■ 1. レイシズムの基本概念と日本の現状
- 基本的定義: レイシズムとは人種差別や民族差別のことであり、人種や民族などのルーツにまつわるグループを不平等に扱う差別を指す
- 国際的な取り組み: 戦後国連でファシズムや戦争による社会破壊の再来を防止するために反レイシズムが大原則として禁止されてきた
- 日本の条約批准: 日本は1995年に人種差別撤廃条約を批准したが、先進国では146番目と最も遅い部類であった
- 法整備の遅れ: 欧米先進国が1960~70年代に整備した基本的なレイシズム禁止法を、日本政府は現在まで制定せず20年以上も国際条約違反を続けている
- ヘイトスピーチの蔓延: 「朝鮮人を殺せ」などのヘイトスピーチや極右活動が街頭、書籍、インターネットで頻発し、日本のレイシズムが社会を破壊する危険な水準に達している
- 言葉の普及: NGOやジャーナリズム、アカデミズムが日本の差別状況と政府の放置状況を可視化するために「レイシズム」という言葉を普及させてきた
■ 2. 政治家による差別発言と社会の無反応
- 麻生太郎副首相の発言: 麻生太郎副首相が日本を単一民族社会であるかのような事実に反する発言を行った
- 先住民の存在否定: この発言はアイヌなどの先住民の存在を否定し、日本人を人種化してその人種的優越性を煽動する効果を持つヘイトスピーチである
- 政府の対応不在: 人種差別撤廃条約で義務付けられている反対声明を政府や首相、国会議員が出さず、差別を批判しなかった
- マスコミの消極的姿勢: 新聞報道は麻生氏のヘイトスピーチを「批判を呼ぶ可能性」としか書かず、「差別だ」と明確に指摘した記事は見当たらなかった
- 閣議決定による公認: 日本政府は麻生太郎氏の差別発言を閣議決定で公認した
- 異常性の可視化: 米国で副大統領が同様の発言をした場合を想定すれば、日本の状況の異常性が明確になる
■ 3. レイシズムの危険性と暴力性
- 人命への直接的脅威: レイシズムは単なる差別ではなく、実際に人を殺す危険性を持つ
- ヘイトクライムの頻発: ブレグジットやトランプ大統領当選を機に、欧米では暴行、放火、爆破、銃乱射事件などのヘイトクライムが頻発している
- 集団殺害の傾向: レイシズムは人種化した人間集団を皆殺しにしようとする傾向がある
- エルパソ銃乱射事件: 2019年8月にテキサス州エルパソで21歳の白人男性が「できるだけたくさんのメキシコ人を撃ちたかった」として20名を殺害した
- インターネットの役割: 犯人は白人至上主義者が頻繁に集まる掲示板「8ch」に犯行声明を投稿し、メキシコ系移民を侵略者と主張した
- 人種差別を生み出す力: レイシズムとは人種差別を生み出し、暴力に結びつけ、社会の危険となる「人種」をできるだけ殺そうとする途方もない力である
■ 4. レイシズムの暫定的定義
- 三つの構成要素: レイシズムとは①人間を人種化して、②殺す(死なせる)、③近代の権力である
- 人種化の機能: レイシズムは存在しない人種を作り出し、人種によって人間を分断する
- 生物学的人種の非存在: 今日の生物学的な意味での人種は存在しないが、レイシズムは生物学から文化まであらゆる口実を用いて「人種」を作る
- 新型コロナと人種化: 新型コロナウイルスを口実に飲食店が中国人の入店を拒否する事例で、「中国人」と「日本人」を分ける作用が人種化である
■ 5. 生死選別のメカニズム
- 生死の分断: レイシズムは人種の分断線に沿って、生かすべき者と死なすべき者を分ける機能を果たす
- 生活領域での危険性: 入店拒否に留まる差別も、病院、救急医療、生活保護行政などでは生死の選別に容易に結びつく
- 社会防衛との結合: レイシズムは人種化した他者の死を、人種化した自分たち社会の生とリンクさせる
