■ 1. 創作における「私だけに優しいヤクザ」モチーフの人気
- 女性が「私だけに優しいヤクザ」「私だけに優しい殺人鬼」というモチーフを好む議論が盛んに行われている
- 1990年代以降のレディコミでド定番の題材である
- 新條まゆ「覇王♥愛人」(2003)は典型的な例である
- 時代を超えて安定した人気がある:
- 2016-2021年の漫画や2019年の漫画や2023年のアニメなど無限に例が存在する
- 「私だけに優しいヤクザの話」というタイトルの漫画紹介ポストは14万いいねを集めた
- 「極主夫道」も変奏曲として人気である
- ハーレクインロマンス界隈では「愛にひざまずく暴君」と呼ばれる
- 洋の東西を問わず時間を問わず存在している定番テンプレである
- 「オタクに優しいギャル」よりはるかに定着している
- 10年ほど前に「誰にでも優しい人より私だけに優しい人が好き」という主張のツイートがバズった
- 「女の理想は白馬に乗った王子様ではなく私だけを守ってくれる殺人鬼だから」というポストが1.7万リポストを得た
- 自分に優しい暴力の創作は男女問わないヒットとなっている
■ 2. 現実での「私だけに優しいヤクザ」好きの問題
- 創作のモチーフを現実でやろうとしている女性が少なくない可能性がある
- 家庭内暴力で死亡した女性のニュース報道で犯人の夫が暴力を前面に押し出した見た目をしていた
- なぜ見えている地雷に突っ込んで結婚したのかという突っ込みが多く入った
- 事件報道の共通点:
- 犯人の一種の二面性が存在する
- 基本的には優しいが何か癪に障ったとか酒を飲んだとかなんらかのスイッチが入ると凶悪性をむき出しにする
- 結婚前ないし女性と付き合う前から二面性や凶悪性について十分に認知されていた
- 見た目も含めて凶悪行動をとる人物であると知らなかったわけがない状況だった
- 柏24歳キャバ嬢暴行死事件の例:
- 犯人は基本的には仲間思いだがスイッチが入ると急に人格が変わる
- 癇に障るようなことがあるとすぐ手が出る
- 神奈川妻殴打死事件の例:
- 犯人は常識的な振る舞いをしていた
- 酒盛りの際に決まってキレて後輩の若い男性を怒鳴りまくっていた
- キャバ嬢の属性では「自分には優しくて他人には凶暴」の「他人には凶暴」面を軽視して「自分には優しい」だけしか見ていない
- 夜職をターゲットとした「レンタル怖い人」が大人気だった話は夜職女性の間で「自分にだけ優しいヤクザ」が受け入れられやすいという傍証となる
- 付き合う前は優しかったり結婚までは穏やかなのに付き合った後や結婚後はマジで人が変わったようになる人もいる
- 極端かつ少数例として連続殺人犯に求愛する女性が殺到する現象:
- 市橋達也に女性のファンクラブができた
- 宅間守や植松聖などが獄中結婚している
- 愛した相手がたまたま殺人犯だったのではなく殺人犯として全国報道された後に知った
- 殺人犯だから惹かれたという点で注目すべきである
■ 3. 創作から現実までの漸変的な許容度
- 現実と創作の区別がつかないはずがないだろうという意見は当然想定される
- 仮説として好みとしては一貫しているが現実における許容度が個人によって漸変的に違う
- 不同意の態度を示しているのにそれを押し切って性行為を迫る執着に自己承認欲求と性欲が満たされる女性の例:
- 執着されたい欲を持っているが現実はおろか創作の中でも女性が不同意で押し切られるのは耐えがたいのでBLでスパダリ攻めに執着不同意性行為をさせる仮託を行う
- Fanza調べで不同意性交関連のキーワードは男性より女性で上位に来るという統計に対して現実では受け入れられないからこそAVに仮託している
- 現実性の許容度は異なりながら不同意でも押し切るほど執着してほしいという欲望が一貫して存在する
- 多くの女性が「私だけに優しいヤクザ」「私だけに優しい殺人鬼」というモチーフに惹かれつつも現実には創作の中だけで楽しむ人もいる
- 現実でのリスク評価が甘くたまたまある時期に自分にだけ矛先を向けなかった凶暴な人間を好きになってしまう女性がキャバ嬢あたりに多い可能性がある
■ 4. アルファ男性に惹かれる女性の学術的議論
- 女性にとって男性の魅力は支配性が重要であるという議論の系譜:
- Sadalla & Kenrick (1987)をはじめとして長らくかつ細々とした議論がある
- 威圧的な見た目が効くという報告(Barber, 1995)
- 支配性は短期的で長期的には威信が効くという報告(Snyder, Kirkpatrick, & Barrett, 2008)
- 自分には優しいが自分以外には攻撃的な男性を好むという説の検討:
- 女性が短期的な相手として高い攻撃性を持つ男性を好むが長期的な関係としては好まなかったという報告(Giebel, Weierstall, Schauer, Elbert, 2013)
- 女性が男性を評価するときは他の男性に対する優しさより優位性を重視する傾向があるとする議論(Lukaszewski, & Roney, 2010)
- 女性にとって自分に優しいがほかの男に対して攻撃的な男を選びやすいのではないかという議論(Ainsworth, & Maner, 2012)
- 支配的な男性を意味する「アルファ男性」という言葉は女性誌でも海外ドラマでも使われている
- 現代の男性選びに余念がない女性の間では人口に膾炙している
- 腐女子用語のオメガバースは言葉としてはこの派生である
- もともとの言葉がalpha maleという生態学用語でありニホンザルの群れの研究でよく使われ従来「ボス猿」と訳されてきた
■ 5. この議論を行う必要性
- 単なる下世話な男女論で終わらせるべきではない真剣に議論されるべきトピックである
- 理由1:
- 見えているDV地雷に突っ込んで殺害されてしまう女性がいるという現実的な治安の問題
- 不可逆的な殺害といった事例に及ぶところまで行くと事後の相談よりは事前の予防的ケアが必要である
- 理由2:
- フェミニズム用語でいうところの「有害な男らしさ」に絡む問題
- 女性が性的な好みとして有害な男らしさそのものに魅力を感じ男性にそうあるべきであると促しているならば有害な男らしさをなくすべきという目標があるとしてどうアプローチすべきかは変わってくる
- No means Yesを女性が好んでいるとすれば男性に不同意性交を促しているようなものであり女性側が変わるべきである