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日本社会はレールから外れると復活が難しいという言説(レール神話)に関するメモ

■ 1. 「レール」の定義と外れる状況

  • 「レール」の定義:
    • 良い高校→良い大学→新卒一括採用→終身雇用→結婚・子育て→定年退職という標準的な人生コース
    • このルートを歩むことが社会的成功とみなされる暗黙の前提として存在する
  • 「外れる」状況:
    • 就職失敗・留年・中退・病気や精神的問題による離職
    • 「社格」が下の企業への転職
    • 育児・介護・フリーランス・海外留学等による新卒資格の喪失

■ 2. 「復帰できない」とされる要因

  • 新卒一括採用システム:
    • 既卒・中途は新卒と同等に扱われにくくタイミングを逃すと参入が困難
  • 空白期間へのスティグマ:
    • 履歴書の空白が問題視され採用面接で不利になりやすい
  • 非正規雇用トラップ:
    • 一度非正規になると正規転換が難しく賃金・保障・キャリアの格差が固定化する
  • 学歴・新卒ブランド重視:
    • スキルや実績よりも出身大学や就職時期が重視される文化が根強い

■ 3. 言説の再検討

  • 中途採用の即戦力要件:
    • スキルのない人が転職しにくいことはレール問題ではなく労働市場の需給の問題
    • 即戦力を求める企業行動は合理的であり社会の硬直性の証拠とするのは論理の飛躍
    • 「レールから外れた」というだけで優先的に雇用するべきというのは我田引水が過ぎる
  • 「転職」と「離脱後の復帰」の混同:
    • 転職(正規→正規の横移動)の容易化と病気・育児等による長期空白からの復帰は別問題
    • 空白期間中にスキルが積まれていない以上他の候補者を押しのける合理的根拠がなく「社会が排除している」という表現は認知が歪んでいる
    • そもそもキャリア設計は自己責任であり、己の身の不運や不遇を他者に救済してもらおうという発想は不健全
  • 属性の束ね方の問題:
    • 転職が難しい属性をまとめて傾向を出すことは相関と因果を混同している可能性がある

■ 4. 「レール神話」の歴史的位置づけ

  • 神話の成立と持続期間:
    • 終身雇用・年功序列体制は1950〜60年代に大企業中心に形成され高度成長期という特殊な経済環境に依存したシステム
    • 「普通の人生」として内面化された期間は1960〜1980年代の一〜二世代にすぎず歴史的には非常に短い
  • 就職氷河期世代固有の問題:
    • 親世代の成功モデルを信じてレールに乗ろうとしたところレールが消滅していたという世代特有の不運
    • 「社会が硬直している」という批判ではなく「約束されたものが反故にされた」という裏切り感が実態に近い
    • 非婚・少子化・生活保護・年金負担等として社会コストに転化している点は構造的問題として残存するが「幻想の崩壊を政策的に緩和できなかった問題」であり「社会の硬直化」に責任を求めるのは筋違い

■ 5. 「大企業・公務員の地位喪失」という本質

  • 普遍的現象との混同:
    • 「恵まれたポジションを失った人が同等のポジションに戻れない」のはどの国・時代でも成立する普遍的現象
    • 希少で安定した地位を失えば同等ポジションへの再参入が難しいのは当然でありこれを社会構造の欠陥として語るのは過大な解釈
  • 言説の正体:
    • 高度成長期限定の雇用モデルを「普通」と誤認した期待値設定のミス
    • その期待値が崩れた氷河期世代の怒りが言語化されたもの
    • 大企業・公務員ポジションの希少性という普遍的事実を社会批判にすり替えたもの

■ 6. 中小・零細企業における労働流動性

  • 昭和・平成における実態:
    • 中小・零細企業は終身雇用の体力がなく倒産・廃業・業績悪化による離職が日常的に発生
    • 建設・製造・飲食・小売等の現場では同業他社への横移動(渡り職人的な動き)が当然のこととして行われていた
  • 神話の偏向性:
    • 「レール神話」は日本の労働者全体の話ではなく大企業・官公庁のホワイトカラー層の経験を社会全体に投影したもの
    • 大企業・公務員は雇用者全体の2-3割に過ぎず残りの中小・零細労働者は昭和の頃から流動的な労働市場を生きていた
    • 職業案内所の存在がそれを証明している

■ 7. メタ的考察

  • 言説の構造的偏向:
    • 「レール神話」を社会問題として真顔で語れる人間はそもそもレールに乗れた層に属していた
    • 語る主体・想定される被害者ともにレールに乗れた属性の人間であり内輪の議論が社会全体の問題として提示されていた
  • 受け手の認知:
    • 不遇な境遇を社会の問題にしていれば高尚な気分になれて現実逃避できた
    • 深く考えず社会に対して怒りを表明している方が楽しかった
    • 「レール神話」はそのような認知に都合の良い題材だった
  • 現象の解釈:
    • 特定層の経験が社会全体の言説になることはメディア・アカデミア・論壇を占める層の構造的傾向として避けがたい
    • 「悪意や欺瞞」ではなく「自分の経験が普遍だと無自覚に信じていた」と見るのが妥当
    • やはり人類は愚か