■ 1. 立花孝志氏の逮捕
- 2025年11月9日、「NHKから国民を守る党」(N国党)党首の立花孝志容疑者が名誉毀損の疑いで兵庫県警に逮捕
- 兵庫県知事をめぐる内部告発に関して竹内英明前県議(2025年1月に死去)の名誉を傷つけた容疑
- 逮捕については様々なメディアで議論が続いている
■ 2. 逮捕をめぐる議論
- テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」でのコメンテーター玉川徹氏:
- 「政治活動の自由、表現の自由は最大限守られなければならないというのは大前提」
- 「その過程で誰かを傷つけたり虚偽の犬笛を吹いて多くの人から攻撃をさせることをやった。そういうことがいいはずがない」と批判
- 堀江貴文氏:
- 「典型的な人質司法的な」案件
- 「『逮捕されたら犯罪者である』みたいな言動が行われている」とYouTubeで疑問を呈する
- 兵庫県の斎藤元彦知事:
- 「捜査中でありコメントは差し控えさせていただく」
- 本稿執筆時点(2025年11月12日)では起訴もされておらず裁判になるかどうかも分からない
■ 3. 筆者の立場
- 元関西テレビ記者で神戸学院大学の鈴木洋仁准教授
- 立花氏やN国党について批判をしたいわけでも擁護したいわけでもない
- あらためて「立花孝志」とは何なのかを考えるきっかけにしたい
- なぜ私たちはここまで彼について語るのかを問う
■ 4. 立花孝志氏の経歴
- 1967年、大阪府泉大津市生まれ
- 府立信太高校卒業後にNHKに入る
- 最初に世間に知られたのは2005年の週刊文春での内部告発
- 記事:「NHK現役経理職員立花孝志氏懺悔実名告白 私が手を染めた裏金作りを全てお話しします」(週刊文春2005年4月14日号)
- 当時、「紅白歌合戦」のプロデューサーによる巨額の横領事件をはじめNHKの不祥事が相次いでいた
- 立花氏の告発はNHKの組織としての不健全さを明らかにし大きなインパクトを与えた
■ 5. NHK退職までの経緯
- 「スポーツ放映権料の秘密を公開したため懲戒停職1カ月」
- 「オリンピックで裏金を作ったとして懲戒出勤停止7日間」の処分
- 2005年7月末日で退職
- 内部告発の動機:
- 「自分のために生きるな。公のために尽くせ。人のために働くことは美しいことなんだ。嘘はつくな。曲がったことはするな」
- 立花家に脈々と受け継がれてきた教え
- 「心の底からこみ上げてくる正義感が僕を突き動かす」
- この「正義感」こそ「立花孝志」とは何かを考えるキーワード
■ 6. 政治家になったきっかけ
- NHK退局後は「2ちゃんねらー」「パチプロ」「ジャーナリスト」「革命家」として活動
- 当時の大阪市長・橋下徹氏の「一言」がきっかけ
- 「在日特権を許さない市民の会」初代会長・桜井誠氏との公開対談での橋下氏の発言:
- 「そんなに言うなら市民活動ではなくて自分で政党立ち上げてやれよ」
- 「無名の自称ジャーナリスト」として橋下市長の記者会見で質問した際:
- 「NHKの受信料問題に大阪市長として取り組むつもりはありません」との返答
- この「一言」で「政治家を志すことにしました。自分でやろう、と」
■ 7. 橋下徹氏との類似性
- 橋下氏:「大阪維新の会」をつくりその後に国政政党「日本維新の会」につなげた
- 立花氏:「NHKをぶっ壊す!」のワンイシューで政党要件を満たすまでに勢力を広げた
- 両者には似ているところがある
■ 8. N国党と維新の共通点
- 選挙ウォッチャーちだい氏の分析:
- 「維新は『ホワイトカラーに狙いを定めたN国党』」
- 「N国党は『下層・旧中間層に狙いを定めた維新』」
- N国党の政治活動の本質は「ハラスメントの連鎖」
- 「精神的暴力」であり「暴力の連鎖」
- 立花氏の選挙手法:
