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「国民に覚醒を呼び掛けてほしい」元衆議院議長が高市早苗首相に求めること

要約:

■ 1. 高市総裁への期待と国民の覚醒

  • 多党化が進み政局が混迷するいま宰相には何が求められるのかを元衆議院議長の伊吹文明氏に聞いた
  • 2025年10月4日に高市早苗元経済安全保障担当相が自民党の新総裁に選出された
  • 伊吹氏は昨年の総裁選前に「国民の意識を変えるリーダーシップ」の重要性を強調していた
  • わが国のいまの経済状況を見れば積極的に設備投資をすることで時間単位の生産性を高めるとともに国民一人ひとりが目的のために頑張って働くよう意識が変革しなければ各国に対抗できる経済は再生できない
  • 新しい政治リーダーにはできるかぎり条件や環境を整えることを約束したうえで国の将来は国民の皆さまの双肩にかかっていることを率直に述べ日本をいま一度世界のなかで存在感のある国にするためにともに歩んでいこうと呼びかけられる人であってほしい

■ 2. ケネディとサッチャーの事例

  • 国民の皆さまが「自分たちの未来を切り拓いてくれる」と予感できる政治家でなければいけない
  • 権力の上に胡坐をかいたり政治家である以前に世間様に顔向けできないようなことをしたりしている人間では共感を得られない
  • 歴史を振り返れば:
    • アメリカのケネディ大統領は大統領就任演説の際に国民に対して「国が自分に何をしてくれるかではなく自分が国のために何ができるかを考えてほしい」と訴えかけている
    • イギリスのサッチャー首相は国民に向けて「政府だけでは力は限られ国民の支持があってこそ成功する」というメッセージを投げかけている
  • 政治が国家の未来に対して大きな責任を負っているのは事実だが国とは国民の存在から成り立っているわけでケネディもサッチャーもだからこそ国民に協力を呼びかけた
  • この二人は国民を納得させられるだけのリーダーシップを備えていた

■ 3. 高度経済成長期の教訓

  • 高度経済成長期にしても国民の力が成し遂げた事例と言える
  • 当時の日本は現在ほど豊かではなくアメリカの生活水準に憧れていた時代だった
  • 池田勇人首相が「所得倍増計画」というスローガンを打ち出し国民のあいだで「自分たちも家電の三種の神器をもてるんじゃないか」「頑張ればいい家に住めるはず」という空気が醸成された
  • 当時と現在ではさまざまな環境が違うからただ昔を回顧するだけでは意味がない
  • それでも日本をふたたび世界のなかで存在感ある国にするには政治家と国民が同じ方向を目がけて進んでいかなければいけない

■ 4. 高市総裁の評価と懸念

  • 高市総裁が総裁選に勝利したあとの両院議員総会で自民党の議員に向けて「ワークライフバランスを捨てて働く」などと決意を表明した発言は物議を醸した一方で新総裁の覚悟に共感したと反応した国民もいた
  • 高市総裁はよく勉強されているのは間違いない
  • あとはご自身の政治家としての理想を実現するための能力があるかどうかである
  • 確たる理想をもつのであればさまざまな現実の制約のなかでいかに我慢しながらたとえ歩みは遅くとも一歩ずつ地道に着実に進んでいく
  • 高市総裁にこれから求められるのはその力でありあまり性急に物事を運ばないようにお願いしたい

■ 5. 人間関係構築の重要性

  • 一つ懸念を申し上げるならば高市総裁に与野党問わずどれだけの人脈的な広がりがあるのかということである
  • 石破前総裁も彼を助けてくれる周囲の人間が非常に少なかった印象で結局はかなり苦労された
  • 高市総裁の場合も党役員人事を見るとかなり偏った人選であり公明党の連立離脱にしても人間関係が希薄であったことと無縁ではない
  • ビジョンや政策は一人の頭のなかで考えられるが実現するには人間関係が求められる
  • 高市総裁が当たり前のように公明党との連立は継続すると考えていたのであれば権力を行使するうえでは周囲の人間関係への目配りや心配りが大切になることをこの機に自覚されたのではないか
  • 政治は一人ではできないいろいろな人の力を借りなければいけない

■ 6. 多党化時代の現状認識

  • 今後の政局がどう推移しようとも単独過半数を獲得している政党が存在せずまさに政党間の関係や繋がりをどうつくるかが焦点になる
  • 日本という国が随分と豊かになり価値観を自由に主張できるような社会になっているからある意味では多党化が進むのは必然だとする見方がある
  • ヨーロッパでは:
    • ほとんどの国が選挙制度としては比例代表制を採用している
    • キリスト教文化で「天にまします神とわれわれを繋ぐのはキリスト唯一人」という文化が確立されている
    • それが個人の自己主張を是とする文化を生み出し昨今の多党化の背景にある
  • 日本は八百万の神々を信仰する農耕民族で個人よりも共同体を大切にする国民性である
  • 日本人の国民性・文化はともすれば同調圧力を生むがそれでも誇るべき協調・協力の美徳だと思う

■ 7. 保守が果たすべき役割

  • 自由と民主主義には主役が人間ゆえのどうしても避け得ない欠点がある
  • 自由はともすれば我儘と区別がつかない人がいる
  • 民主主義はポピュリズムに陥る危険性をつねにはらんでいる
  • これらの欠点が社会の分断というかたちで世界的な課題として浮上しているわけでそれをどう克服するかが保守にもリベラルにも突きつけられている大テーマだがいまこそ保守が果たすべき役割が大きい
  • 保守とは人間の理性を大切にしたうえで物事を判断するときには自分は間違えるかもしれないというきわめて謙虚な姿勢をつねにもつ思想だとするのが伊吹氏の定義である
  • だからこそいま生きている私たちだけの判断でなく長年にわたって祖先が積み上げてきた文化や伝統・規範に立ち戻って考えていく
  • このように謙虚で慎重で懐が深く異なる考えや価値観を許容するのが保守であるとすればポピュリズムや排外主義に対する防波堤になりうる

■ 8. 自民党のバランスの崩壊

  • 2025年7月の参院選について伊吹氏は自民党の敗因について「左右の羽のバランスが壊れてしまった」と分析している
  • 自由民主党が立党したのは1955年のことで当時はまだ共産主義が日本でも力をもつと危惧されていた時代だった
  • 1955年10月に左右の社会党が統一したことへの危機感からその翌月に自民党が誕生した
  • つまりは自民党とは「反社会主義・反共産主義」を掲げ生産と分配の国家管理に反対する勢力として生まれた自由と民主主義の政党である
  • 当時から保守とリベラルいずれの政治家をも内包する国民政党で思想的には保守とリベラルの混在政党である
  • 保守とリベラルが調和しながら地域社会に根を下ろしてきたのが自民党だったがいま明らかにバランスが崩れ始めている

■ 9. 選挙制度改革の影響

  • 自分の政治理念を言語化できる政治家が少なくなっているように思う
  • 小選挙区制では中選挙区制とは違い選挙区内の過半数の票を獲得することをめざすから必然的に浅く広く有権者に支持されようと考え政治信条が「のっぺらぼう」の政治家が増えているように思える
  • 民主主義において政治を動かす権力を得るにはやはり選挙に勝たなければならない
  • ところが小選挙区制に変わってから支持者や推薦状をもってきた団体が自分のことを支援してくれていると誤解する候補者が目につく
  • 昨今の自民党の凋落はもちろん「政治とカネ」の問題などが主たる理由だがそれだけでなく選挙準備のエネルギーの少なさも大きな原因だと考えている

