■ 1. 児童虐待の現状と統計データ
- 令和5年の児童虐待相談件数は22万件で過去最大を記録している
- 虐待者の内訳は実母48.7%、実父42.3%と母親の割合が高い
- 令和3年度の虐待死亡事例77人のうち実母が38人(49.3%)、心中では75%を占める
- 実父による死亡は10人(12.9%)、心中は16.7%で、トータルでは実母が実父の約4倍となっている
- 検挙数では実父が実母の約2倍であるが、これは女性の司法割・行政割によるものと考えられる
- 実際には現代では母親による虐待が圧倒的に多いと推測される
■ 2. 離婚件数と虐待死の相関関係
- 未成年の子どもがいる離婚件数は平成15年頃にピークを迎え、以後緩やかに減少傾向にある
- 子どもの虐待死は離婚件数のピークから数年遅れて平成18~19年頃にピークを迎えた
- その後緩やかに減少し、近年はほぼ横ばいとなっている
- 離婚件数の減少は婚姻数や出生数の減少に伴うものである
- ひとり親家庭では虐待リスクが3倍以上になるという研究結果がある
- 離婚数と虐待死件数には相関関係があると考えるのが妥当である
■ 3. 母親の虐待動機と実態
- 母親による子殺しには「追い詰められて仕方なく」という擁護の声が上がることが多い
- 司法でも虐待死のほうが単純殺人より罪が軽くなる現象が見られる
- 20~30年前の母親による子殺しの執行猶予率は6~8割という高率であった
- 心中以外の加害動機:
- 「しつけのつもり」が上位を占める
- 「泣き止まないことにいらだった」が上位を占める
- 「子どもの存在の拒否、否定」が上位を占める
- 死因の実態:
- 撲殺、頸部絞扼による窒息、溺水、ネグレクトなどが上位を占める
- 愛情があったとは思えない殺し方がされている
- 安楽死的な毒殺などはほとんど見られない
- ひとり親(同居あるなし)、内縁、再婚を合わせると292人で全体747人の約4割を占める
- 「母親が追い詰められて仕方なく虐待してしまう」という神話は嘘である
- 虐待は「仕方なく」ではなく「やりたいからやっている」と言える
■ 4. 「皿洗い理論」の検証
- 「母親の育児時間が長いから虐待しやすい」という言説が存在する
- 同条件での比較による実態:
- 母親サイド(ひとり親、内縁関係、再婚等含む)の虐待死は277件である
- 父親サイド(ひとり親、内縁関係、再婚等含む)の虐待死は23件である
- 母子家庭は約120万世帯、父子家庭は約15万世帯である
- 母子家庭での虐待死発生率は父子家庭の1.51倍となる
- 実母のみと実父のみの比較でも実母は実父の1.38倍である
- 両親揃っている家庭との比較:
- 父子家庭でのリスクは5倍である
- 母子家庭でのリスクは7.6倍である
- 生後ゼロ日のケースを除外すると父子家庭、母子家庭の有意差はなくなる
- 交際相手まで含めると母子家庭は父子家庭の1.26倍リスクが高い
- 選択バイアスの可能性:
- 母親はどんな母親でも単独親権者になれる可能性が高い
- 父親で単独親権者になっている人はまともな人が多い可能性がある
■ 5. 死別と離別の決定的な違い
- 死別家庭では心中以外の虐待死が約20年でゼロである
- 母子家庭の死別は令和3年で5.3%、過去20年で概ね10%前後である
- 父子家庭の死別は20%前後である
- 「皿洗い理論」では離別の1割程度は虐待死があってもおかしくないはずである
- 導き出される結論:
- 虐待死は子供を見ている時間に比例するものではない
- 虐待の素因がある人間が実行可能な環境になった際に実行する
- 母子家庭で虐待が多いのは父親が不在で止める人間がいないためである
- 離婚をする人間の特性:
- 有責の配分に関わらず他者と共同生活を続けられなかった人間である
- 問題のある人間である可能性が一般の人より高い
- 死別の場合:
- 不慮の病気や事故で配偶者がなくなったケースが大半である
- 親は普通の人間である可能性が高い
- 一律に母親に親権を渡している現状が虐待リスクに拍車をかけている
