■ 1. ドイツの脱原発完了と現状
- 2023年4月にドイツは脱原発を完了し欧州で唯一原発再稼働の動きに乗り遅れている
- イラン発のエネルギーショックを契機にEU各国で原発再稼働への機運が高まっている
- ドイツ国内では原発再稼働を望む世論が過半を占めている
- メルツ首相は脱原発を「失敗」と公言しながらも再稼働に消極的な姿勢を維持している
■ 2. 再稼働を阻む物理的・技術的障壁
- 廃炉・解体プロセスの進行:
- 停止した原発はすでに廃炉・解体の工程に入っている
- 電力会社も脱原発を見越して運営体制を縮小済み
- エネルギー政策において帰還不能点(point of no return)を超えた状態にある
- 次世代原発(SMR)の課題:
- 小型モジュール炉(SMR)は依然として開発段階にあり本格稼働に至っていない
- 新設には長期間を要する
- 送電網の構造的問題:
- 北部バルト海の洋上風力で発電した電力を南部工業地帯へ送るグリッドが未整備
- 南北連系プロジェクト(南リンク・南東リンク)の本格稼働にはまだ数年を要する
- 再エネ発電量は増加しているが送電能力が追いついていない
■ 3. 再稼働を阻む政治的障壁
- 連立政権の構造的矛盾:
- メルツ首相(CDU/Union)はAfD排除のためSPDと大連立政権を組んだ
- 脱原発を推進したSPDはエネルギー政策の見直しを受け入れられない
- 再稼働を決断すればSPDの離反が必至となり政権が空転する
- AfDとの関係:
- AfDは排外主義的主張からナチス的存在とみなされ全主要政党が連立を拒絶している
- AfDは脱原発・再エネ推進路線の見直しを以前より主張しており支持を拡大している
- AfDと組んで再稼働を進めることもUnion内部の反発から容易ではない
- 政策的矛盾:
- フランス(発電量の7割が原発)からの電力輸入を拡大する一方で自国の原発は容認しない独善的姿勢がある
■ 4. メルケル元首相の遺産と歴史的評価
- 戦後ドイツ憲政史上最も安定した政権を率いたメルケル元首相が脱原発を決断した
- 現在のエネルギー政策の混乱はメルケル元首相の「置き土産」と言える
- 脱原発はドイツという国に残された「くびき」となっている
■ 5. 日本への示唆
- 原発を完全廃止すると再稼働への道筋が極めて困難になる
- ドイツの事例は原発維持の判断を継続した日本の政策の正当性を傍証している
- イラン発のエネルギーショックは脱原発の功罪を改めて問い直す機会となっている