■ 1. 研究不正の概要
- 2021年11月、京都大学の小田裕香子氏(当時助教)が、ペプチド「JIP」に関する論文を米学術誌「サイエンス・アドバンシズ」に発表した
- 京大が設置した調査委員会は、当該論文における図の改ざんを認定した
- 2026年3月31日、京大は調査結果の概要を公表したが、各メディアの報道は小規模であった
■ 2. JIP論文の評価と小田氏の昇進
- JIP論文の内容と評価:
- JIPが上皮細胞間の接着を誘導するとの研究成果を報告した
- 論文発表後、小田氏は「京都大学たちばな賞」を受賞し、准教授、教授へと順次昇進した
- 研究費の獲得:
- 研究代表者として総額約2億8000万円の競争的研究費を獲得した
- AMEDの「革新的先端研究開発支援事業(PRIME)」(採択率10.8%)を含む複数の公的研究費を受けた
- 2022年以降、民間財団約10件から助成金を受けた
- 研究不正の措置として科研費・AMEDの補助金は3年間停止となったが、民間助成金は対象外とされた
- 2026年3月、キヤノン財団から3年間3000万円の助成金に選定された
■ 3. 内部告発の経緯
- 告発者(A氏)の立場:
- JIP論文発表当時、技術補佐員として実験・図作成を担当し共著者となった
- 告発時は小田研究室の博士研究員であった
- 疑義発見の経緯:
- 2023年9月、追試実験においてJIPによる細胞間接着の誘導が再現されなかった
- マウス実験のデータについて、都合の悪いデータが削除されたとみられる不審点を発見した
- 小田氏への申し出と対応:
- 2023年10月10日、A氏は別の研究員1人を同席のうえで不審点を小田氏に伝えた
- 小田氏は論文の一部不備を認めつつも、JIP研究継続の方針を示した
- 翌日以降、小田氏はA氏との直接の対話を拒否し、業務連絡への返信も停止した
- 組織内相談の経緯:
- A氏はCiRAの相談室に相談し、内容は髙橋淳所長(当時)まで報告された
- 医生研の教授2人に相談したが、両研究所は具体的な対応を行わなかった
- 逡巡の末、A氏は2023年12月に京大公正調査監査室へ自ら告発した
■ 4. 告発後の展開
- 京大の調査と小田氏の処遇:
- 告発から約1カ月の予備調査を経て、2024年3月29日に本調査を開始した
- 小田氏はその直後の2024年4月1日、生命科学研究科の教授(無期雇用)に昇進した
- 教授選考においてJIP論文への疑義が考慮されたかについて、京大は回答しなかった
- A氏への処遇:
- 通報から約3カ月後の2024年2月末、CiRAの事務スタッフからA氏に雇い止めが通知された
- 理由は「研究室の予算規模縮小による人件費確保が困難」と説明された
- 2024年4月から3カ月間の雇用継続が提示され、A氏は一方的な雇い止めの受諾ではないことを前提に受け入れた
- 2024年6月末にCiRAを退職した
- 雇い止めを事前に示唆する発言は小田氏から一切なかったとA氏は述べている
■ 5. 大学側の調査と専門家の見解
- ハラスメント調査の結果:
- 京大はA氏が雇い止め通知前に受けた対応についてパワーハラスメント調査を実施した
- 調査委員会はA氏の申告内容のほとんどを事実と認定したが、ハラスメントには該当しないと結論付けた
- 不利益取り扱い調査の現状:
- 雇い止めが不利益な取り扱いにあたるかの調査は、退職から約2年が経過した時点でも結論が出ていない
- 2026年4月下旬にようやく調査票への回答依頼がA氏に送られた
- 専門家の見解:
- 弁護士(三浦直樹氏): 研究不正の通報は原則として公益通報者保護法の保護対象外だが、改正法の理念に則ればA氏の雇い止めは通報を理由とするものと推定され、文部科学省の指針や京大の規定に違反する可能性があると指摘した
- 研究不正専門家(榎木英介氏): 人権侵害の恐れが生じた際に誠実かつ迅速な対応を行うのが当然であり、調査が事実上放置されてきたことは自己規範の欠如した組織とみなされかねないと指摘した
- 京大・関係者の対応:
- 京大は個別の具体的な状況に関する問い合わせへの回答を拒否した
- 小田氏および髙橋氏も取材に応じなかった