■ 10. 多党時代の政権・議会運営

  • 現実的にはたしかに多党化の状況が訪れているわけで単独で過半数の議席を獲得している政党はない
  • 比較第一党である自民党からすれば公明党と袂を分かったいま日本維新の会との連立を軸としつつほかの野党とも案件ごとにいかに協力できるかが問われている
  • 少数与党であっても政権を運営するのであれば政治を安定させたうえで国家の安全と国民の日常を守らなくてはならない
  • そのためには予算を通して法律を通すことが必須条件である
  • 国会で多数の議席を得られていないときに権力を行使するにはどこかから人数を借りてこなければならない
  • ここで二つの問題がある:
    • 他党とのあいだで人間的な信頼関係や相互理解を構築するために普段から努力を重ねられているか
    • 野党サイドももしも予算に賛成したのであればそれが部分的であろうが行政権に関与したことを意味するわけですから責任を分担する覚悟がはたしてあるのか

■ 11. メディアとSNSへの対応

  • テレビや活字などのいわゆるオールドメディアは先の総裁選でもことごとく予測を外していた
  • オールドメディアには本来相応の役割があるはずでたとえば甲乙いずれの議論も併記して示すことができる
  • SNSではフェイクニュースも流通しやすいしまた自分と異なる意見は表示されにくい仕組みですから皆が極端な方向に流れる危うさがある
  • 伊吹氏はいまも毎週月曜日にフェイスブックを更新しておりSNSの活用そのものは否定しない
  • 多くの政治家が「どこで何を食べた」「今日は誰と握手した」という類の内容ばかり発信している
  • もう少し自分の政治的な主張や意見を発信してほしい

■ 12. 政治家としての姿勢と世襲問題

  • 政治家だからと言って国民の皆さまの感覚と異なる振る舞いはしないようにしてきたつもりである
  • 大臣や幹事長など党の役員に任命されたり衆議院議長になったり叙勲を受けたりしたときには一度もお祝いをやらなかった
  • 政治家は皆さんから投票していただいて議員に選出されて初めて仕事ができるわけで自分の努力で会社を興したり利益をあげたり社会貢献したりするわけではない
  • 2021年に政界を引退したが当時はもう少し議員を続けるべきだとする意見もいただいた
  • ただ国会議員は国民の皆さまの投票によって主権をお預かりしている立場で任期中に万一のことがあれば有権者の方々に申し訳が立たない
  • 身内の人間を後継に立てるべきとも言われたがそれもお断りした
  • 議員として活動させていただいているのは個人の財産ではないので世襲はするべきではない

■ 13. 政治指導者の要諦と日本への期待

  • 政治指導者は権力と道徳という矛盾したものを両立させなければならない
  • あらゆる制度には長所と短所があるけれども長所を引き出して短所を露呈させないようにするにはその仕組みを使う人間の自己抑制や謙虚さにかかっている
  • 日本をもう一度世界のなかで一目置かれる国にしていただきたいということに尽きる
  • 日本の歴史や憲法を考えると軍事力を強化して外交の交渉力とするのは現実問題として無理だからやはり高度経済成長期のように経済力を甦らせなければいけない
  • 外交交渉力になるほど経済を強くするにはたとえば科学技術への助成や海外からの国内工場誘致など政治がさまざまな努力をしなければならない
  • 強い経済を甦らせるうえでは何よりも労働生産性の向上が必須で日本人が皆一所懸命に働ける社会をつくることをめざさなければならない

■ 14. 高市総理へのアドバイス

  • 高市総理にはぜひとも国民に対して覚醒を呼びかけてほしい
  • 彼女が尊敬しているのはサッチャーと安倍晋三元総理とのことである
  • 安倍さんはとくに第二次政権において:
    • 戦後レジームからの脱却や防衛力強化を進めるなどのきわめて保守的な姿をもちながら
    • 消費税率引き上げの延期や「一億総活躍社会」の提唱などリベラル的な政策を行なうことで権力を維持してきた
  • サッチャーにしても冒頭でお話ししたようにイギリスの栄光を取り戻すために国民に協力を呼びかけている
  • 高市総理が尊敬されているこの二人の政治家のやり方を学べば道は拓けるはずである