■ 1. 概要
- 筆者が老母の自宅敷地内にある製袋工場を訪問した際、「休みの日が増えた」と告げられたことを起点とする
- その背景にあるナフサ不足の影響、工場の60年以上にわたる歴史、零細製造業と高齢化社会の構造的問題を論じる
■ 2. 工場の創業と母の自立
- 工場は約62年前、筆者の母(当時30歳手前)が創業した製袋業(ポリエチレン袋の加工)
- 創業の背景:
- 結婚後、夫の兄が経営する包装資材問屋に呼び出され、従業員への賄い料理を無償で担わされた
- 当時、既婚女性を雇用する企業はほぼ存在しなかったため、雇用される形での就労は不可能だった
- 再び無償労働に動員される恐怖から逃れるため、自ら事業を立ち上げる選択をした
- 事業の選定:
- 父が勤める包装資材問屋を通じて、製袋業が当時急速に普及しつつあり、かつ利益が見込めるという情報を得た
- 近隣の製袋業者の工場見学を経て「自分ならもっとうまくやれる」と確信し、自宅の6畳間を改装して機械を導入した
■ 3. 工場の変遷と現在の状況
- 長い休業期間を含む浮き沈みを経て、父の早期退職後は夫婦二人で運営した
- 父が引退を機に、事業を当時の従業員(現在の経営者)に譲渡し、家族は家主として家賃を受け取る立場になった
- 現在の状況:
- 家賃は過去に経営悪化を機に大幅に引き下げられたまま据え置かれ、世間相場より遥かに低い水準
- 90歳を超えた母は認知機能の衰えにより事務処理が困難なため、この春から次男である筆者が家賃収納を担う
- 敷地内に信頼できる人物が常駐し、高齢者の一人暮らしを見守るという側面が、低家賃継続の実質的な理由の一つとなっている
- 現在の経営者も高齢化しており、体力を要する加工業のため受注量を抑えている
■ 4. 零細製袋業の構造的役割
- 製袋業(ポリエチレン・ポリプロピレン袋の加工)の工程概要:
- チューブ状に成形されたポリエチレンを一定間隔で熱圧着し、断裁して袋を作る
- 現代では大型自動機械が大量生産を担うが、数千枚単位の小口需要には60年前と変わらぬ小型機械の方が対応しやすい
- 小口需要は絶えず存在するため、零細製袋業者は包装資材流通業者にとって不可欠な存在であり続けている
■ 5. ナフサ不足が零細工場に与える影響
- 工場の業務形態は「材料支給・加工賃のみ」であり、原料を自社で仕入れる必要はない
- ナフサ不足の波及経路:
- ナフサ不足 → 包装資材業者がチューブを調達できない → 工場への発注がなくなる → 工場が稼働できず休日が増加
- 直接的な原料不足ではなく、サプライチェーン上流の供給制約が間接的に末端の零細工場に影響する構造
■ 6. 高齢化社会における零細製造業の位置づけ
- 工場で働く高齢者は年金収入があるため、休業増加による生活への打撃は限定的
- かつて農村が労働力の調整弁として機能したように、現代の日本では高齢者が労働力の需給調整を担っている可能性を指摘する
- 規模拡大・コストダウンを優先する経済原理の中で、そぐわない小規模経済活動は周縁に追いやられていく
- 戦争や大規模な供給ショックはこうした周縁部から先に破壊する構造があることを指摘する
- ナフサは国内にある程度存在するが、それが零細製袋業者のもとに届く経路は機能しにくい
- 「老兵は死なず、ただ消えゆくのみ」という言葉を引き、こうした零細事業者が消えた後の社会像への問いを提示する