■ 6. 育児能力と非認知能力の関連
- 実母による虐待の背景として「育児能力の低さ」が約3割認められる
- キャパの低い母親が暴力に頼ってしまうと考えられる
- 虐待と非認知能力の低さは密接にリンクしている
- 日本の上昇婚傾向:
- 多くの女性が上昇婚を望んでいる
- 認知能力、非認知能力ともに夫側のほうが高い可能性がある
- 一律に母親に単独監護させていることが虐待リスク上昇につながっている可能性がある
■ 7. 女性の結婚相手選好と経済的要因
- 世界共通で高所得男性や高学歴男性は結婚相手として好まれている
- 日本は特にその傾向が顕著である
- 2015年の調査結果:
- 経済状況を「考慮する」「重要」と回答した女性は94.0%(男性は40.5%)である
- 職業を「考慮する」「重要」と回答した女性は84.9%(男性は43.9%)である
- 学歴を「考慮する」「重要」と回答した女性は53.9%(男性は28.7%)である
- 女性は平均して自分より1~3歳年上の男性を好む傾向がある
- これらから女性は上昇婚思考があると解釈できる
■ 8. 非認知能力の定義と重要性
- 非認知能力はOECDにより「社会情動スキル」と定義されている
- 「長期的な目標達成、他者との協働、感情の管理に関わる個人の思考、感情、行動パターン」とされる
- 学力やIQといった認知能力とは異なり数値化が難い
- 個人のwell-beingや社会、経済的成果に重要な影響を与える
- 非認知能力と労働市場成果の関連:
- 学歴や認知能力と同等かそれ以上に労働市場成果を説明する可能性を持つ
- 幼少期の自制心と将来の関連:
- 1000人を出生から32歳まで追跡した調査が実施された
- 幼少期の自制心が将来の身体的健康、薬物依存、個人的財政、犯罪行為の結果と結びつく
- 基本的に高収入、高ステータスの人間は非認知能力が高い傾向にある
■ 9. 非認知能力と育児能力の関連
- 非認知能力には性格におけるビッグ5という因子がある
- ビッグ5の構成要素:
- Openness(開放性)
- Conscientiousness(誠実性)
- Extraversion(外向性)
- Agreeableness(調和性)
- Neuroticism(神経症的傾向)/Emotional Stability(精神的安定性)
- 2024年の11061人を対象とした28の研究のメタ解析結果:
- 神経症的傾向は無関心、育児放棄的な子育てスタイルと正の相関関係がある
■ 10. 共同養育による虐待減少効果
- 社会との繋がりがない能力が低めのひとり親が虐待リスクが非常に高い
- 共同養育することが有用である
- 子の実の親であれば他家庭への介入が可能である
- 米国ケンタッキー州の事例:
- 2018年に米国で初めて離婚時に平等な養育時間(50対50の監護を原則とする)を推定する法律が施行された
- 隣接するオハイオ州と比較して児童虐待の調査または対応を受けた子の数が激減した
- 2017年から2021年までの変化率はオハイオ州で-2.5%、ケンタッキー州で-33.2%である
- この期間に変わったことは平等な養育時間推定の法が定められたことのみである
- オハイオ州内の地域差:
- 郡ごとに「標準養育時間」規定を定めることが義務付けられている
- 最も平等な養育時間を定めるものをAランク、最も時代遅れの養育時間をDランクとした
- AランクとDランクでは虐待発生率にかなりの差があった
- 共同養育と虐待発生率には少なくとも相関関係がある
■ 11. 結論
- 母親による虐待が多い理由は虐待のリスクがある母親が比較的実行しやすい環境にいるためである
- 育児能力の低さ、非認知能力の低さが虐待リスクにつながる
- 多くの女性が上昇婚を求める日本での一律母親単独親権は危険である
- 離別者は一般人口より問題のある人間である可能性が高い
- 能力の低い母親にも親権を与えてしまう強制母親単独親権は危険である
- 共同養育は虐待を減らしうる