ジャーナリストの伊藤詩織さんが自身の性被害を題材にしたドキュメンタリー映画「Black Box Diaries(ブラック・ボックス・ダイアリーズ)」を巡り、ホテルの防犯カメラ映像の無断使用などを問題視している伊藤さんの元代理人が8日、国内公開時に伊藤さんが公表した文書や記者会見での説明は「事実に反する」と反論文書を公表した。
「伊藤氏には事実に基づいて発言をしてほしいと切に思います」と強調した。
元代理人の西広陽子、加城千波両弁護士は文書で、伊藤さんが昨年12月に行った舞台あいさつや公式サイトでの説明、日本外国特派員協会(FCCJ)での記者会見での発言について、「誤りを簡単に指摘できる点に絞った」としたうえで複数の点を列挙した。
◆事前確認では示されなかった「無断録音」
伊藤さんが公式サイトで映画を事前に自発的に西広氏側に確認させたかのように説明している点を問題にした。
「撮影映像を公開する際には事前確認を行う」という条件付きで撮影を認めていたのに事前連絡がなく、新聞記事で映画の完成を知った西広氏が伊藤氏に連絡し、映画を確認した。
その際、伊藤さんが西広氏との電話を無断録音した場面は示されなかったという。
伊藤さんが昨年12月の記者会見で「修正版を見せようと4回(西広氏に)アプローチしたが断られた」と発言した点についても「事実ではない」と反論。提案は1回のみだったという。
映画館で販売中のパンフレットにも「誤った認識を導く記述がある」として訂正を求めた。(望月衣塑子)
◆西広陽子、加城千波氏の反論文書全文
2026年1月8日 「Black Box Diaries」公開に伴う伊藤詩織氏のリリース内容について
西廣陽子・加城千波 代理人弁護士佃克彦
映画「Black Box Diaries」(BBD)の公開に伴い、伊藤詩織氏は、2025年12月12日に舞台挨拶をし、同日に4つの文書をウェブサイト上にリリースし、また、同月15日に日本外国特派員協会(FCCJ)で会見をしました。
それらのいずれにおいても伊藤氏から事実に反する説明がなされましたが、これを逐一正すには多大なエネルギーと紙幅を要します。
このため、誤りを簡単に指摘できる以下の点に絞って当方の認識を明らかにします。
1 ウェブサイトで公開されている「西廣陽子弁護士のステートメントについての伊藤詩織の見解」(見解)の「2」において伊藤氏は、BBDをあたかも事前に自発的に西廣側に確認させたかの如く述べています。
(1) しかし、伊藤氏が西廣側に映画を見せたのは、伊藤氏がBBDを既にサンダンス映画祭に出展した後のことであり、しかもそのような確認の場は、西廣側が要求したことによって初めて実現したものであって、伊藤氏から自発的に設けられたものではありません。
即ち、2023年12月7日付けの朝日新聞「伊藤詩織さんによる初監督ドキュメンタリー、米サンダンス映画祭に選出」という記事に西廣が気付き、驚いた西廣側が伊藤氏に連絡をとって、同月19日に初めて実現した場なのです。
(2) このような確認の場が設けられるに至ったことについては更なる説明が必要です。民事裁判の係属中、伊藤氏が打合せの場に何度も突然カメラクルーを連れてきて弁護団会議を無断で撮影しようとしたため、弁護団が“撮影した画像を公開する際には事前に弁護団に内容を確認させる”ということを条件に伊藤氏に撮影を認めたという経緯がありました。
このような約束をしたにも拘わらず上記(1)のように、弁護団に事前に確認させることなく伊藤氏が映画をサンダンス映画祭に出展したという事実を西廣が知り、映像の確認をさせるよう伊藤氏に求めてようやく確認の場が設けられたのです。
(3) 更に言うと、その確認の場において伊藤氏は、西廣との電話の無断録音の場面を西廣側に示しませんでした。
2 ウェブサイトで公開されている「防犯カメラ映像を巡っての時系列」には、「2024年10月3日」の出来事として「伊藤側から喜田村洋一弁護士を通じて佃弁護士側に経緯説明を行った」とありますが、このような事実はありません。この日に限らず、およそ喜田村弁護士(この当時の伊藤氏の代理人)から当方に対して経緯の説明はなされていません。
もっとも、同年10月4日に喜田村弁護士から佃宛てに電子メールで連絡がありましたが、その内容は、
「(中略)私が伊藤氏の依頼を受けて代理人となりましたので、ご通知申し上げます。私がこの件で伊藤氏から連絡を受けましたのは今年8月の最終週でした。
その後、事実関係の把握と法的問題点の整理、関係者との打ち合わせを続けております。
