■ 1. 水産庁の決定概要
- 決定内容: 2025年9月、水産庁はスルメイカの漁獲枠を今年度に限り30%増加させ、1万9200tから2万5800tに変更した。
- 理由: 水産庁は、黒潮大蛇行の収束によりスルメイカの生息に適した環境が整ったと判断し、漁獲量が増加している現場の声に応えたと説明している。
■ 2. この決定の問題点
- 判断の一貫性の欠如: 2024年12月に、資源の激減を理由に漁獲枠を7割以上削減して1万9200tに定めたばかりであり、わずか9ヶ月での方針転換は一貫性を欠く。
- 科学的根拠の無視: 今回の増枠は、資源が明確に増加した場合に適用されるルールに当てはまらない、異例の判断である。専門家からは、資源が「限界管理基準値」を下回る危機的な状況での決定に批判が集中している。
- 現場の声の優先: 科学的データに基づく資源管理よりも、漁業者の「もっと取りたい」という現場の声が優先された結果であり、水産庁が資源管理の役割を果たしていないことを証明している。
- 制度の無力化: 漁獲可能量(TAC)制度が、資源管理ではなく、現場の要求によっていつでも変更可能な「無用の長物」と化している。
■ 3. スルメイカの現状と背景
- 資源の激減: 1968年のピーク時(66万t)と比較して、2023年の漁獲量は約2万tにまで減少している。
- TAC制度の不備: 従来のTACは漁獲可能量を上回る設定が続き、実質的な資源管理として機能していなかった。
- オリンピック方式: 漁獲枠が漁業者や地域ごとに割り当てられず、全国規模の「早い者勝ち」であるため、漁獲枠が厳しくなるほど、より早く多く取ろうという競争が激化する。
■ 4. 解決策と課題
- 養殖の難しさ: スルメイカの養殖は、コスト、餌、生理的特性(壁への衝突や共食いなど)の問題から、現状では実用的な解決策にはなっていない。
- 日本人全体の意識: 漁業や水産行政だけでなく、日本人全体が「環境のせい」「密漁のせい」など外部に責任を転嫁し、自らの乱獲を無視してきた問題がある。
- 影響: スルメイカの乱獲は、価格高騰や関連産業への深刻な影響を通じて、最終的に消費者にも跳ね返ってくる。
- 展望: 今後、日本の水産資源と漁業が持続可能であるためには、オリンピック方式の見直しと、科学的根拠に基づいた適切な資源管理への回帰が不可欠である。