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戦後日本リベラルは台湾に無関心で無理解。高市首相の「台湾有事」答弁で改めてわかった中国に沈黙...

要約:

■ 1. 高市首相の台湾有事答弁と波紋

  • 高市早苗首相が11月上旬に行った台湾有事に関する答弁がなおも波紋を広げている
  • 中国は11月から始めた一連の報復措置をなおも継続している
  • 日本国内では答弁に対する評価やその経済的な影響について意見が分かれている
  • その波紋は2025年の今なお台湾問題に対して日本社会の一部が無関心であり続けた問題も表してしまった

■ 2. 世論調査の結果

  • 12月21日に共同通信が公表した世論調査:
    • 高市答弁を受けた日中関係悪化について日本経済に悪い影響を与えると回答したのはどちらかといえばを合わせ59.9パーセント
    • 答弁自体については不用意だったとは思わないが57.0パーセントで不用意だったと思う37.6パーセントを上回った
  • 毎日新聞が12月22日に報じた世論調査:
    • 答弁を撤回する必要はないが67パーセントを占め撤回すべきだの11パーセントを大きく上回った

■ 3. 台湾有事イコール日本有事を否定したいリベラル派

  • 高市首相の答弁に対して様々な見方が交錯している
  • 強く支持する声がある一方で強い批判的姿勢を示す人々も少なくない
  • SNS上ではいわゆる左派リベラル系とみなされている知識人や社会運動家などが台湾有事イコール日本有事という図式によって日本を再び戦争の最前線へと押し出すものだとして強く反発している
  • こうした批判の動きはネット上にとどまらず東京や那覇などでこれまで複数回の抗議活動が行われた

■ 4. 抗議活動の論点

  • 市民グループWe Want Our Futureによる抗議活動の呼びかけ文に掲げられた論点の要旨:
    • 日中関係の正当性と安定性の基盤である1972年日中共同声明を揺るがしかねない
    • 台湾有事は日本の武力行使ではないという日本側の立場が旧帝国として中国を挑発
    • 高市答弁が日中関係を悪化させ台湾海峡での軍事的緊張を高める危険性をはらむ

■ 5. 筆者の立場と問題提起

  • 筆者自身は日本の右派や保守層が抱いている台湾観を支持する立場にはない
  • これらは植民地支配を肯定する視点と結びつきつつ台湾を自らの反共反中論の文脈に取り込んでしまっている面があるから
  • 高市政権を批判することに異を唱えているつもりもない
  • しかし日本の左派やリベラル派の発信は彼ら自身の政治的主張のために台湾に対して無関心を決め込んでいる点は大きな問題がある
  • 彼らの台湾理解に歴史的政治的文脈を欠いた歪みが存在している
  • その歪みこそが戦後日本の左派やリベラル派が台湾に対して無関心であり続けている原因

■ 6. 日中共同声明の誤解

  • 高市答弁を受けて1972年日中共同声明を引用し台湾は中国の一部であり台湾問題は中国の内政問題だと主張する政治家や批評家や学者も少なくなかった
  • 日本政府は1972年の声明において中国側の主張を理解や尊重という賛同というよりも曖昧さを含む語彙で受け止めているにすぎない
  • にもかかわらず台湾は中国の内政問題であり日本はその原則を守るべきだと断言する言説が日本の一部で根強く広がった
  • これらは中国政府の一方的な主張を結果的に補強する危うさをもつ

■ 7. 大国主義を優先する日本リベラルの皮肉

  • 首相官邸前の集会の呼びかけにおいても台湾は中国の一部とまでは明示されないものでも日中共同声明を根拠にして高市首相の発言は日中国交正常化を支える外交原則すら動揺させかねないと主張しているケースが多かった
  • 中国政府の立場を批判的に検討することなく受け入れてしまう危うさがある
  • 個人の自由や民主的な価値観を重視するリベラルの立場でありながら小国の声を踏みにじる大国間の条約や外交原則を優先するという皮肉な構造が表れている
  • 多くのリベラル系とみなされる知識人らが中国に対して大国間の外交原則を優先する一方で彼らは積極的にパレスチナ支援運動に参加している
  • その際日本とパレスチナは国交がないので外交原則に反するといった配慮をしているだろうかおそらくほとんどしていないはず
  • パレスチナに対する深刻な人権侵害が大国主義的暴力の歴史的帰結であることは広く認識されている
  • 人権と民族自決を支持する立場からすれば現地の当事者の声よりも大国間の条約や外交原則を優先することはありえない

