■ 1. 書籍刊行の背景と中止された授業
- フランスで哲学者ペギー・サストルと政治学者レオナルド・オルランドの共著『性別・科学・検閲』が刊行された
- 性差には科学的な裏付けがあるが近年は一部の活動家が「性差などない」としつこく否定し続けている
- 社会が「再適応の時代」を迎えているためこのような事態になっている
- 女性の解放や社会のデジタル化といった環境の大変化が進むなか人間という生物もその環境の変化に折り合いをつけていかなければならない
- 著者は知的議論をする場の雰囲気が息苦しくなっていることに強い苛立ちを感じていた
- 2022年にパリ政治学院で男女の性差を生物学や進化の視点から考える授業をする予定だったが開講直前に活動家たちの圧力を受けて中止に追い込まれた
- 同様の事態がベルリンの大学・ハーバード大学・グーグルでも起きている
- 男と女が存在していて脳にもまったく男女差がないわけではないと話そうとするとイデオロギー装置が起動して検閲が始まる
■ 2. 性差研究を巡る検閲と沈黙
- 2000年代の前半から性差についてあえて無知を装う「壁」がどんどん分厚くなってきた
- 何世代も前から研究者は性差が実在することを知っていたが活動家からのリンチをおそれて口を閉ざすようになっている
- この本は「そのような壁を突き崩したいせめてグラつかせたい」という思いから生まれた
- 大学内の一部の勢力が取り上げた知識を公の場に戻しジェンダーの議論に有害な影響を及ぼしているイデオロギー色の強い物語の類を取り除いていきたい
■ 3. 男性がパートナーに求めるもの
- 男性たちが見ているのは何といっても繁殖能力の高さを示すサインである
- それは若さや健康状態・ウエストとヒップの比の好ましさだったりする
- 男性たちがそういうところを見るのは見かけだけで人を判断しようとするバカだからではない
- これは何千年もの間そういったサインを見分けられる男性のほうがより多くの子孫を残せた結果である
- 男性の行動はその論理で動いているところがある
- 状況によってはそれに加えて身持ちの堅さや優しい人柄・子育てへの積極性などが見る指標として入ってくる
■ 4. 女性がパートナーに求めるもの
- 女性が求めているのは何よりもまず安全である
- この安全というものは時代によって姿を変える
- 昔は肉体の強さや危険な肉食動物を追い払える力だったが現在は有能さやステータス・子育てにしっかり関われる適性といったところが重視されている
- ほかの哺乳類のメスと同じで人間の女性もつねに慎重でなければならない
- 妊娠すれば命を落とすリスクもあり子供を育てるには何年もかかる
- 女性はどうしても選り好みをする
- 相手には安定した生活基盤があるのか・関係にコミットしてくれるのか・自分と子供を守る力があるのかといったことに関するサインを注意深く見る
- これは進化のなかで生まれた合理的な行動である
- 女性のことを「金銭ずくだ打算的だ」と責める人は女性がパートナー選びで間違ったとき生物としてどれほど莫大な代償を支払うはめになるのかをまったくわかっていない
■ 5. 家父長制批判と性市場の規制
- 進化心理学の理論をもとに家父長制や男性支配といった考えを否定している
- 家父長制は物語としては使い勝手がいいが真実を伝えているわけではない
- 人はよく「人類の歴史は男たちが結託して女たちを蹂躙してきた大きな陰謀だ」と考えたがる
- そう言えば話が単純で誰が悪役なのか簡単に指させ女性たちは自分たちが被害者なのだと言える
- しかしこの話に科学的な根拠はない
- 実際の人類の歴史は男と女という子孫を残す方法が大きく異なる二つの性が何世代もかけて交渉し合いそれなりに安定した取り決めにたどりついたという物語である
- 女性たちは長い間最も強い男性・最も勇気がある男性・ときには最も暴力的な男性を選んできた
- そうすれば子供が保護され自分たちの生活が安全になるからである
- 男性たちは女性たちに選ばれるためにできるだけ多くの資源を獲得しようとし正気とは思えないリスクも冒した
■ 6. 社会制度の形成と生物学的視点の重要性
- 男性たちの計画によって家父長制が作り上げられたわけではない
- 男女が対立しながらも妥協に至って社会の形ができあがった
- 社会は暴発しやすいこの性市場というものを規制するためにさまざまなルールを考案した
- それが結婚制度や禁忌・道徳や法律である
- こういったルールは男性同士の競争が殺し合いに発展したり女性たちが選り好みをしすぎて子供が生まれなくなってしまったりするのを防ぐためのものだった
- すべてを家父長制で説明しようとするのはあたかも「強くて悪い男たち」対「優しくてかわいそうな女たち」という構図のネットフリックスのドラマを現実だと考えるようなものである
- このような考え方はフェミニズムの理性を曇らせてしまう
- 生物学を否定しているようでは社会の不正とは闘えない