夫の特徴を含んだリプライが、その非公開アカウントに対して付けられていた。


10月初旬

夫が飲みに行くと言う。詳しく聞くと釣りサークルのコンパらしい。

わたしはtwitterをチェックした。どうやらそのサークルのコンパであることは間違いないらしい。

メンバーがアップしている写真をGoogleマップの情報と照らし合わせてみても、夫が言っていたお店で間違いなさそう。

そのサークルのメンバーはいわゆるツイ廃だらけで、不倫相手と思しきアカウントも普段1時間に1つはツイートしているようだが、

その日はツイートがなかった。

他のサークルメンバーが「飲み会楽しかった!」的なツイートをしているのに、その子だけは何も呟いていなかった。

夫にまだ飲んでいるのか?とラインを送っても反応がない。電話をしても出ない。

日付もとっくに変わり、帰ってきた夫に不倫相手と思わしき女のアカウントを見せて、「この子?」と聞いた。夫は何も言わなかったけど、態度でバレバレだった。


10月中旬

私は毎日不倫相手のアカウントを眺めていた。優しくて、明るくて、純粋で真面目でサークル内でも愛される、すごくいい子に見えた。

夫に「この子と会わせて、夫から手を引けって言う」と言うと、夫は、「その子は関係ない。俺が勝手に好きなだけ。それに、お前がその子になんて言おうと、そしてその子がどうしようと、俺はお前と離婚したいしその子が好きだよ」と言われた。

悔しくて泣いた。また首を吊ろうとしてしまったけど、夫と母に力ずくで止められて、できなかった。

泣きすぎて叫びすぎて酸欠になりながら、不倫相手の子の優しいツイートが思い出された。

前向きで、いつも誰かに寄り添ったツイート。彼女に夫は救われたのだろう。

私のことも助けて欲しいと思った。夫に「その子のこと好きでいいから離婚しないで。3人で仲良くできないの」って聞いた。

夫は「あの子と二人がいい」と言った。


先週

あの子のアカウントをフォローした。わたしだとバレてほしいような、ほしくないような、自分でもよくわからない気持ちだったが、夫との関係が良好であると思われたくて、そしたら彼女から夫を諭してくれる様な気もして、夫と仲が良かった頃に行ったデートの写真をたくさんアップした。

しかし、フォローバックは返ってこなかったし、あの子のtwitterが、あれから全く更新されていないことに気づいた。毎日起きてる間は1時間に1つはツイートがあったのに。

「わたしのせいか?」夫に聞くと、「奥さんのことを思うと、自分だけ楽しくツイートはできないって言ってたよ」と言われて、怒りと、混乱と、屈辱とで、目の前が真っ赤になる様だった。

夫から、「そうやって極端なことをやって脅して周りの人間をコントロールして自分の欲求を貫こうとするのは卑怯だ」と言われた。

その通りだとも思うし、そういうわけじゃなくてもう単純にいなくなりたいだけなんだよ、とも思った。


おととい

母が2人で散歩でも行こうと誘ってきた。

でも家に夫を一人にすると、また不倫相手に気色悪いラブソングを歌い始めるかもしれない。そんなのは耐えられない。が、ずっと家にいても更新されない不倫相手のアカウントを眺めているだけ。