先生からは、状況についてのお問合せをいただいておりますが、考えなければいけない論点が多数あり、しかも法的な検討だけでは済まないものも多いため、まだ解決の方向性を見出すに至っておりません。
誠に申し訳ありませんが、皆さまにとっての良い方策を模索しておりますので、今暫くお待ちいただければ幸いです。」
というものです。これが経緯の説明でないことは明らかですし、仮に伊藤氏がこれをもって「経緯説明」だと言うのであれば、実態の歪曲であるとの批判を免れません。
もとより、この後も伊藤氏側からは経緯の説明は全くありません。
3 見解の「4」で伊藤氏は、
「私の側からは、2024年7月の試写会以降、修正内容について文書で説明し、何度も映像を見てほしいと伝えています。これらはメールにも文書にも残っています。2025年2月にも代理人を通じて修正版を見てほしいと提案し、さらに2025年9月にも『本人から直接説明したい』との面会を申し入れてきました。」
と述べていますが、悉(ことごと)く事実に反します。
(1) 第1に、伊藤氏側から、「修正内容について文書で説明」をされた事実はありません。上記の喜田村弁護士のみならず、その後の伊藤氏の代理人である師岡康子・神原元両弁護士からも説明はされておりません。それどころか、当方は伊藤氏に対し、伊藤氏が2025年2月に「今後の海外での上映についても、差し替えなどできる限り対応します」とFCCJに配付した文書で表明して以降に海外で上映されているBBDが、オリジナル版と異なるのか、仮に異なるとすればどこが異なるのか等の質問を、2025年6月以降、何度も何度も文書で行ないましたが、遂に本日に至るまで伊藤氏側からはその点についての回答がありません。
この一連のやりとりを当方は伊藤氏の代理人と文書を用いて行なっており、つまり、修正内容について伊藤氏側が当方に“説明をしていない”という証拠のほうこそまさに文書に残っているのです。
(2) 第2に、「2024年7月の試写会以降、…何度も映像を見て欲しいと伝えています」と述べていますが、これも事実に反します。伊藤氏側が当方にBBDの修正版を見せると申し入れてきたのは、既に品川での上映が内々に決まっていた2025年10月17日のことです。
(3) 第3に伊藤氏は、「2025年2月も代理人を通じて修正版を見て欲しいと提案し」た旨述べていますが、そのような提案がなされた事実はありません。何よりもそのように言える根拠は、そもそもこの時点では修正版は存在していないという事実です。
(4) 第4に伊藤氏は、「2025年9月にも『本人から直接説明したい』との面会を申し入れてきました」と述べていますが、これは、修正版を見せるという話があったわけではありません。
当方が、上記(1)のとおり、2025年2月以降に海外で上映されているBBDが、オリジナル版と異なるのか等の質問をしたのに対し、伊藤氏の代理人がこの質問に答えずに、おうむ返しのように“本人が会って説明する”と言ってきた、というだけの話です。
これに対して当方は、電話の内容を無断で録音された上その内容を切り取られた西廣が代理人を通じてのやりとりを望んでいたこと、及び、やりとりに関する認識の齟齬によるトラブルを避けたかったことから、伊藤氏の代理人に対し、“文書で回答して頂きたい”旨を返答し、その結果やりとりが平行線を辿った、というのが実際の経過です。
かかる次第で、伊藤氏側は当方の質問に対して最後まで回答をせず現在に至っています。
正しい経過は以上のとおりです。繰り返しますが、当方にBBDの修正版を見せるという伊藤氏側の話は、2025年9月の話ではなく、上記(2)のとおり、品川での上映が決まった後の10月17日の話です。
4 なお12月15日の記者会見で伊藤氏は、当方に対して、映画の修正版を見せようと4回アプローチしたが断わられたという趣旨の発言をしていましたが、伊藤氏側が映画の修正版の確認の提案をしてきたのは上記3(2)のとおり2025年10月17日のことであり、それまでは一度もなく、したがって、伊藤氏が「4回」もアプローチをしてきたという事実はありません。 伊藤氏は会見でこちらが事実に反することを述べているかのような発言もしていましたが、当方はすべて事実を述べています。伊藤氏には事実に基づいて発言をして欲しいと切に思います。
5 最後に、BBDの上映時に販売されているパンフレットにも間違った認識を導く記述がいくつもあります。それらの記述については訂正をして頂きたいと思っています。