■ 1. 映画公開と法的問題の未解決状況
- ドキュメンタリー映画『Black Box Diaries』が12月12日から東京で公開される
- 民事訴訟で伊藤詩織さんの代理人を務めた弁護士らが無断撮影・録音や映像の無許可使用など複数の問題を指摘している
- 今年2月に日本外国特派員協会で両者の記者会見予定だったが伊藤さんは急きょキャンセルした
- 伊藤さんは「個人が特定できないようにすべて対処します」とコメントしたがその後も海外では修正されていない映画の公開が続いた
- 11月にタクシー運転手への無許可撮影について和解し謝罪したがこれ以外の問題点については一切説明が行われていない
■ 2. 西廣陽子弁護士による問題点の指摘
- 無断録音被害の当事者である西廣弁護士がコメントを発表した
- 「対処した」という連絡は現在まで届いていない
- 西廣弁護士が蔑ろにされたと感じた具体例:
- ホテルへの誓約書を連名で差し入れたが破られた
- 防犯カメラ映像使用の承諾を求めたが守られなかった
- 映画の事前確認を約束されたが確認させてもらえなかった
- 電話での会話を無断で録音された
- 防犯カメラ映像を「使わない方向で」という回答だったのに使われ続けた
- 「対処します」と言ったのに修正のない映像が流され続けた
■ 3. 説明機会の拒否とその理由
- 9月8日に伊藤さんの代理人弁護士から本人から説明するので日程調整をという連絡があったが西廣弁護士は断った
- 6月下旬以降の問い合わせに対して「海外向け配給権を譲渡したので把握していません」等の返事が繰り返されていた
- 西廣弁護士は日本で映画を上映するための既成事実をつくりそれに利用されると感じた
- また無断で録音されるだろうとも考えた
- 伊藤さん側の代理人弁護士はメディアに「くり返し修正バージョンを見てほしいと言ったが拒絶されています」と言っているがそのような事実はない
■ 4. 法的問題の未解決と公益性への疑義
- 指摘した問題点は修正されないまま上映されている
- 全く修正されていない映画が海外で販売されている
- 法的な問題は解決されていない
- 伊藤さんは「公益性」という言葉で映画を正当化しているが西廣弁護士らは公益性はないと考えている
- 「映画を見て判断して欲しい」という主張について問題のある映画を上映すること自体が問題である
- 「公益性」や「映画を見て判断して欲しい」という言葉自体が具体的な説明のない「ブラックボックス」として使われている
■ 5. 映画が性被害救済に与える悪影響
- ホテルとの約束に反してホテルの映像を使用することは今後ホテル等から裁判上の立証への協力を得られなくなるおそれを生じさせる
- ただでさえ立証の手段が限られる性被害について映画はその救済の途を閉ざすものであるとの批判を免れない
- 捜査官の音声や映像を使用することは本来守らなければならない公益通報者や取材源を世の中に晒すことでありジャーナリストとして決して行なってはならない
- 映画は重大な人権上の問題を孕んでいる
- 西廣さん側は伊藤さん側の代理人弁護士に対して内容証明を送る事態となっている
■ 6. 東京新聞による擁護の「カルト化」批判
- 問題が複雑化しネット上では「映画が日本で公開されなかったのは権力による圧力」といった根拠のない風説が流れた
- 元弁護団への誹謗中傷やバッシングも続いた
- 東京新聞は11月26日付夕刊コラムで「伊藤氏を特別な性被害者として神聖化し告発のためなら多少の人権侵害には目を瞑ってもいいとして擁護する人々も存在する」と指摘した
- 「自分が応援する人や仲間をやみくもに庇い間違いがあっても見過ごし批判する人たちを攻撃する仕草はこのところさまざまな場所で見られる危うい現象だ」と批判した
- 「カルト的な権威者を作り出すべきではない」と厳しく批判している
■ 7. 映画の編集手法とミスリード
- 山崎エマさんのエモーショナルな編集力は見事である
- 映画だけ見れば決定的な証拠があったのになぜ検察は不起訴にしたのかと思う人が多いだろう
- 実際には伊藤さんには致命的といってもいい不利な証拠があり元弁護団は頭を悩ませた
- 映画ではこの証拠については一切触れられていない
- ホテルの防犯カメラ映像やタクシー運転手・ドアマンの証言が裁判で重要な役目を果たしたかのように完全にミスリードされている
- これらの証拠を伊藤さんが一人で集めたかのような印象を持つが実際は弁護士も関与している
■ 8. 伊藤さんに不利な証拠の存在
- 致命的に不利な証拠となったのは産婦人科のカルテで性行為の時間が「AM2:00〜3:00」と書いてあったこと
- 伊藤さんは被害に遭ったのは早朝5時頃と証言していた
- 被告である山口敬之氏側は目を覚ました伊藤さんと2時〜3時頃に同意の元で行為に至ったと答弁書に記していた
- カルテに記されていた時間は山口氏側の証言と一致していた
- 事件当日の串カツ店と鮨屋では伊藤さんが手酌で積極的に酒を飲んでいたことや他の客に話しかけたり素足で歩くなどしたことが証言されている
- レイプドラッグの使用については裁判で認められておらず伊藤さん側が名誉毀損裁判でこの点について敗訴している
■ 9. ジャーナリズムとしての疑義
- 伊藤さんはこの映画を「調査報道」「ジャーナリズム」と主張している
- しかしそうであるならば産婦人科医・串カツ店・鮨屋にも取材し自分に不利な証拠も検証すべきだった
- これら一切を伏せてインパクトのある映像や感動的な場面だけを見せ検察の判断がおかしいとか政権の関与があるはずだと海外に広めるのはジャーナリズムと言えるのか
- 性犯罪裁判では被害者にとって都合の良い証拠ばかりではないから被害者が苦しむ
- なぜ証拠の半分を隠した映画が「真実」で他の被害当事者を救うことになるのか疑問である
- 映画によって広めたかったナラティブや「伊藤詩織像」は作られたわかりやすいストーリーとヒロイン像として少なくない数の人の心を打つだろう
- 伊藤さんは12月12日からの公開でメディアセッションや舞台挨拶に立ち15日に日本外国特派員協会で会見を行う予定である