■ 1. 騒動の概要
- 2025年政治の世界においてこの人ほど世間を騒がせた人はいないのではないか
- 静岡県伊東市の前市長田久保眞紀氏
- 学歴詐称問題に端を発した半年にわたる騒動は失職そして市長選の落選で終止符が打たれた
- いまだ説明責任を果たしていない
■ 2. 騒動の始まり
- 静岡県伊東市を半年にわたって揺るがした一連の騒動は6月初旬に届いた1通の告発文から始まった
- 告発文の内容:
- 東洋大学卒ってなんだ彼女は中退どころか私は除籍であったと記憶している
- 田久保眞紀市長に浮上した学歴詐称問題
- 田久保氏は5月の市長選に際して報道機関へ提出した経歴調査票に東洋大学法学部卒業と記していた
- 当初は告発文を怪文書と切り捨てまともに取り合わなかった
- 大学側に問い合わせた結果除籍であることが判明
- 本人によれば大学を卒業していたと勘違いしていたという
■ 3. 卒業証書をめぐる疑問
- 田久保氏の所持する卒業証書とされる資料は何だったのかという疑問が浮かんだ
- 田久保氏は問題が発覚した当初卒業証書とされる資料を市議会の正副議長に見せていた
- 通常除籍となった人に卒業証書が発行されることなどあるはずがない
- 東洋大学側も卒業した者に卒業証書を交付することとしており卒業していない者に対して卒業証書を発行することはありませんとの声明をホームページに掲載
- それでも田久保氏は本物との姿勢を崩さず
- 代理人の福島正洋弁護士もあれが普通に考えて偽物とは思わないと同調
- 一度卒業という扱いになってなぜ除籍になっているのかはきちんと事実関係に基づいて確認していかないといけないや卒業できていない人間に卒業証書を渡さないのは当然だと思うのでそこはきちんと大学側が確認するべきなどと東洋大学に責任を転嫁するかのような持論を展開
- 結局卒業証書とされる資料は公開されないまま今日に至っている
■ 4. 押収拒絶権の行使
- この卒業証書とされる資料をめぐっては当初公開しない理由として卒業アルバムや在籍期間証明書と共に検察へ提出することを挙げていた
- しかしそれすら実行に移されていない
- 田久保氏は学歴詐称問題に関連して警察が複数の告発状を受理していることから現在捜査を受ける身
- 福島弁護士は卒業証書とされる資料の差し押さえについて7月の会見で刑事訴訟法第105条に規定された押収拒絶権を盾に拒絶する方向になると述べている
- 法律関係者の間でも解釈が分かれると言われる押収拒絶権
- 一連の騒動が起きた後福島弁護士が単独インタビューに応じるのは初めて
■ 5. インタビュー:卒業証書の保管場所
- 卒業証書とされているものはこの事務所の金庫の中で保管している
- ずっと変わらず一度も出していない
- 卒業証書以外に関連する資料で入っているものは卒業アルバムを預かっている
- 金庫の中を見せることは難しい
- 理由は単純に私にそれを預けてくれた依頼者ご本人の許可を得ていないから
- この世にないのではという質問に対し:
- それをやってしまうとさすがに弁護士倫理としては終わってしまう
- 預かっていると言いながら実はもう持っていないということは断じてない
■ 6. インタビュー:資料を出さない理由
- なぜ出さないのかは結構複雑
- いろんな観点から慎重に検討した結果預かったまま私がもう出さないで持ってましょうということになっている
- 諸般の事情を考慮した結果としか言えない
- 時期によってもいろんなことがあった:
- 百条委員会が開催されるかどうか
- 市長が本当に自分から辞めるのかどうか
- 検察官に対して卒業証書を出すかどうか
- いろんな場面が目まぐるしく移り変わっていく中でその都度判断していった
- 結果的にいま私が持ったままになっている
■ 7. インタビュー:押収拒絶権の根拠
- 出さない根拠は刑事訴訟法第105条に押収拒絶権がある
- 弁護士が依頼者から預かったものを捜査機関から出してくださいと言われた時にその押収を拒絶する権利が明記されている
- この条文に従ってあえて出さないという結論決断をしている
- 田久保氏と協議した結果
■ 8. インタビュー:秘密の解釈
