■ 1. 筆者の立場と背景
- 高市早苗氏が憲政史上初めて女性の内閣総理大臣に任命された10月21日、筆者は国会議事堂の衆議院本会議場の傍聴席にいた
- 筆者は物見遊山で行ってみることにしたが、任命の瞬間は心は冷めまくっていた
- 筆者は2023年に男女同数議会を20年以上も維持する神奈川県大磯町を取材した本を出版している
- 女性議員を増やしたいという願いがあり、その参考になればと思ってのことだった
- 筆者自身が中高年シングル女性で、男性稼ぎ主モデルを土台とし女性には結婚がセーフティーネットとなるような日本の社会構造からこぼれ落ちてしまう属性にある
- 長年生活困窮やさまざまな困難に遭い続けてきた
- 「私のような『ひとり』が安心して暮らせる社会を築いてほしい」という願いを込めて、その本の中で「社会にある構造的な問題や概念を政治から根本的に正そうとする女性の政治家がいてほしい」と書いた
■ 2. 高市総理への失望の理由
- 連立政権合意書の問題:
- 自民党と日本維新の会が発表した連立政権合意書には経済対策はあっても労働政策は見当たらなかった
- 中高年シングル女性が抱える問題の根本に非正規雇用の多さや賃金の安さがある
- 日本社会の停滞の要因は30年間まるで上がらない賃金に要因があるのではないか
- 現在の中高年シングル女性の中年層は就職氷河期世代にドンピシャで、初職から非正規でリスキリングをしても正規職に就けず昇給も昇進もなく、能力を生かす前に能力を期待されないまま20代から40代、50代を生きてきた人が多い
- 筆者が女性の政治家に期待するのはそうした労働環境を変えることだが、そんな気はさらさらないようである
■ 3. 高市氏の過去の発言への批判
- 2012年の発言:
- 高市氏は保守系議員の研修会で「さもしい顔してもらえるものはもらおう。弱者のフリして得しよう。そんな国民ばかりじゃ国は滅びる。人様に迷惑かけない社会へ。もう一度、日本を奴らから取り戻そう」と発言している
- 生活保護の不正受給者のことを話したと弁明したが、生活保護の不正受給率は支給総額のわずか0.3%である
- ほとんどが複雑な制度を理解できないことでの勘違いやミスと言われているのに国が滅びるとは何をかいわんやである
- 裏金問題への姿勢:
- 高市総理は自民党の総裁選以降一貫して自民党の裏金問題を終わったものとして言及してこなかった
- 「さもしい顔してもらえるものはもらおう」とするのは一体誰のことだと聞きたい
- 昨年の衆院選挙では立候補した裏金議員46人のうち28人が落選した
- 国民は裏金問題にノーを突き付けたのに、派閥裏金事件の全容はいまだ解明されていないし再発を防ぐための企業・団体献金の全面禁止も棚上げされてしまった
- 筆者は女性議員を増やしたいと言ってきたが、そういう政治をする女性を増やしたいわけじゃない
■ 4. フェミニストとしての葛藤
- 「たとえ自分と思想信条が違っていても、一般家庭に生まれた女性が刻苦精励の末に憲政史上初の女性総理になったのだからその点だけは祝福するのが普通の感覚ではないですか」という意見がある
- 「フェミニストなら応援しないでどうする?」という見知らぬ人からのポストも届いた
- 確かに筆者はフェミニストであるが、ことは総理大臣なのである
- もしこれが「戦後ずっと高齢男性議員しかいない地方議会に女性が初めて当選しました」というのなら、よほどの差別主義者でもなければ思想信条はさておいて祝おうという気にもなるが、国のリーダーとなれば私たちの生活がかかっている
■ 5. 労働政策への懸念
- 総裁に就任した際、高市氏は「私自身もワークライフバランスという言葉を捨てる」と宣言した
- 首相になるとすぐに厚生労働大臣に「労働時間の規制緩和検討」を指示した
- 連立政権合意書に労働政策はなかったのに出してきたのが労働者を追い込む方向である
- 長時間労働の影には常に女性の家庭内無償ケア労働がある
- これまで政府が目指すとしてきた「新しい資本主義」の看板は下ろす方針である
- 新しい資本主義では最低賃金を2020年代中に全国一律時給1500円にする目標を掲げていた
- 高市総理は生活に苦しむ市民へのまなざしが欠けていると感じるので、この目標が後退するのではと心配である
- 物価高の今、単身世帯では時給1500円でも暮らすのは厳しい
■ 6. フェミニズムの定義と結論
- 2019年の東京大学入学式の祝辞で上野千鶴子氏が言った言葉:「フェミニズムは弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想です」
- フェミニストであるからこそ筆者は、弱者が弱者であることが許されないような社会構造をさらに極める方向に政治を進める高市総理誕生を祝う気には到底なれない