■ 1. カナダ農協の崩壊経緯
- 背景:
- カナダは穀物輸送を鉄道に依存しており政府が補助金を提供していた
- 政府の補助金削減によりローカル線が廃線となった
- 廃線に伴い新たな穀物倉庫(穀物エレベーター)の建設が必要となった
- カナダ農協の資金不足問題:
- カナダ農協は日本の農協と異なり金融部門(信用事業)を持たないため資金力がなかった
- アメリカのカーギルがカナダ港に大型船積施設の建設を発表した
- 対抗手段がないアルバータ農協は自施設の株式50%をカーギルに提供した
- 株式会社化の連鎖:
- サスカチュワン農協が資金調達のため株式会社化(サスブール)し他州への事業拡大を宣言した
- 対抗するため残り3農協も株式会社化(アグリコア・ユナイテッド)した
- 株式会社化により独占禁止法が適用され船積施設の一部を売却させられた
- 合併と資産喪失:
- 2つの株式会社が敵対的買収を経て合併しバイテラとなった
- 再度の独禁法違反認定により内陸穀物倉庫とバンクーバー港の船積施設の資本50%を売却させられた
- カーギルが内陸部の穀物倉庫と船積施設100%を取得した
- 最終的な崩壊:
- 2012年にバイテラはスイス企業に買収された
- さらに独禁法違反により内陸穀物倉庫の追加売却を余儀なくされた
■ 2. オーストラリア農協の崩壊経緯
- 株式会社化と防衛策:
- オーストラリアの小麦輸出を独占していた農協(AWB)が1999年に株式会社化・完全民営化した
- 外国資本による買収防止のためA株・B株方式を採用した
- A株は農家のみ保有可能で議決権を持ち配当なし・B株は一般投資家向けで配当ありだが議決権なし
- 定款変更にはA株主の85%の同意が必要という厳格なルールを設けた
- 崩壊のきっかけ:
- 2005年にCIAがAWBのイラク・フセイン政権への資金提供をリークした
- オーストラリア国民の批判を受け組織改革の機運が高まった
- 2008年にオーストラリア政府が小麦の独占的輸出権を停止した
- 同年A株を廃止し農家のみに認められていた議決権を一般投資家にも開放した
- カーギルによる取得:
- 議決権の開放によりカナダの肥料会社(アグリム)に買収された
- アグリムは肥料部門のみを必要とし穀物部門を2010年にカーギルへ売却した
- カーギルはオーストラリアの小麦輸出に参入することに成功した
■ 3. カーギルの戦略と日本農協への示唆
- カーギルの狙い:
- カーギルはアメリカの超巨大穀物会社(メジャー)の一つ
- 日本農協(全農)がアメリカに持つ全農グレインの取得を狙っているとされる
- 全農グレインは農協として利益を圧縮し安価に日本へ穀物を供給するためカーギルのアメリカ小麦輸出参入を妨げている
- 農協改革の背景:
- 「農協改革」では農協を協同組合から株式会社化するよう主張される
- 株式会社化すれば全農グレインも同様の崩壊パターンに陥る可能性がある
- ナオミ・クライン「ショック・ドクトリン」はアメリカの新自由主義者が海外資産を獲得してきた手法を記録している
- 日本の郵政民営化も同様の文脈で語られている
■ 4. 日本農協の金融部門の役割
- 金融・農業部門の連携:
- 農協の金融部門(農林中金)は年間3000億円を農業部門に提供している
- この資金は農業部門の赤字(農家への安価な種・肥料の提供および農産物の安価な販売)を補填している
- 結果としてこの3000億円は日本の消費者に安価な農産物を提供するために機能している
- 金融部門分離のリスク:
- 金融部門と農業部門の分離が提案されたが現在は沙汰やみとなっている
- 分離した場合農業部門の資金力が失われ種・肥料の価格上昇が見込まれる
- 運送コストも値上がりし食料品価格全般の高騰につながる恐れがある
- カナダ農協の崩壊も金融部門がなかったことによる資金力不足が根本原因とされる
- 全農グレインの維持:
- 日本農協が金融部門を持つことでアメリカに全農グレインを設立・維持できている
- 全農グレインにより日本は安価に穀物を調達することが可能となっている
■ 5. 農協の現状と消費者への訴え
- 農協の現状課題:
- 農家の高齢化と離農が進み農協の組合員数が減少している
- 農協は農家が経営方針を決める組織であり農家の減少は経営方針決定に困難をもたらす
- 農協の意義:
- 農協は協同組合として「農家・農業のため」という使命を持ち利益最優先の株式会社とは異なる行動をとる
- 安易な農協解体は日本の消費者にとっても危険である
- 消費者への訴え:
- 農家はこれらの事情を知っているが一般消費者には知られていない
- 国民の99%が非農家の消費者であり消費者の理解なしに農業の維持・立て直しは困難
- 農家が1%にすぎない現状では消費者が理解できる形での情報発信が必要
- 消費者の無理解は政治家の誤った農業改革につながる恐れがある