■ 8. パレスチナ問題と台湾問題の扱いの違い

  • なぜパレスチナ問題では大国主義への批判的視点が鮮明な一方で台湾問題になるとその視点がいわゆるリベラル系知識人の中で急に鈍るのか
  • 筆者が挙げる2つの理由:
    • 近接性の問題
    • アメリカ中心の視座を超えられない構造問題

■ 9. 近接性の問題

  • パレスチナ問題は日本にとって地理的政治的に遠い存在
  • 日本の大手企業はイスラエル軍に製品やサービスを提供しているという点で当事者でもあるがガザ虐殺で日本有事の状態にはなる可能性はほぼない
  • 日本は第三者として支援する立場を取りやすい
  • それに対して台湾は日本が当事者性を免れえないほど近い
  • だからこそ台湾問題について考える際には日本を中心に考える思考的な枠組みから自由になることが難しい
  • それゆえ台湾市民が直面する中国の帝国主義的暴力を人権の観点に基づき正面から論じることを躊躇してしまう
  • パレスチナ問題と台湾問題に対する反応の違いこそ日本国家を超えた人権意識の欠如を露呈している
  • この欠如こそ日本が行きついた平和国家イデオロギーの先すなわち一国平和主義の限界を示している

■ 10. アメリカ中心の視座を超えられない構造問題

  • 戦後日本の左派リベラル知識人は長らく戦前日本の帝国主義への反省と戦後アメリカの帝国主義を批判してきた歴史がある
  • 戦前の日本や今なお続くアメリカの帝国主義的な振る舞いは厳しく批判されるべき対象
  • しかしその結果日本の左派にはアメリカ以外の帝国主義や他国特に日本帝国主義の被害者だった国々による国家暴力に対する批判が相対的に弱い
  • パレスチナ問題と台湾問題に対する姿勢の違いはその顕著な例
  • パレスチナで人権侵害を続けるイスラエルの背後にはアメリカの影響があるため批判の矛先を向けやすい
  • 一方台湾問題では今や現状変更を図ろうとする加害者は中国
  • 中国の帝国主義は戦後日本のリベラルが築いてきた反帝国主義という枠組みには収まらない
  • 日本の右派政権がアメリカ外交に従属してきたと批判されるのと同じく日本の左派やリベラルはアメリカ中心の視座を超えて他の帝国主義を等しく批判することが難しい構造的問題を抱えている

■ 11. 抗議集会の呼びかけ文の問題点

  • 首相官邸前での抗議集会の呼びかけ文には日本はかつて台湾を植民地支配していたという歴史的事実がありますと書かれていた
  • 旧宗主国である日本が台湾有事イコール日本の実力行使と結びつける発言を行うことは中国側にとっては日本が再び台湾に軍事介入しようとしていると映り中国を挑発し日本だけでなくかえって台湾自身の安全をも脅かしますと主張されていた
  • この論点は表面的には植民地主義に対して敏感な姿勢を示しているように見える
  • しかし台湾の歴史を少しでも理解していればこの主張は戦後日本の左派リベラルが台湾に無関心であり続けた結果にすぎないことがわかる

