静岡地検に有印私文書偽造・行使の罪などで在宅起訴された田久保眞紀前伊東市長が、昨年5月末、東洋大学の学長名などの偽印鑑をインターネットで注文していたことが警察の捜査で明らかになった。ニセ卒業証書を自ら偽造していた可能性が高まったわけだが、「19.2秒」の流行語を生んだ“チラ見せ現場”に立ち会った青木敬博伊東市議会副議長は、「ニセ卒業証書は2枚存在するかもしれない」と語る。
「19.2秒」が誕生するまでの経緯
「2枚存在した方が、自分たちの記憶や、ほかに見たと話している議員らの証言とも合致するんです」(青木氏、以下同)
いったいどういうことなのか。青木氏に騒動の始まりから振り返ってもらおう。
青木氏によれば、田久保被告が東洋大学卒業の学歴を偽称しているという噂は、選挙中からまことしやかに流れていた。6月3日にはとうとう中島弘道議長宛てに「田久保氏は東洋大学を卒業していない」と書かれた匿名の投書が届いた。そこで翌4日、青木氏と中島弘道議長は市長室を訪れ、田久保被告に直接問いただすことになった。
議長が面と向かって「卒業を証明するものを見せてほしい」と切り出すと、田久保被告は「はいはい、わかりました。ちょうど学歴証明用に持ってこいと言われていたので」と言って、用意していたニセ卒業証書と卒業アルバムを2人の前に持ってきた。後に田久保被告はこの時、2人に「19.2秒見せた」と主張するのだが、青木氏は「絶対にそんな長い時間ではなかった」と否定する。
「まず、ちょっと開いて見せてすぐに閉じた。議長が『いやいや、ちょっと』と言って、もう一度開けさせましたが、またすぐに閉じる。2回合わせても2〜3秒でした」
今も「自分たちが見たのはパロディ版だと思う」と語る青木氏
この経緯はこれまで散々メディアで繰り返されてきた話だ。今回新たに判明したのは、チラ見せがあった5日前、すでに田久保被告が偽造に取り掛かっていたという新事実である。起訴状によると、田久保被告は5月30日、学長名などが記されたニセ印鑑を業者にネット発注していた。その前日、秘書広報課から学歴を確認するために卒業を証明する書類を持ってきて欲しいと要請があったからだ。起訴状では、5月29日から6月4日までの間に卒業証書を偽造したとしている。
しかし、新事実が判明した後も青木氏は、自分が見たニセ卒業証書は田久保被告が偽造したとされる“お手製”の偽物とは「違うものだと思う」と語るのである。
「私たちが見た卒業証書は、後に入手した『本物』と比べて、一目瞭然でニセモノとわかる代物だった。紙は古ぼけていたから一見本物っぽくは見えるんですが、書式からして明らかに変。普通は『卒業証書』という題名から始まり、『氏名』、そして『本文』の順なのですが、本文の中に不自然な形で氏名が入っていた」
ここで思い出してほしいのは、昨年7月、田久保被告の同級生を名乗る匿名人物から届いた告発投書の中に、同級生らが卒業できなかった田久保被告に「パロディで卒業証書を作って贈った」と書かれていたことだ。青木氏はこれまで各社の取材に「自分たちが見たのはパロディ版だと思う」と語ってきたが、今も同じ考えなのである。
もう一人の目撃者である共産党の重岡秀子議員の証言
「同級生の投書には『判子はマッチ棒と定規を使って作った』と書かれていたのですが、我々が見た偽物はまさにそのようなお粗末なものだった。おそらく私たちがチラ見させられたタイミングはまだ偽造している最中だったので、ひとまずパロディ版でやり過ごそうとしたのではないか」
青木氏がそう考える根拠として挙げるのが、もう一人の目撃者である共産党の重岡秀子議員の証言だ。議会の中で最後までたった一人で田久保被告を擁護していた人物である。
「重岡さんは6月20日頃、市長の自宅に出向いて、田久保氏のパートナー男性から卒業証書を30分くらい確認させてもらったと語っている。そして『自分は本物だと思った』とこれまで堂々と語ってきた。私たちはずっと重岡さんは田久保氏を守るために適当なことを言っていると思っていたのですが、我々が見た粗雑なパロディ版ではなくより本物に似せた自作版を見たのではないかと思い直しました。ずっと重岡さんが『30分くらいじっくり見せてもらった』と語っていたのが引っかかっていた。私たちにはチラ見しかさせなかったのに、なんでだろうと。田久保氏にとって自信のあるお手製の偽造証書だったならばありうる話です」
重岡氏は昨年8月のデイリー新潮の取材にも「私には本物に見えた」と証言。逆に「チラ見とか言っている青木副議長らの話が怪しい」と語っていた。改めて重岡氏に電話で取材を申し込んだが、返事はなかった。
2パターンあったとすれば腑に落ちる
もう一人「本物説」を唱えてきたのが、田久保被告の代理人である福島正洋弁護士である。現在もニセ卒業証書は福島氏の弁護士事務所の金庫の中に保管しているとされ、福島氏は押収拒絶権を盾に捜査当局への提出を拒んでいる。福島氏も昨年7月7日の会見で重岡氏同様、「私の目から見てあれが偽物とは思っていない」と語っていた。
「福島氏も田久保氏に騙され自作版を見せられていたのでは。この1年くらい、僅か3秒くらいの記憶を辿りながらさまざまな矛盾と格闘してきましたが、2パターンあったとすれば腑に落ちるのです」
はたして真相はいかに。田久保被告にはもういい加減に“降伏”して、今度こそ法廷で真実を語って欲しい。