- 「毎日のように駅頭に立ち続ける」
- 「典型的な『ドブ板選挙』」
- 類似点はそのターゲットとそれに伴う選挙のやり方
■ 9. 既得権益層への憎しみ
- 「ドブ板選挙」が少なくない人の心をつかんできた
- 既製政党への忌避感
- ここ数回の国政選挙での参政党やれいわ新選組といった「新しい」政党への支持にもつながる
- 大きな政党に所属している人たちは「既得権益」を持っているように見える
- 立花氏が標的としたNHKが典型
- 橋下氏が批判してきた大阪の自民党や民主党(当時)も同じ
- いかにも甘い汁を吸っていそうな人たち、情報を隠していそうな人たち
■ 10. 目に見える「成果」
- NHKは立花氏の内部告発により不正がただされ立花氏自身が処分された
- 大阪府と大阪市の「改革」:
- 賛否の声があるとはいえ府立大学と市立大学の統合をはじめとして「目に見える」かたちでの「成果」が出た
- 選挙結果:
- 2019年の参議院選挙でN国党は議席を獲得
- 2024年の衆議院選挙では日本維新の会がすべての小選挙区で議席を得た
- 自民党は発足以来初めて衆議院でも参議院でも過半数を割り込み日本維新の会と連立を組まねばならなくなった
- 与党だった公明党は比例代表での得票数を大きく減らし続けている
- この流れは既得権益層(だと思われている政党や人たち)への憎しみと言えるほどの感情に基づいている
■ 11. N国党の戦術
- 選挙ウォッチャーちだい氏:
- 「N国党は一般に『ネットを使った先鋭的な選挙戦術』で勝ってきたイメージがあるかもしれない」
- 「しかし実際は地方議会への進出にあたり最も古典的な戦術をとっている」
- この点は参政党にも通じる
- 逆に自民党や公明党、共産党といった古くからある政党が最も弱くなっているところ
■ 12. 「第二の立花孝志」の可能性
- 仮に今回「立花孝志」を糾弾したり罰したりしたところで第二、第三の「立花孝志」が出てくる可能性
- 参政党の勢力拡大を見ればすでに登場しているどころか日本中に広がっている
■ 13. 立花孝志は「踏み絵」
- 「立花孝志」をどう見るのかは私たちにとって「踏み絵」
- 既得権を持っている層と持たざる層を分ける「踏み絵」
- 立花孝志を批判する人たちには:
- 支持者が逆恨みしているというか狂信者のように見える
- 立花孝志を支持する人たちには:
- 批判者が既得権益をむさぼっているように見える
- 既得権益を持つ層は情報を隠蔽しており、それに関して真実を教えてくれるのが「立花孝志」であるという構図
■ 14. マスコミの見落とし
- N国党も参政党も「ドブ板選挙」を徹底
- 既得権益を持たない人たちの声を聞いてくれていると印象づけている
- れいわ新撰組や国民民主党の街頭演説も聴衆にマイクを渡して質問を受け付ける時間を多く取っている
- これまで聞いてもらえなかった声を確実に聞いてもらえているそう実感させる
- ときには罵声を浴びたりヤジで演説が掻き消されたりする場面をくぐり抜けて「立花孝志」は活動してきた
- 重要な指摘:
- 「なぜ『立花孝志』が求められたのか」をNHKをはじめとするマスメディアは理解していないし理解しようとすらしていないのではないか
- 今回の逮捕報道にあたっても「立花孝志」が是なのか非なのかその功罪というよりも「罪」が確定したかのように報じている
■ 15. 筆者の主張
- 「踏み絵」だから踏むべきだとも踏まないべきだとも言いたいわけではない
- なぜ「踏み絵」になっているのかそのきっかけを分かろうとしなければならないと主張
- 「立花孝志」が「踏み絵」である限りにおいて踏む人たちと踏まない人たちの間の溝やズレは埋まらないどころか広がるばかり
- 私たちに求められるのは「踏み絵」を避けその理由を考えようとする謙虚な姿勢ではないのか