- 押収拒絶権における秘密をどのように捉えているかについて:
- これは諸説あるところ
- 一般的に秘密というと誰も見たことがない知っていない国家機密であったりとか本当にいわゆる秘密というものを多分イメージする
- もちろんそれが秘密に含まれることは当然
- この刑訴法105条が言うところの秘密というものはもうちょっと幅の広い概念
- 弁護士の事務所には多くの依頼者の方から預かったものがたくさんある:
- 物理的に預かったものだけではなく依頼者から聞き取った情報を紙にメモしたものであったりとかメールで送られてきたものをデータの形であったりとかあらゆる大勢の依頼者たちの秘密に該当するものがたくさん保管されている
- 国家機密とか誰も知らない秘密というような厳密な意味の秘密ではなくその弁護士にものを預けたり情報を授けたりする依頼者から見てこれはちょっと弁護士さん秘密にしといてほしいねという風に思ってるようなものが全部この105条の秘密に該当するという風に広く解釈されている
- これは別に私が言い張ってるだけではなく今の実務の通説だと理解している
- 依頼者は弁護士に対してちょっとあまり話しづらいようなこととか場合によっては自分にとって不利なことだったりとかかなりプライベートな事情だったりとかそういうセンシティブなものをたくさん弁護士に話さなければ事件が解決できないという事情がある
- 安心してそういう自分のいろんなことを弁護士に話すためには自分が弁護士に伝えた情報がちゃんと秘密として守られるという保証がなければやっぱりならない
- その保証私が話したセンシティブな情報をあの弁護士は頑として守ってくれるだろうとそういう信頼を守るための法律それがこの刑訴法105条
■ 9. インタビュー:卒業証書の秘密性
- 卒業証書とされる資料は正副議長に見せているしそもそも大学が発行する公式資料でもあるその観点から秘密と捉えることが難しい考えづらいとも思うがという質問に対し:
- 卒業証書が一般的に作成されていて同じものがたくさんあるという感覚はある
- とは言っても本件この事案に関する田久保さん宛の卒業証書は唯一無二のものであって彼女が持っていたものであって
- それを依頼者から託されて預かってる以上は他に一般的に卒業証書があるからと言ってやっぱり出せるものではない
- 先ほど言った通りの秘密に当たるものであることは間違いない
- チラ見せとか19.2秒見せたという説について:
- 仮に公開してしまっていてもう当該卒業証書自体がもう幅広く流通しているだったりとかあるいは裁判の証拠としても提出されていたりということであれば秘密性がなくなるということはあるかと思う
- ただ19.2秒とかチラ見せしたと言われてるこの時点でもう秘密性が失われているってことはない
■ 10. インタビュー:権利の濫用との指摘への反論
- 押収拒絶権の行使は権利の濫用との指摘もあるがという質問に対し:
- よく言われるところで私もちょっと不思議に思っている
- 条文上は確かにそう書いてある
- ただそこは勘違いで条文の立て付けは押収の拒絶が被告人のためのみにする権利の濫用と認められる場合はこの限りでない
- 括弧書きがあって被告人が本人である場合を除くと書いてある
- つまり被疑者被告人いま疑われてる人が私にそのものを預けた本人である場合は別にその人の利益を守るために持っていていいですよということ
- ここで言う本人は条文の構造からして私にその情報を預けた本人という意味
- 私にものを預けた人が私の情報を別に公開していいですよや世の中に見せちゃっていいですよと言ってるにも関わらず私が被告人の利益を守るために出さないというのはダメ
- 意外とそこが読み落とされていて権利の濫用なんじゃないですかと言われる事例が多くてちょっと頭抱えている
- 刑訴法105条の条文の規定上本人が承諾した場合あるいは押収拒絶をする私のやり方が被告人のためのみの場合これは権利の濫用になる
- 括弧書きがあって被告人が私に情報を与えた本人である場合は除かれる
- 被告人本人が私に卒業証書を預けた人でその人は私に対して預けたその秘密を守ってほしいと思っている
