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極右は本当に脱悪魔化したのか?

要約:

■ 1. 「脱悪魔化」という通説とその問題点

  • 「脱悪魔化(Dédiabolisation)」とは極右政党が過激なイメージを和らげ広範な有権者に受け入れられていく過程を指す概念
  • 2011年のマリーヌ・ルペン党首就任以降この語が戦略的に使用され「国民連合の躍進は脱悪魔化の成果」という解釈が半ば常識化している
  • 「脱悪魔化」という語はそもそも国民戦線の「悪魔化(diabolisation)」という語彙を前提としており極右が「不当なレッテル貼りの被害者」であるというナラティブを内包する
  • この語を中立的な分析概念として使用することは極右が構築した「外部から不当に攻撃されている」という自己正当化の物語に加担することを意味する
  • 「脱悪魔化」という枠組みは極右自身が挑発的言動によって自ら「悪魔化」している側面を不可視化する

■ 2. 「脱悪魔化」の歴史的連続性

  • マリーヌ・ルペンによる「穏健化」路線は国民戦線の創設(1972年)以来繰り返されてきた正常化戦略の再運用にすぎない
  • 1972年の国民戦線創設自体が革命的民族主義運動「新秩序」の指導者たちによる「より合法的で穏当な外見を持つ組織」設立という脱悪魔化的試みであった
  • 1990年前後のブルーノ・メグレによる組織整備・地方基盤構築・疑似科学的論証の導入なども正常化戦略の一環
  • 2011年以後をマリーヌ・ルペンの「断絶」と捉えるべきではなく1990年前後の権力奪取路線への回帰として位置付けるべき
  • 極右的語彙の言い換えや福祉排外主義の強調も1980〜90年代から続く戦略の延長

■ 3. 正常化と急進化の構造的共存

  • マリーヌ・ルペン体制では反ユダヤ主義や歴史否認からは距離を置くが反移民・国民優先・治安重視といった核心的主張は放棄されていない
  • 変化したのは表現であり内容そのものは維持されている
  • 移民を「人口戦争」「氾濫」と表現するなど急進的言説は現在も継続している
  • 完全な「脱悪魔化」が不可能な理由は急進性が党のアイデンティティそのものを構成し支持基盤の一部が過激性・反体制性と結びついているため
  • 過度の穏健化は支持基盤の弱体化リスクを伴うためジャン=マリー・ルペンの「優しい国民戦線なんて誰も関心を持たない」という言葉がこの構造を端的に示している
  • 正常化(脱悪魔化)と急進化(悪魔化)は状況に応じて使い分けられる二つの戦略として極右の中に構造的に併存している

■ 4. 社会の側の変化

  • 国民連合は内実において急進性を維持しているにもかかわらず差別的言動の経歴を持つ候補者が存在しても支持に決定的打撃を与えない事例が繰り返されている
  • 極右が変化したというよりもその主張が以前よりも社会の中で「普通のもの」として受け入れられていることを示している
  • 極右の「脱悪魔化」を推し進めているのは極右の戦略ではなく社会の側の認識変化である
  • フランスという旧帝国国家において国家政策と政治言説を通じて反移民・反ムスリムという「常識」が徐々に形成されてきた

■ 5. 反移民・反ムスリムコンセンサスの形成過程

  • 反移民的言説は1960年代末から高級官僚や右派政治家の間で移民を失業原因とみなす形で広まりはじめた
  • フランス共産党は1970年代後半からナショナリズムに傾き「フランス製」キャンペーンや移民労働者宿舎破壊・「移民を止めなければならない」言説など排外主義的立場へ逸脱した
  • 社会党もミッテラン大統領の「移民は1970年代に許容限界に達した」発言やロカール首相の「世界のあらゆる貧困を受け入れることはできない」という言葉に見られるように反移民言説に合流した
  • 社会党による移民の「問題化」は民営化・自由化政策と同時並行で行われており労働者階級への「裏切り」と反移民政策への接近は同時進行であった
  • 1983年の自動車工場ストライキでは移民労働者の関与が「イスラーム主義者の聖戦」として語られ賃上げなどの社会的要求が宗教的対立にすりかえられた
  • 1989年の「スカーフ事件」を契機にライシテ原則の解釈をめぐる論争の中でイスラームが問題化され始めた
  • ライシテは本来個人の信仰の自由を保障する法原理であったが次第にムスリムの服装や振る舞いを監視・排除・非難するイデオロギー的武器へと変質した
  • 2004年の宗教的記章禁止法によって差別的排除が普遍主義的原理の防衛という名目のもとに制度化された
  • この枠組みには右派・マクロン派だけでなく社会党・共産党の一部・急進左派の一部まで合流した
  • こうして「共和国」の概念がフランス的文化に同化した者のみが属しうる共同体へと変質し包摂的であるべき共和制が排除の道具へと作り変えられた

■ 6. 主流政治・メディアによる極右の正常化

  • 主流政治が極右の問題設定の内部で動くようになった結果移民を脅威とみなす言説や極右的論点が公共空間で「普通のもの」となった
  • オランド政権による国籍剥奪案の提案・マクロン政権下のアバヤ禁止・2024年移民法における国民連合との協力などが具体的事例
  • マクロン政権の内務大臣ダルマナンがマリーヌ・ルペンを「イスラーム主義に甘い」と批判するなど主流政治が極右より強硬な立場を取る事態も生じた
  • メディアは政策の内容よりも戦略・舞台裏・権力争いを中心に報道し国民連合の政策が誰にどんな影響を与えるのかという本来問われるべき論点を放置している
  • 極右指導者の私生活や趣味を取り上げる報道が指導者を「普通の人間」として提示し政策の危険性への感覚を和らげる
  • SNS戦略は日常的な姿を前面に出すことで論争的内容を回避しながら好感度と可視性を高める
  • エリック・ゼムールのより露骨な極右的立場の登場によりマリーヌ・ルペンが相対的に「穏健」に見えるようになったように「脱悪魔化」はより過激な存在の出現によっても補強される

■ 7. マクロン政治と極右躍進の関係

  • マクロンの「右でも左でもない」という立場は政策がいかなる価値原理に依拠するかという政治的対立の核心を不可視化し意思決定を「実用主義」に還元するものであった
  • マクロンによるペタン評価やモーラスの語彙再使用は民主主義/反動・共和国/極右という歴史的境界を相対化した
  • 新自由主義的経済政策による社会不安定化・格差拡大が移民や治安・宗教をめぐる問題を政治的争点として前景化させた
  • 「危機」「ショック」「存在論的脅威」などの語彙が氾濫し例外状態を常態化するレトリックが熟議の余地を削り反対者を秩序破壊者として位置づける構造を生み出した
  • 安全保障法・反テロ法の蓄積が「内なる敵」を構築する機能を果たし主流政治の右傾化が極右的発想にとって有利な空気を作り出した

■ 8. 「未経験の選択肢」という錯覚と歴史的記憶

  • 極右が「正常化」されもはや排除すべき例外ではなくなったとき極右は「まだ試されていない新製品」のように扱われるようになる
  • この錯覚は現在の制度への過信と過去の歴史的経験の忘却が結びつくことで生まれる
  • 排外主義的かつ権威主義的な政治はすでに歴史上何度も試されており「極右はまだ試されていない」という言い方はその系譜を無視するものである
  • この忘却は単なる知識の欠如ではなく民主主義の自己正当化を支えてきた歴史的基盤の損耗を意味する
  • 極右が「過去との断絶」を強調しながら浸透してきたことに抗うには歴史に学び極右に潜む排除の論理を現在において理解し直す「記憶の仕事」が求められる

MEMO: