■ 1. インテルの凋落とその背景
- インテルはムーアの法則を提唱した共同創業者を持ち、30年間にわたりほぼすべてのパソコン向けチップ市場を支配した企業である
- 2024年末にCEOパット・ゲルシンガーが退任、同年ダウ工業株30種平均からエヌビディアに置き換えられた
- チップ技術は台湾・韓国の競合他社に対し2世代分の遅れを取るに至った
- ARMベースのモバイル向けチップ登場時、自社x86対抗製品の開発を選択したが、10年経過後も競争力ある製品を投入できなかった
- 凋落の根本原因は製造面の問題や取締役会の専門知識不足ではなく「過信」にある
■ 2. 過信というバイアスの特性
- 過信が最も危険なバイアスである理由:
- 他のすべてのバイアスをリーダーが認識できなくさせる
- 反証となる証拠を探さなくなる
- 計画を厳しく検証しなくなる
- 現状に疑問を呈する問いを発しなくなる
- 成功こそが過信を生み出す原動力であり、優れた実績を持つリーダーほど深刻になる
- テトロック『Superforecasting』(2015年)の研究知見:
- 一般参加者2万人がウォール街・情報機関・学界の専門予測者を一貫して上回った
- 専門家は自身の見方に頼り既存の考えで判断する傾向が強い
- 一般参加者は先入観なく広範な証拠を検討した
- 専門家の自信そのものが誤りの原因であった
- ヨム・キプル戦争(1973年)の事例:
- イスラエル情報機関は侵攻の明確な証拠を保有していたが、「コンセプト」(エジプトは航空戦力整備前に攻撃しないというドクトリン)への確信から証拠を無視した
- 開戦後72時間で敗北寸前まで追い込まれた
- この失敗は情報の不足ではなく確信の過剰によるものであった
■ 3. 過信への3つの対策
- レッドチーミング(反対意見を組織上の必須要件にする):
- 反対意見を文化的選択肢ではなく組織上の必須要件として制度化する
- 計画の穴を見つけることを専任とするチームに権限と率直に取り組むための保護を与える
- ヨム・キプル戦争後にイスラエル情報機関が専任チームを設置、その後CIA・米陸軍等にも採用された
- 重要前提の確認:
- 戦略の土台となるすべての前提を列挙し「十分に裏付けられている」「留保付きで正しい」「裏付けがない」に分類する
- 各前提が崩れるには何が変わる必要があるかを問う体系的な作業である
- 前提は現実そのもののように感じられるため、書き出すことで初めて可視化される
- プレモーテム分析(事前検証分析):
- 認知心理学者ゲイリー・クライン博士が開発した手法で、計画がすでに壊滅的に失敗したとチームに想像させ原因を挙げさせる
- 行動方針決定後に生じる確信に穴を開ける効果がある
- ジョンズ・ホプキンス大学(患者安全)・米陸軍(戦略計画)が活用しており、15分で実施可能である