そこでわたしは、夫の部屋にボイスレコーダーを仕掛けてから出かけることにした。

これで、ひとまず夫が一人の間に何をしていたか、後からだけど把握できる。

知らないままよりはずっといい。少なくとも心理的には。

月曜は夫は出勤なので、それまで回しっぱなしにしておく。


今日

ボイスレコーダーを回収した。夫の様子に変わったところはなかったから、不安が強くあったわけでもないけど、レコーダーを回収した瞬間は安心した。


パソコンに繋いで、外出した時間帯の部分だけ抜き出し、レベルメーターをチェックした。

明らかに音が入っている部分が40分ほどあった。それ以外はほぼ無音だった。

緊張した。心臓が破裂しそうだった。

勇気を出してその部分を再生してみた。

そこで入力されていたのは、弾き語りではなく話し声だった。

どうやら夫は、不倫相手と電話をしていたようだった。


「心配してくれてありがとう。いつもごめんね」

「きついよ。奥の死ぬ死ぬ詐欺もきついけど、不倫相手ちゃんと会えないのが、一番きつい」

「離婚してから死ぬよ、それならいいでしょって言われて、咄嗟に何も言えなかったけど、次に言われたらそうしてくれって言って離婚届突き出すわ」

「正直もう死んでくれていい。見てないところで死んで欲しい」

「こんな話聞きたくないよね。いつも俺に付き合わせてごめんね。全部終わったら恩返しするから。本当に、こんなに愛したのも愛されたのも心許せるのも君だけだよ。」


私は聞いたこともないような、弱々しい声だった。

こんなに素直に、本気で、茶化すことなく自分の心を打ち明ける夫を見るのは、初めてだった。

夫は、心を許した人相手にはこんな風になるんだなあ。

私は、交際期間も合わせたら10年も一緒にいるのに、まるで知らなかった。

それに、不倫相手がいい子すぎる。

不倫相手の声ははっきりとは入ってなかったけど、夫が私に死んで欲しいって言ったのに対して、

「追い詰められてそんな風に思ってしまう気持ちはわかるし私の前ではそう言うことを言ってもいいけど、ご本人には絶対に言ったらだめよ。優しく寄り添ってあげてね。」

「優劣つけるわけじゃないけど、奥さんが一番辛いと思うんだよね」

「奥さん、どうしても回復しないなら、サークルに呼んであげなよ。わたし抜けるよ。」

「3人で仲良くしたいならわたしはするよ!」

的なこと言ってて。

あ〜〜〜〜惨め。

私が彼女の立場だったら勝ち誇った様に「そうだよそうだよ死んじゃえ死んじゃえ☆」とか言う。


途端に、諦念に見舞われた。

本当に、私ダメだったんだな。

わたしがちょっと冷たかったりそっけなかったりしたせいで、こんなことになってるだけで、

時間が経てば、セックスすれば、寝室を一緒に戻せば、もっと愛情を示せば、夫が不倫相手に飽きれば、もとに戻れると、思ってた。

楽天的すぎたんだ。なんか唐突に理解った。

あんな子に盗られたら、もう凡人にはどうしようもないでしょう。

わたしだって、一緒に生きるならあの子みたいな人がいい。

包容力があって、理性的で、謙虚で、他人がいつも優先。

あれは本当に不貞行為ないと思う。セックスしてないと思う。

彼女は優しすぎて、「妻の愛情を感じず冷めて新しく好きな人ができたら妻に自殺企図を繰り返されて鬱になった男」である夫を放っておけないだけなんだろうと思った。

週刊誌であったり、サレ妻がよくSNSにアップしてる不倫ラインスクショでみる様な恋愛脳は彼女からかけらも感じなかった

そして、彼女は優しいから、私たちが離婚すれば、夫と付き合ってあげるんだろう。

私には、手も足もでない。


ただ、唯一できることがある。


わたしが今ここで自殺というウルトラCを完遂すること。

これができたらどうなるか?

夫は、自らの裏切りによって自殺した妻が居ながらあっさり再婚できるかな?

少なし、夫は今、恋愛脳御花畑だから、それに冷水をぶっかけることは、できる。

親戚にどう話す?結婚式にも呼んだ大学の同期たちには?

私に死んで欲しいなどと、舐めたこと言ってるが、

本当に死んだらどうなるかなんて想像すらついてない頭の悪い夫。

夫の愛情にフリーライドし続けて、愛想尽かされるまでそれに気づかなかった私にピッタリなバカ夫。

バカ夫に現実見せるには、私が死ぬしかないんです。

新しいお相手は、私が死んだ後の夫もちゃんと愛せるかな?

その包容力を持ってすれば可能かな?


もう死ぬしかやれることがない。

MEMO: