/note/social

韓国人技術者がアメリカで一斉拘束された件、ビザ制度の歪みと無関心

最近のニュースで一番ショックだったのがこれ。

アメリカ南部ジョージア州で建設中だったヒュンダイとLGのバッテリー工場に、9月4日、移民税関捜査局(ICE)が突入して外国人労働者を大量に拘束した。報道によると、これがアメリカ史上最大規模の「職場一斉摘発」だったらしい。

拘束者の内訳は次のとおり:

  • 韓国人:317人(男性307人、女性10人)
  • 中国人:10人
  • 日本人:3人
  • インドネシア人:1人
  • ラテンアメリカ諸国(グアテマラ、コロンビア、チリ、メキシコ、エクアドル、ベネズエラなど):144人

合計475人。数字だけ見ても、韓国人が全体の3分の2を占めていたのが分かる。

■ 「不法労働」のレッテルとビザのグレー

彼らの多くはB1/B2ビザ(観光・商用)やESTAで入国していた。確かに「アメリカ国内で給料を受け取って肉体労働をする」のはNG。でも米国務省の公式ガイドラインにはこうある。

“B-1 visa holders may install, service, or repair commercial or industrial equipment or machinery purchased from a company outside the United States, or train U.S. workers to perform such services.”

つまり「購入した機械の設置や修理、現地作業員の訓練」はB1で合法。実際、彼らがやっていたのはバッテリー製造用の特殊な機械の設置・調整だった。

ところがICEは一括して「不法労働」と認定。内部文書では「ビザ違反していないのに自主的出国を迫られたケース」まで確認されている。弁護士は「これは違法拘束だ」と批判していた。

■ じゃあH-1BやEビザを取ればよかったのか?

現実的にはほぼ不可能。

  • H-1Bビザ:抽選制で毎年数十万人が応募、上限は約85,000件。しかも取得に半年〜1年かかる。数百人単位を短期で派遣するのは非現実的。
  • E-2投資家ビザ:投資家や幹部向けで、現場技術者は対象外。 L-1駐在員ビザ:本社からの管理職や専門職向けで、長期駐在が前提。短期プロジェクトの大量派遣には合わない。

要するに「工場立ち上げに必要な短期技術者をまとめて送る」制度がアメリカには存在しない。だからこそ長年、グレーゾーンのB1やESTAでやりくりしてきた。

■ 無知と無関心の構造

さらにややこしいのは、取り締まる側の政治家や役人自身が移民法をよく分かっていないこと。

ICEの内部文書でも「ビザ違反していない人を強制帰国させた」ことが指摘されていて、要は制度の中身すら把握しないまま強権的に運用している。

でもこれはアメリカに限らない。

日本だって、外国人労働者がどんな在留資格で働いているか、説明できる人はほとんどいない。「技術・人文知識・国際業務」と「特定技能」と「技能実習」の違いを即答できる日本人なんてまずいない。

なのに「不法滞在」と聞けば「悪いことしてる」とだけ思い込む。無知と無関心がセットになっているのは、日米どちらも同じだ。

■ 投資と排除の矛盾

この工場はもともと、トランプ政権が「韓国からの投資の成果」として大々的に宣伝してきたものだった。

ヒュンダイは200億ドル以上を投資し、完成すれば8,500人の雇用を生むとされていた。それなのに工場を立ち上げるのに不可欠な技術者を「不法労働者」として拘束。韓国大統領も「企業はアメリカへの投資を再考するだろう」とコメントしている。

「投資を呼び込みたいのか、外国人を締め出したいのか、どっちなんだよ」という矛盾があからさまになった。

■ 個人的な感想

一番怖いのは、自分も同じ立場になり得ることだ。短期出張でアメリカに行って、工場でちょっとした設置作業をしていたら、ある日突然「不法労働」と言われて鎖をかけられる。

しかもその背景にあるのは「制度が現実に追いついていないこと」と「誰も制度の中身に関心がないこと」。

「自由の国アメリカ」とは言うけど、その自由は制度の隙間に挟まれた人には驚くほど冷たい。

そして、それは日本に住む自分にとっても、決して他人事じゃないんだと思った。