■ 1. 記事の概要と問題提起
- 弁護士ドットコムニュース編集部による記事である
- 性的な行為を伴うような男女間のトラブルが生じた際結果として捜査機関が「美人局の手段」に利用されているのではないかという懸念がある
- 刑事事件に長く取り組んできた弁護士が自身の経験を踏まえてそうした懸念を口にしている
■ 2. デリヘル従業員による恐喝事件
- 琉球新報(12月6日配信のネット記事)によると示談金名目で150万円を要求し現金5万円を脅しとったとしてデリバリーヘルス従業員の女性が恐喝の疑いで逮捕される事件があった
- 沖縄県那覇市のホテルでのサービス終了後女性は「不同意で性交された警察に訴えたら捕まるよ」などと告げ金銭を要求した
- 弁護士ドットコムニュースはデリヘルを利用した男性が不同意性交等罪で逮捕されたケースを今年報じている
- 男性の妻によると夫はサービス中に「金銭を伴う本番行為」を持ちかけられこれを断ったところ女性から警察に通報された
- 男性は10日にわたり勾留され高額な示談金を支払って釈放された
- 妻は「悪質な性風俗店によるハニートラップや美人局の被害だ」と主張している
■ 3. 不同意性交等罪の改正内容
- 男女間のトラブルは密室で発生しやすく「同意」の有無を客観的に確認することは捜査機関にとっても容易ではない
- 刑法改正で導入された不同意性交等罪(刑法177条)は被害者が「同意しない意思を形成し表明し若しくは全うすることが困難な状態」にあった場合に成立する
- 法改正ではアルコールの影響など8つの具体的な要件が例示された
- 従来の強制性交等罪の「暴行・脅迫」要件(被害者の反抗を著しく困難にする程度のもの)から処罰範囲の明確化が図られた
- 性暴力の被害を受けながら立証の壁に阻まれて泣き寝入りせざるを得なかった被害者を救うために実現した改正である
- 一方で審議の過程では構成要件が拡大することへの懸念も指摘されていた
■ 4. 中村憲昭弁護士の指摘
- 北海道で刑事弁護に長年携わってきた中村憲昭弁護士は「その懸念が実際のものになりつつあるのでは」と語る
- 中村弁護士はいわゆる「美人局」が疑われる事案に接してきた
- 1年以上前に担当した事件では知人宅を訪れた男性が知人の留守中に交際相手の女性と性交に及んだ後数日して不同意性交等罪で逮捕された
- 男性が相当な高額所得者であることをその知人は知っていた
- 「鍵が開いているから入っていて」と言われて訪れた部屋には女性一人がいた
- 後に「同意はなかった」と被害届を出された
- 示談交渉は交際相手と称する知人男性が窓口となった
- 結局男性は1000万円近い慰謝料を支払わざるを得なくなった
- 今年札幌弁護士会の電話相談でも「出会い系サイトで出会った女性とホテルに行ったら不同意性交等罪で警察沙汰になっている」という相談が複数寄せられた
■ 5. 特定地域でのノウハウ共有の可能性
- こうした手口が特定の地域で共有されているのではないかと中村弁護士は懸念を示す
- 数年前には路上で声をかけた女性とトラブルになった会社経営者のケースもあった
- いわゆるナンパで性的な行為はなかったにもかかわらず100万円の示談金を支払って和解した
- 女性はスマホで動画を撮影していた
- 金銭請求の交渉に現れた女性の知人や代理人の顔ぶれが風俗業界でよく知られた存在だったこともあった
- ほかの弁護士からも同様の話が伝わっており一定のノウハウが広まっているのではと感じている
■ 6. 疑いをかけられた側の厳しい現実
- 不同意性交等罪で被害を申告された場合疑いをかけられた側の選択肢は現実的にはきわめて限られる
- 密室の行為は合意だったのか後から翻意して被害を訴えているのかを区別するのは警察でも難しい
- 疑われた側が相手の主張を覆すほどの証拠を起訴前に入手することはほぼ不可能である
- 強制性交等罪以降の法定刑の下限は5年である
- 起訴されて有罪となれば原則として執行猶予のつかない実刑となる
- 従来の強姦罪は3年で執行猶予もつく可能性があった
- 現在では起訴されて有罪となれば即実刑となる可能性が高く被疑者にとっては相当な重圧となる
- 弁護人としては依頼者の説明が合理的で勝ち筋が見える事案だと思っても依頼者の多くは裁判を争おうとは考えず和解を望むのが現実である
- 過去にホステスとアフターでホテルに行き後から「強姦」(当時)の被害にあったと訴えられた男性は「報道されると経営する会社がつぶれる早期に和解してくれ」として1000万円以上支払って示談した
- だからこそ結果的に捜査機関が「美人局」を後押ししているように見えてしまう
■ 7. 法改正への評価と課題
- 中村弁護士は性被害に遭った女性の相談を受けることがあり女性の尊厳を踏みにじるような事件も目の当たりにしてきた
- それだけに「改正前に時間を巻き戻すべきではない」と考えている
- それでも半グレと思われるような属性の人たちのシノギに使われているのであれば法の欠陥と言わざるを得ないのではないか
- 知人の交際相手に手を出したことや配偶者の存在がありながらホステスと関係を持つことなど不用意な行動や倫理的に非難される余地があるケースもある
- 女性が恐喝のおとりとして使われたともいえるケースで女性が被害者であることは紛れもない事実である
- しかしそれでも犯罪と非犯罪との区別は可能な限り客観的であるべきである
- 刑事罰の威嚇により本来果たすべき民事上の責任以上の賠償を被疑者が負わせられるのは相当ではない
- 法律が反社会的勢力のシノギに用いられるのはもってのほかだ
- 後から女性の言動一つで実刑を伴う重罰に直結するのはあまりに乱暴すぎる
- 同意なき性交渉が許されないのは当然だが犯罪行為の境目にはもっとわかりやすいラインを引いてほしいと感じる
■ 8. 今後の課題と警鐘
- 不同意性交等罪の改正には施行から5年後に「同意の位置付け」などを見直す附帯決議がついている
- 捜査機関に申告できる被害者はわずかで周囲にも相談できず泣き寝入りする人は少なくない
- しかし美人局の被害も警察に相談できない「暗数」が多いのではないかと中村弁護士は指摘する
- 中村弁護士が担当した事件に「性風俗サービス」を舞台としたものはなかった
- 仮に風俗業界でこうした事件が広がれば「業態全体の信頼を損なうそれは種籾を食っているようなものだ」と警鐘を鳴らしている