- 社会の危険の人種化: レイシズムは社会の危険を「人種」として作り上げるため、その「人種」の人口を減らし、入国を拒否し、死なせ、殺す
- コロナ禍でのヘイトクライム: 欧州でコロナウイルス流行を受けて中国人やアジア系に対するヘイトクライムが頻発した理由は、社会の危険(感染症)を人種化された「中国人」「アジア系」として作り出したためである
■ 6. 権力としてのレイシズム
- 権力の再定義: ここでいう権力とは国家権力のような強制力ではなく、人々の行為を作り上げ生み出すポジティブな力である
- 行為を可能にする力: 権力とは自由がある状況下で、人々が特定の行為を行えるようにする力を意味する
- 社会関係による生成: レイシズムの機能はイデオロギーでも制度でもなく、一人一人の行為が日々生み出している社会関係によって作られている
- 個人の振る舞いの効果: レイシズムとは人種化して命を奪うことを可能にする、一人一人の振る舞い方が生み出す効果である
- 人種差別を可能にする力: 人種差別を発展させ、暴力として現象させ、生死選別時に人種を持ち込むことで人の命を奪う独特の力がレイシズムである
■ 7. 反レイシズムとの対抗関係
- 抵抗の可能性: 反レイシズムによる抵抗次第で、レイシズムは抑制することができる
- 権力と抵抗の関係: 権力があるところには抵抗があり、権力とは行為と行為の関わり合いであるため、抵抗は常に権力の内部にある
- 対抗関係での機能: レイシズムは人種化して殺そうとする権力と、それに抗して差別と暴力に反対する反レイシズムとの対抗関係の中で機能している
- 反レイシズム闘争の有効性: 危険な人種など存在しないこと、生死の選別に抗すこと、人種の分断線自体が差別であると反対することなどの具体的対抗は有効である
- 欧米での成果: 欧米諸外国では反レイシズム闘争が一定の成果を挙げ、差別禁止法や極右規制などの政策として制度化されるに至った
■ 8. 日本の特殊性と構造的問題
- 反レイシズム闘争の不在: 日本では欧米のような平等なシティズンシップを闘い取り対抗的な反レイシズム規範を形成する闘争を作れなかった
- レイシズムの自由な機能: 日本ではレイシズムの人種化して殺す権力がほとんど抵抗に遭わないまま、欧米に比べてかなり自由に機能することができる
- 1952年体制: レイシズムと国境の壁を癒着させることで、レイシズム政策なしにレイシズム政策を貫徹することが可能になった
- 民族差別の偽装: 民族差別を国籍区別に偽装することを可能にする法的制度が固定化された
- 戸籍による制度化: 日本では社会の内的境界が戸籍によって制度化され、日本型イエ制度の法制化によってレイシズム法がないままレイシズムを制度化することに成功した
- 在日朝鮮人の国籍剥奪: 戦後に在日朝鮮人から国籍を剥奪し、入管法によって外国人政策を代用する1952年体制によって、レイシズムが作り出す社会の外的境界と内的境界を限りなく一致させた
■ 9. 欧米との比較による日本の位置
- 欧米の反レイシズム規範: 欧米では反ファシズム闘争と戦後の反ネオナチ闘争によって反レイシズム規範が成立した
- 内的境界の禁止: 欧米ではレイシズムが作り出す社会の内的境界(ユダヤ人差別や黒人差別)が少なくとも建前としては禁止になった
- 外的境界への逃避: レイシズムは社会の外的境界(外国人か国民か)という国境や国籍を通じた「区別」に逃げ込むことになった
- ナショナリズムへの隠蔽: 反レイシズムによって、ナショナリズムに隠れてレイシズムが機能するという高等戦術の採用が強いられた
- 日本の反ファシズム運動不在: 日本は欧米のような反ファシズム運動も公民権運動もなかったため、レイシズムが有効な反レイシズムとの対抗に直面しなかった