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「戦争を甘く見る空気」

要約:

■ 1. 新刊『戦争を甘く見る空気』

  • 山崎雅弘の新刊:
    • 戦史研究家の山崎雅弘が『戦争を甘く見る空気 1930年代と似た道を進む現代日本』(朝日新書)を出版
  • 現代日本を言い当てる書名:
    • 「戦争を甘く見る空気」という表現は、現代日本の薄っぺらで上ずった気分を的確に言い表している

■ 2. 歴史修正主義の台頭とファクト軽視

  • 戦中派の消滅と歴史修正主義者の登場:
    • 1990年代、戦中派の人々が亡くなり戦争の実相を語る人がいなくなると同時に「歴史修正主義者」が登場
    • 戦争への反省を「自虐史観」と罵り、「あれはアジア解放の戦争だった」「南京大虐殺はなかった」などと主張
  • 学問的推理と主観的妄想の違いの軽視:
    • 客観的な歴史的事実の確定は難しいが、「蓋然性の高い学問的推理」と「主観的妄想」の間には天地の差がある
    • その差を「所詮は程度の差にすぎない」と軽んじるのがポスト歴史修正主義の風儀
  • 皇室典範審議における発言例:
    • 国会審議でも「皇紀2686年」「2600年続く皇統」といった主観的妄想を平然と口にする国会議員がいた
  • 物語の等価性という擬似的な公平さ:
    • 歴史学の学問的推論と自分が選んだ「物語」を等価に扱う態度がある
    • 「私は私の物語を信じる、あなたはあなたの物語を信じればよい」という一見公平な構えを取る
    • この構えは一見民主主義的だが、実質は物語を信じる人数の多さを競うものにすぎない
    • 信者の頭数が多い物語が「支配的な物語」となり、国民の過半数が喜ぶ物語が「よい物語」とされる
    • 国民に反省や自己点検を求める物語は「悪い物語」として扱われる
  • ファクト軽視と戦争軽視の関係:
    • この「ファクトを甘く見る態度」が「戦争を甘く見る空気」を醸成している

■ 3. 「戦闘」と「戦争」の違いの無視

  • 山崎氏の指摘する特徴:
    • 「戦争を甘く見る」ことの際立った特徴は「戦闘」と「戦争」の違いを無視することにある
  • 両者の定義の違い:
    • 「戦闘」とは数人から数百人が交戦する、短期的かつ局所的な戦術的交戦を意味する
    • 「戦争」は無数の戦闘に加え、国力・経済力・外交関係などの要素で構成される戦略的な概念である
    • 戦争を語るとは、戦闘を俯瞰する視座に立つことにほかならない
  • 現代日本の軍事論の限界:
    • 今の日本で軍事を語る人の多くは、ミサイルや潜水艦といった兵器の話にとどまる
    • 兵器で「どう戦うか」は語られるが、「どうやって戦争目的を完遂するのか」は誰も語らない
    • 戦争を俯瞰する視野を持つ論者は見当たらない

■ 4. 東京裁判の戦犯と現代の共通点

  • 東京裁判における戦犯の証言:
    • 東京裁判の戦犯25人全員が戦争責任の引き受けを拒否した
    • 各自が自分は戦争を始める気がなかったと証言した
    • 「他に択ぶべき途は開かれていなかった」との主張に、検察官キーナンは驚愕した
  • 大日本帝国戦争指導部の実態:
    • 戦争指導部は意に反して戦争に追い込まれたとされ、戦争目的も達成すべき理念やヴィジョンも持たなかった
    • いかなる条件が整えば戦争を終えるのかも把握していなかった
  • 現代の「戦争ができる国」論との共通性:
    • 日本を「戦争ができる国」にしようとする人々も、この点で当時と変わらない
    • 「安全保障環境の変化に対応する」という説明以外は聞いたことがない
    • 敗れたら何を失い、勝てば何を得るのかという俯瞰的な見通しも一度も聞いたことがない

■ 5. 結論

  • 戦争を甘く見る人たちが戦争を始めようとしている現状を、もっと恐れるべきである

論評:

■ 1. 概要

  • 記事の主題:
    • 戦史研究家、山崎雅弘氏の新刊を起点とした「戦争を甘く見る空気」に関するオピニオン記事
    • 歴史修正主義批判、国会での皇紀発言、東京裁判の戦犯証言、現在の安全保障政策論議を通じて展開
  • 中心主張への評価:
    • 現代日本の言説には戦略的、俯瞰的視座が欠如しているという中心主張は、問題提起として成立しうる
  • 論証過程の問題:
    • ストローマン論法、個人的経験を論拠とした過度の一般化、典拠不明の事実主張、性質の異なる事象の暗黙の同一視など、看過できない論理的問題が複数存在する

■ 2. 論点1: 中心主張が山崎氏の著作に依存

  • 論証構造:
    • 冒頭で山崎氏の「戦争を甘く見る空気」という表現に共感を示す
    • 以降の論述は、山崎氏が示したとされる「戦闘」と「戦争」の区別に依拠して進む
  • 問題点:
    • この区別自体の当否を検証する記述が文章中になく、所与の前提として受け入れている
    • 書籍からの引用のみに基づき筆者自身の主張を組み立てる構成であり、権威への依拠がやや強い
  • 留保:
    • 新書の紹介記事としての性格を踏まえれば、この点のみで重大な瑕疵とはいえない

■ 3. 論点2: 「物語」の等価性を巡る論証

  • 位置づけ:
    • 本稿で最も論理的問題が大きい箇所
  • 内容:
    • 歴史学的推論と自分の選んだ物語は、彼らにおいて等価であるという内面の論理を著者が構築
    • 国民の過半数が喜ぶ物語がよい物語であり、反省や自己点検を求める物語は悪い物語であるという認識も、著者による構築
  • 問題点:
    • これらはいずれも国会議員の実際の発言として引用されたものではない
    • 具体的発言(皇紀2686年等)から、このような包括的な認識論まで彼らが実際に抱いているという根拠は示されていない
    • 相手の主張を実際よりも極端な形に歪めた上で批判する構成であり、ストローマン論法の疑いが強い
    • 「なんと民主主義的な態度ではないか」という皮肉:
      • 構築された仮想的立場への感情的な訴求にとどまる
      • 論証の補強としては機能していない

■ 4. 論点3: 「誰も~ない」という過度の一般化

  • 内容:
    • 今の日本で軍事を語る人のほとんどは、兵器の話以上を語らないと記述
    • 俯瞰的視野は誰も持っていないとも記述
  • 問題点:
    • 主語が「ほとんど」から「誰も」へと段階的に拡張されている
    • 全称否定命題であるにもかかわらず、支持する調査や網羅的な事例提示がない
    • 反証可能性のない断定になっている
    • 一人でも俯瞰的視座を持つ論者が存在すれば成立しない主張であり、不完全な帰納に該当する

■ 5. 論点4: 個人的経験を論拠とする論証

  • 内容:
    • 「私は聴いたことがない」という個人的経験が、二度にわたり論拠として用いられている
  • 問題点:
    • 著者が特定の説明を耳にしていないことは、その説明が存在しないことの証明にはならない
    • 個人の見聞の限界を対象そのものの不在の証拠として扱う、無知に訴える論証である
    • 証拠の質としては弱い

■ 6. 論点5: 東京裁判に関する記述の典拠不明

  • 内容:
    • 東京裁判の戦犯25人全員が戦争責任の引き受けを拒み、検察官キーナンが驚愕したと記述
  • 問題点:
    • 具体的な出典が本文中に示されていない
    • 25人全員の証言内容を一括りにし、検察官の心理状態まで断定的に記述している
    • これらを裏付ける根拠は文章内に存在しない
    • 歴史的事実に関する具体的かつ強い主張であるだけに、典拠の欠如は証拠の質を損なっている

■ 7. 論点6: 異なる主体・事象の暗黙の同一視

  • 扱われる対象:
    • 歴史修正主義者による歴史認識の否定
    • 東京裁判における戦犯の証言
    • 戦争ができる国にしようとする、現在の安全保障政策の推進者
  • 問題点:
    • 東京裁判の戦犯証言と現在の安保政策推進者は、俯瞰的視座の欠如という共通点のみで接続されている
      • 両者が同質の現象であるといえる論証はない
    • 歴史修正主義者と現在の安保政策推進者についても、同じ「戦争を甘く見る空気」の表れであるという結びつけがなされている
      • タイトルおよび全体の構成による暗示にとどまり、明示的な論証はない
    • 歴史認識問題と安全保障政策論議は、本来別個に検証されるべき事象である
    • 両者を結びつける論理的橋渡しが欠けており、カテゴリーの混同に近い問題

■ 8. 論点7: レッテル貼り的表現と価値語彙

  • 内容:
    • 「薄っぺらで、上ずった気分」「歴史修正主義者」「ポスト歴史修正主義の風儀」といった評価語、造語が使用されている
    • これらは対象への具体的な反証や定義の提示なしに用いられている
  • 問題点:
    • 「ポスト歴史修正主義」は本稿内でのみ用いられる独自の呼称
      • 誰の立場を指すか、いかなる主張をもってそう分類されるかが定義されないまま断定されている
    • オピニオンとしての立場表明自体は許容される
      • しかし対立する主張の最も強い形を提示せずに評価的なラベルを貼る手法は、相手の主張を弱められた形でしか扱わない結果につながっている
    • 論点2のストローマン論法とも関連する問題

■ 9. 論点8: 結論部における断定の飛躍

  • 内容:
    • 最終段落「今、戦争を甘く見る人たちが戦争を始めようとしている」という記述が、断定形で提示されている
  • 問題点:
    • それまでの論証は、戦争目的や俯瞰的視座が語られていないという言説の欠如を一貫して指摘するもの
    • 実際に戦争を始めようとしているという能動的な意図、行動の存在を直接示す根拠は本文中に提示されていない
    • 「視座の欠如」から「戦争を始めようとしている」への移行には、論証の飛躍がある
    • 「そうやって戦争を始めた時」という表現:
      • 戦争が始まることを既定の前提として書いている
      • 結論の一部を前提に忍び込ませた記述になっている

■ 10. 採点結果

  • 論理構造(3/5):
    • 現状認識から結論に至る一つの流れは保たれている
    • 性質の異なる事象を結びつける論証が省略されており、構造上の飛躍が見られる
  • 説得力(2/5):
    • 修辞的な喚起力はある
    • ストローマン論法や無知に訴える論証に依存する箇所が多く、これらを除くと主張を支える基盤が薄い
  • 主張の妥当性(3/5):
    • 中心的問題提起自体は成立しうる
    • 個別の論証の多くに難があり、妥当性を十分に基礎づけられていない
  • 証拠の質(2/5):
    • 国会発言、東京裁判の証言内容など、具体的な出典の明示なしに強い事実主張が複数なされている
  • 論理的健全性(2/5):
    • ストローマン論法、不完全な帰納による過度の一般化、無知に訴える論証、隠れた前提によるカテゴリーの混同が複数箇所に見られる
    • 論証の信頼性をかなり損なっている
  • 中立性・客観性(2/5):
    • 対立する立場を実際の発言に基づかない形で構築し評価する箇所がある
    • 定義を伴わない評価的ラベル付けも見られる
    • 対立する主張を公正に取り上げているとは言い難い
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