裁判の最大の焦点は、会社側がこの契約内容を認識していたかどうかだ。会社の規定は、外部と契約を結ぶ場合は役員会の承認を得て、正式な社判を押印すると定める。店長は役員会を通さずに領収証用のゴム印を押して契約を交わしていた。
会社側は店長が契約内容の変更を隠蔽(いんぺい)したと指摘。「刑法の有印私文書偽造罪や背任罪に該当しうる」と厳しく非難し、解雇は正当だと強調した。
対する店長は、幹部から受注生産ではない前提で「(発注数は)売り切れると思う数でやればいい」と言われるなど、会社側も契約の変更を認識していたと主張。社判を押すルールは知らなかったと述べた。
裁判では、イベントの終了後はすべての責任を取らされる恐怖で、会社から帰宅すると幼い娘の前で涙を流していたと明かした。
2023年3月の東京地裁判決は、店長の対応に「一定の問題があった」と認めた。ただ、会社側がイベントを告知するウェブサイトで販売商品は会場で代金を払って受け取るという印象を与えていたことや、多くの販売員を確保していたことなどから「受注生産でないことは認識していた」とも認定した。
ゴム印による契約書の作成は「規定違反」としたが、ルールが周知されていたとは言えず隠蔽の意図はなかったと判断。故意や重い過失までは認められず、処分は厳しすぎるとして解雇無効と結論付けた。
高裁で和解が成立。店長は会社側に迷惑をかけたことをわび、会社側は一定の解決金を支払うことを確認して争いは終わった。