■ 12. 呼びかけ文の3つの問題点

  • 第1の問題:
    • 呼びかけ文は台湾は中国の一部であるという中国政府の立場を批判することをせずに中国側にとっては日本が再び台湾に軍事介入しようとしていると映り中国を挑発しという形で中国側の主張に沿う読み方を可能にしてしまっている
    • この姿勢は1949年の国共内戦後に台湾が中国と実質的に分離し軍事独裁政権下でもなお台湾アイデンティティの台頭と民主化を成し遂げたという現在までの台湾の歴史や政治的状況を完全に無視している
  • 第2の問題:
    • 呼びかけ文は再びという言葉を使い日本が台湾に軍事介入するのは2度目になると暗に示している
    • ここでの1度目とはおそらく1895年の日清戦争の結果台湾が日本に割譲した際の出来事を指す
    • しかしこの論理は19世紀末の清朝と現在の中国政府を同一視してしまっている
    • 19世紀末の清朝と現在の中国政府は政治体制や国家構造や領土観のいずれにおいても異なる
    • 清朝による台湾統治を現在の中国政府の主張にそのまま接続させる読み替えは中国政府がしばしば用いる台湾は古来中国の不可分の一部という歴史観と同様に台湾と中国にある断絶の歴史を覆い隠してしまう
  • 第3の問題:
    • 呼びかけ文は日本はかつて台湾を植民地支配していたという歴史的事実を正面から指摘している一方で中国も歴史的に台湾へ帝国主義的支配を行ってきたことには沈黙している
    • エマ・テン教授が提示した論点の通り帝国主義は西洋列強に固有のものではなく清朝による台湾統治もまた明確に帝国主義として理解されるべきもの

■ 13. 日本リベラルの台湾理解の歪み

  • 台湾の歴史や現在の状況は日本語の文献でも容易にアクセスできる知識
  • 日本は植民地支配の歴史ゆえに台湾以外で台湾研究が最も盛んな地域といって過言ではないほどの研究蓄積を持っている
  • それにもかかわらず今回の高市答弁を受けて改めて見られた台湾有事は日本有事ではない論のような台湾理解の歪みは戦後日本のリベラルが反帝国主義を掲げながら実際には自らの旧植民地に向き合うことを避けてきた姿勢の結果にほかならない
  • 一定数の台湾人研究者や社会運動家たちは日本と沖縄に足を運び反基地運動や安保関連の社会運動に日本語を学んだうえで参加し帝国の狭間と位置づけられてきた人々の歴史を必死に理解しようとしてきた
  • 台湾有事は日本有事ではないを唱えつつ歪んだ台湾論を展開し勝手に台湾社会の一部にみられる論調だけを取り出してこれこそ台湾の民意だや台湾海峡の安定に資するなどと主張する日本のリベラルとされる知識人のうち一体どれほどが現地の言葉を学んで台湾の社会運動に参加し台湾社会とその歴史を理解しようとしてきたのか
  • 台湾の歩みを十分に理解しているとは言いがたい日本の知識人たちが台湾についてはあたかも当然のように語ることができてしまうこの知識形成における非対称性こそ反帝国主義という名のもとに実際には元宗主国の人間が享受している特権的な構造でありむしろ帝国主義を再生産する危うさを抱えている

■ 14. 中国を挑発しないが非現実的な現実

  • 挑発に敏感な中国に対して高市氏の答弁が日中関係の急速な緊張と偶発的衝突の危険性を高めかねないことは批判されるべきこと
  • 実際中国政府は高市答弁を受けて自国民に日本への渡航自粛や沖縄県周辺での軍事演習など報復措置を実施し続けている
  • しかし実際に軍事威嚇と威圧的な行動を現実化させている中国側の動きに対して批判的な視点を持たないことは台湾社会が常に中国の軍事威嚇すなわち偶発的衝突の危険性のなかで暮らしているという現実を見ない態度にほかならない
  • 残念ながら近年中国による台湾周辺での軍事演習は急増しそれが台湾人にとって常態化しているという現実がある
  • もし日本のリベラル派も個人の人権を重視し自由や民主的な価値観を大事にするのであれば台湾の安全にも思いを向けてもらえるだろう
  • 批判の焦点として台湾有事に関する答弁を行った高市首相だけでなく中国による継続的な軍事的威圧と拡張の動きも含まれるはず
  • 中国を挑発しないという姿勢は政治的戦略としては成立する
  • ただしリベラル的価値観とは相容れないものである現実がある
  • 台湾人が自らの歴史的経験を踏まえ自らのアイデンティティを中国人ではなく台湾人として主張することそのものが中国からすれば挑発として扱われるから
  • リベラル的価値観に基づいた主張や自らのアイデンティティそのものが他国にとって挑発そして軍事的威嚇の対象になるというおぞましい状況が台湾人の現実
  • 高市首相の答弁を端に発して2025年の最後の2カ月弱に改めて日本での台湾理解の歪さが明らかになった
  • 健全な議論のためにまずは台湾の現実を日本のリベラル派に理解しておいてほしいと願ってやまない

MEMO: