■ 1. 北欧モデルの概要
- 買春行為を行った男性のみを処罰しセックスワーカーは罰しない法制度
- フランスでは2016年に買春処罰法が施行された
- セックスワーカーを保護する目的で導入されたが実態は逆効果をもたらした
■ 2. 経済的影響
- 顧客の減少による収入低下:
- 「逮捕リスク」を恐れた良質な客層が撤退
- 暴力的・不払いなど問題のある客のみが残存
- 交渉力の喪失:
- 客の立場が強まりセックスワーカーは不利な条件を受け入れざるを得ない状況が生まれた
- 過剰なサービスや値下げを強要される状況が常態化した
■ 3. 安全面への悪影響
- 活動場所の地下化:
- 人目のある街頭から森・港などの隔絶された場所へ移行した
- ホテルなど公共施設の利用が困難になった
- 支援体制の不備:
- 支援金が生活維持に不十分な水準にとどまる
- 申請から受給までの空白期間に収入が途絶える
- 「売春をしない」誓約書の提出が求められ個人の自由を侵害している
- 住居喪失のリスク:
- 2人以上のセックスワーカーが共同で働くことは「売春宿の維持」として違法となる
- 自宅での売春により大家が告発され立ち退きを強いられる事例が発生している
- 医療アクセスの制限:
- 支援の重点がカウンセリングに偏り性感染症検査などの利用が困難になった
- 移民の場合は病院受診が当局への通報・国外追放につながるリスクがある
- 警察の脅威化:
- 買い手検挙のためにセックスワーカーを脅迫・利用する事例がある
- 実質的にセックスワーカーが取り締まりのターゲットとなっている
■ 4. 社会的差別と権利侵害
- セックスワーカーは「救済されなければならない劣った存在」として扱われている
- スウェーデンでは就業の事実だけで「親権を持つに不適切な親」と判断され親権を失う事例がある
- フランスのドキュメンタリー映画『ぜんぶ売女よりマシ』(2017年):
- 親権を奪われたセックスワーカーが元夫に殺害された事件を描く
- 国家による威圧的パターナリズムと権力の暴走を告発する作品
- 「犠牲者」または「自滅した人間」とする見方が社会的排除を促進し加害者の暴力を許容する構造を生む
■ 5. 各国・団体の立場
- アムネスティ・インターナショナル:
- 北欧モデルを支持しない方針を表明している
- 各国政府にセックスワーカーの権利保護・尊重・実現を要求している
- 日本国内の状況:
- 一部の女性団体が北欧モデルの導入を主張している
- セックスワーカー支援団体は導入に強く反対している
■ 6. 筆者の見解と日本への提言
- 日本は北欧モデルを導入すべきでない:
- 27年以上の取材経験から大多数の性風俗従事者は性的サービスを「仕事」として自主的に働いている
- 全員を「救済すべき被害者」とするのは現実と乖離している
- 「買う男性=強者=加害者・売る女性=弱者=被害者」の図式は過度な単純化である:
- 性的サービスの買い手を「強者」と一律に断定できない側面がある
- 性売買の権力関係は必ずしも一方向ではない
- 感情的判断を避け現実を直視したうえで多くの人が納得できる最善の制度設計を行うことが重要