- こういうケースにおいて預かった弁護士がこれを出さないということは別に権利の濫用にはならない
■ 11. インタビュー:将来的な扱い
- 将来的にどのように扱うかはまだ慎重に検討中
- これから捜査が進んだ中で捜査機関が出してくださいと言ってくることは想定している
- まさか突然何の前触れもなく判例があることも前提としながらこの事務所にやってきて持って行ってしまうということはさすがにないと思っている
- ただ捜査機関も必要とあればまず任意で出してくださいと言ってくることは想定している
- その場合にどうするのかはその段階で慎重に検討したいとは思っている
- いたずらに捜査機関とケンカしたいとは思っていない
- 言われた時に慎重に検討するとしか今のところ答えられない
- 誰が何と言おうがどういう形で来ようが頑として出さないとまで突っ張ってはいない
- とはいえ万が一突然来たら拒否する
- 捜査機関のやり方によるということ
- そこは一つ穏便にということ
■ 12. インタビュー:捜査機関への対応
- 仮に急に来て押収してしまったらという質問に対し:
- 私がいない絶対にいない時を狙って現れて押収拒絶権を行使できないようにして持って行ってしまうとか
- もっと怖いことある人に言われたのが福島弁護士を何かの罪で捕まえておいて押収拒絶できないようにしておくのが一番手っ取り早いとかいろいろな考え方があるよう
- 確かにそういうことも可能性としてはないとは言えない
- ただ私としてはそこまで何というか同じ司法に生きるものとしてそこまでアンフェアなことはしないだろうという信頼を持って見ている
- 捜索差し押さえ令状について:
- 押収するためには差し押さえするためにはまず前提として捜索をする
- 捜索をするということは結局ドカドカ中に入ってくる
- 最初に令状を示す
- その時に弁護士が適切に令状見せてくださいと中に書いてあるものこれは押収を拒絶しますこれは拒絶しますこれはありませんこれはもう出しましたという風に1個1個見ていった結果1つも捜索する必要がない差し押さえるものがないとなった場合には事務所への立ち入り自体が必要なくなるはず
- 法律上はもう立ち入りが許されなくなるというのはいまの通説
- それはもうさすがに前回のカルロス・ゴーン氏の弁護人の事務所に立ち入りの事件で捜査機関側がよくわかってるはず
- そこまでいまはできないという風に考えている
- ただし何パーセントか割合可能性は低いかもしれないけれどないとは言えない
- 差し押さえるものがない場合は1歩も立ち入ることはできないはず
- それでもし入ってきたら全面戦争
- 仮にそうなったらどうするという質問に対し:
- 変な話それをやられちゃったらこっちは弱い
- 下手に逆らうと公務執行妨害とかで捕まる
- 権力がそこまでしてきたらやられちゃう
- ただもしそうなったらおそらく全国の弁護士たちが立ち上がってくれる
■ 13. インタビュー:説明責任と礼節
- 田久保氏は公人だった人物失職後も公人を目指した人物として説明責任を果たすべきなのではという質問に対し:
- これはやっぱり私から答えない方がきっといい
- いろいろ思うところはある
- 田久保氏は市長選への立候補表明会見で慎重に対応するのは捜査機関への礼節と表現していたがという質問に対し:
- 田久保さんが言う礼節と弁護士が言う礼節と違う
- 私が言うのであれば同じ土俵に乗っかった法律家同士フェアにやりましょうと
- 私はちゃんと刑訴法105条の拒絶権を行使するけれども他方で絶対に裏でどこかに無くしてしまったり燃やしてしまったりとかそういうことはしません
- そこはフェアにやりましょういう意味の礼節
- ちょっと彼女はどういう言葉で意味で言ったのかはわからない
■ 14. インタビュー:その他の質問
- 東洋大学を訴えることはしないのかという質問に対し:
- そこも含めてまだ先の話
- 闇雲に戦う相手を増やすのかどうかっていうのもある
- 現在のところ警察側からの接触ややり取りはという質問に対し:
- ない
- いろいろ動いているし周りの人から固めていくというのが普通