■ 1. 左翼思想の起源と理性信仰
- 左翼の語源: フランス革命時にジャコバン派が議会の左側に座ったことが由来であり、穏健派が右側に座ったため右翼と呼ばれるようになった
- 理性を新しい神とする思想: ジャコバン派は従来の神を放棄し、理性を信仰する新しい宗教を提唱した
- 理性の三位一体: 自由、平等、博愛という3つの要素が理性の神の現れとされ、これらを合わせて理性と定義した
- 左翼思想の核心: 理性によって世界のすべてを理解でき、より良くしていけるという信念が左翼思想の根幹である
■ 2. 右翼思想の本質と不合理性の受容
- 理性の限界を認める立場: 右翼思想は理性では測り得ない、理解できないものが世界に存在すると主張する
- 不合理なものの包摂: 自由、平等、博愛では説明できない事象を含めて世界を運営しようとする考え方である
- 日本における象徴: 天皇が理性では説明できない不合理なものの代表的存在として機能している
- 20世紀の教訓: 理性万能主義が単純ではないことが明らかになり、AI万能主義やテクノロジー万能主義への懐疑が生まれた
■ 3. リバタリアニズムとテクノリバタリアン思想
- リバタリアニズムの定義: 政府は社会インフラを提供する組織に過ぎず、余計な介入をせず最小限の役割に徹するべきという思想である
- テクノリバタリアンの出現: シリコンバレーのエンジニアがテクノロジーの観点からリバタリアニズムを主張し、多くの機能をテクノロジーで代替できると考えた
- 完全自動化社会の構想: SNSでの世論分析をAIが行い政策決定する、人間の介在を必要としない社会システムを提唱している
- エンジニアの傾向: テクノロジー出身者はテクノリバタリアン的思想を持つことが多く、無人化やロボット化を積極的に推進する
■ 4. Amazonに見る完全自動化経済の実態
- 工場の完全ロボット化: 10年以上前から人間労働者を解雇し、AIとロボットによる完全自動化を推進している
- 自律的生産システム: AIが需要を分析して自動的に生産ラインを構築し、商品を製造・出荷する仕組みを構築している
- 物流の完全自動化: SNS分析に基づきAIが製品を決定し、ドローンで配送し、原材料もコンテナが自動的に工場へ運ばれる
- ベーシックインカムの必然性: 完全自動化により生産力は上昇するが失業率も上昇するため、消費者を維持するために月10万円の給付が必要となる
■ 5. テクノロジーがもたらす労働の消滅
- 生産性向上と雇用減少の矛盾: テクノロジーの進歩により生産力は増大するが、同時に人間の労働機会は減少する
- 富の集中構造: Amazon経営者は何もせずに無限に富を得る一方、労働者は家で寝て暮らすだけの存在になる
- 既存の変化の兆候: ニート、フリーター、引きこもりといった現象はテクノロジーの進歩により既に可能になっている
- マルクスの予言の実現: 高度に発達した資本主義社会では人間がほとんど働かなくなり、趣味に時間を費やすようになるという予言が現実化している
■ 6. トランプ支持層の怒りと労働の誇り
- 尊厳の剥奪への反発: 労働者たちは単に経済的支援を求めているのではなく、労働を通じた誇りを奪われたことに怒りを感じている
- リベラルとの価値観の断絶: リベラル派は人間が寝て暮らせれば幸せだと考えるが、労働者はそれを望んでいない
- 労働の本質的意味: 人間は金のためだけでなく誇りのために働いており、その誇りを奪うことが深刻な問題を引き起こしている
- 伝統的生活様式の崩壊: 工場で真面目に働き、日曜に教会で礼拝し、家族でバーベキューをする生活を40年続けた人々が突然不要と言われる理不尽さがある
■ 7. テクノロジーと人間性の対立
- AI時代の必然性: テクノロジーの進歩は止められず、人間よりAIが賢くなる時代は確実に到来する
- テクノコミュニズムの概念: 極度に発達した資本主義社会では人々が趣味に時間を費やすようになるというマルクスの予言が実現しつつある
- 交換可能性の問題: テクノロジーは人間を交換可能にし、マニュアル化により労働を切り売りさせ、人間を物として扱う
- 阻害からの解放: コンビニ店員に挨拶することで、マニュアル化された労働から一時的に人間性を取り戻させる試みが可能である
■ 8. 不合理なものへの愛と新しい価値観
- 不合理性の重要性: 理性万能主義では認められない不合理なものや非効率なものにこそ人間的価値があると主張している
- 創造的行為の本質: 全財産を失うリスクを冒してでも自分の手で作品を生み出したいという不合理な欲求が人間の本質である
- AIへの抵抗: 自分より優れた作品をAIが作れるとしても、自分の名前だけを貸して利益を得ることは人間の尊厳に反する
- 美は乱調にあり: 合理的でないもの、不完全なものにこそ真の美しさがあるという価値観である
■ 9. 右翼左翼の区分の無効化と新しい対立軸
- 従来の区分の崩壊: 経済政策における福祉国家対自由国家という軸と、政治思想における保守対革新という軸が混在し、明確な区分が不可能になった
- ネオリベラルの位置付け: テクノリバタリアンは政府の縮小を目指すため右翼思想と捉えられることがある
- 新しい対立軸の提案: 不合理なものを愛せるか、理性では説明できないものを認めるかという基準で思想を区分すべきである
- 無知の肯定: 言語化できないもの、理解できない世界が存在するという確信が人生の豊かさを左右する
■ 10. クールさをめぐる価値観の対立
- 現代の支配的価値観: 有能な個人が才能を最大限発揮して富を得て、Instagramで見せびらかすことが最もかっこいいとされている
- リベラルの敗北: この価値観に対してリベラル派は有効な対抗言説を提示できていない
- ファミレス的体験の価値: 予約の取れない高級店でのセレブ扱いよりも、ファミレスで何者でもない個人として食事と向き合う経験の方が本質的である
- センスと金の分離: 富の有無とセンスの良し悪しは別物であり、金持ちでもセンスがなければクールではないという価値基準がある
■ 11. 新しい左翼思想としての受容性
- 作品による変容: 仮面ライダーやガンダムのような作品に触れて自分自身を変えられることを良しとする感性がクールである
- マゾヒスティックな姿勢: 世界によって自分を変えられることを積極的に受け入れる態度が重要である
- 個人主義への対抗: 個人の才能で世界を変えるのではなく、世界に自分が変えられていくという姿勢が新しい左翼思想と言える
- 経験主義的価値観: 言語化できない経験や、虫やラーメンのような具体的対象への没入を通じた世界認識を重視している