■ 1. 高市政権の支持層と右派市民
- 支持層の変化の兆し:
- 高市政権を支えてきた支持層に変化の兆しが見え始めている
- 7月29日の朝日新聞の報道によれば、高市早苗首相への好感度が低下している
- 好感度低下は保守層と女性層でとくに目立つ
- 「右派」イメージへの疑問:
- 私たちが思い描く「右派」のイメージが現実を映しているとは限らない
- 書籍『「右派市民」と日本政治』は右派市民の実像をデータで解き明かしている
■ 2. 社会階層と穏健な保守層
- 社会階層の定義:
- 社会学では職業、学歴、収入などからなる地位・資源の違いを表す
- 底堅い自民党支持層の分布:
- 極端な立場を取らない穏健な保守層は自営業者・経営者・管理職に多い
- 地方の農林水産業従事者にも多いという傾向が指摘されてきた
- 支持を支える互助的関係:
- 自民党および地域の保守政治家は、地域経済を直接的に担う人々に向けた政策を重視してきた
- そこに互助的な関係が成り立っていた
- 地方の伝統的権力関係:
- 地方では伝統的な権力関係が残存する傾向が強い
- 地域をあげて保守政治家を応援することがごく自然とされた
■ 3. 欧米の極右研究が示す仮説
- 経済的脆弱層が極端な主張に引き寄せられる仮説:
- 欧米の極右研究やポピュリズム研究からの発想である
- 経済的に脆弱な人々が社会や政治に対する不満や怒りから極端な主張にひきつけられるとする
- アメリカの事例:
- 衰退産業の労働者たちが、以前とは異なりトランプのような極端な主張をする政治家に期待するようになった
- ヨーロッパの事例:
- グローバル化のなかで恩恵にあずかれない人たちが、不満のはけ口を政権やEUや移民に見出しているという議論がある
- 実際に効いている要因:
- 経済的な要因が直接影響するのではない
- 移民の文化的脅威や伝統重視といったことが影響していることが多い
- いずれにせよ階層的な地位の低い人々が中心である点は変わらない
■ 4. 日本での知見
- 階層的弱者による支持という説明の否定:
- これまでの調査研究では、日本において階層的な弱者による支持はおおよそ否定されてきた
- 階層の広がり:
- 諸外国と比べるとさまざまな階層にまんべんなく広がっているというのが現在までの知見である
- 支持層を特定しにくいという了解がある
■ 5. 大規模データの必要性
- 従来研究の限界:
- 極端な考え方を持つ少数の人々をとらえるには、それなりに大規模の調査データが必要となる
- 人数が少ない場合は結果が不安定になり、はっきりした特徴をとらえきれない
- 本書のデータの利点:
- 本書が用いるデータならば、ある程度まとまった形で右派市民をとらえることができる
- 対象とする4タイプの右派市民の階層的特徴を掘り下げられる
■ 6. 属性の影響を統制する分析
- 交絡への注意:
- 階層的特徴を検討する際は、性別や年齢といったほかの属性の影響に注意しなければならない
- 学歴をめぐる例:
- 右派市民に中学・高校卒が多いという結果が出ても、学歴自体の違いによるのかは判然としない
- 高年層に大学卒の人が少ないことによる可能性がある
- 職業をめぐる例:
- 右派市民に無職者が多いという結果が出ても、無職か有職かの違いによるのかは判然としない
- 高年層に退職者が多いことによる可能性がある
- 求められる見極め:
- 性別や年齢という条件を一定にした場合に社会階層の違いがあるのかないのかを見極める必要がある
■ 7. 12カテゴリの設定
- カテゴリの構成:
- 性別・年齢・学歴の組み合わせで12のカテゴリを作成した
- 年齢は若年(20〜30代)、中年(40〜50代)、高年(60〜70代)の3区分とした
- 学歴は大卒(短大・大学卒以上)か非大卒(中学・高校卒)かの2区分とした
- カテゴリ設定の効果:
- 「高年層に高学歴層が少ない」といった影響を除外した結果としてみることが可能となる
- 表3は4タイプそれぞれにどのカテゴリの人がどの程度含まれるかを示している
■ 8. 表3から読み取れる右派市民の姿
- 愛国主義者と若年大卒男性:
- 愛国主義者には若年大卒男性が18パーセント含まれる
- 調査回答者全体では若年大卒男性は14パーセントであり、愛国主義者に相対的に多い
- 伝統主義者と若年大卒女性:
- 若年大卒女性は全体の10パーセントを占める
- 伝統主義者には1パーセントしか含まれず、目立って少ない
- 右派市民の性別構成:
- 右派市民は男性が中心であり、女性は少なめである
- とくに若い大卒の女性が構成比からすると目立って少ない
- 若年大卒女性はもっとも右派市民と縁遠い社会層である
- 女性内部の学歴差:
- 女性については大卒よりも非大卒層(中学・高校卒の人々)のほうが右派市民と親和的である
- あくまでも大卒女性と比べた場合の傾向である
■ 9. 参照文献
- 保守支持層の階層的傾向:
- 三宅一郎『現代政治学叢書5 投票行動』東京大学出版会、1989年
- 欧州の排外主義における文化的要因:
- 中井遼『欧州の排外主義とナショナリズム 調査から見る世論の本質』新泉社、2021年
- 日本の排外主義とネット右翼:
- 樋口直人『日本型排外主義 在特会・外国人参政権・東アジア地政学』名古屋大学出版会、2014年
- 樋口直人ほか『ネット右翼とは何か』青弓社ライブラリー、2019年
- カテゴリ作成の参考:
- 吉川徹『日本の分断 切り離される非大卒若者(レッグス)たち』光文社新書、2018年
- 表の表示基準:
- 太字は全体の傾向と比較して割合が多いカテゴリ、グレーは少ないカテゴリを示す
- いずれも統計的な基準によって判断しており、以降の図表でも同様の基準を用いる