■ 1. 戦争があぶり出すアイデンティティー
- 敵国側に立つ人々:
- ロシアによるウクライナ侵略では、敵国側に協力し母国の「裏切り者」となることを選ぶ人たちもいる
- 近い両国ゆえの複雑さ:
- 歴史的にも文化的にも近い両国による4年半に及ぶ激しい戦争が、両国民の心の奥底にある複雑なアイデンティティーをあぶり出している
■ 2. 母国と戦うブズマコフ
- ロシア義勇軍団の一員:
- 露中南部ノボシビルスク出身のバレンティン・ブズマコフ(23)は、ウクライナ国防省傘下の「ロシア義勇軍団」の一員として母国を相手に戦っている
- キーウ郊外の基地の軍事訓練で手にした年季の入ったカラシニコフ銃は、露軍兵士を捕虜にした時の戦利品
- 参戦の動機:
- ロシアをまともな国にするためには、ウクライナが勝たなくてはいけない
- 反政府への傾斜:
- 父は露内務省の元高官で、子どもの頃から将来は露当局の特殊部隊で働くことを期待されて育った
- 政治的意見は反政府に傾き、反政権運動指導者ナワリヌイ氏の支持集会や反戦集会に参加するようになった
- 法の支配への絶望:
- 大学では弁護士を目指したが、法の支配が効かないロシアでは裁判はコイントスと同じだと気づき、実業家志望へ転向した
- 国内世論の変化:
- 開戦当初は露国内にも戦争に反対する声が多かった
- その後、反対の声を上げていた人たちの多くは国外へ出て行った
- 残った人たちは圧倒的なプロパガンダに影響を受け、次第に戦争を受け入れ始めているように見えた
- 出国とウクライナ入り:
- 自分はそうなりたくないと考え、23年4月にロシアを出て隣国カザフスタンに渡った
- 25年1月にウクライナへ入り、ロシアと戦う決意は固まった
- 特殊作戦の任務:
- 25年1月以降、ウクライナ東部ドネツク州などで困難な任務を遂行する「特殊作戦」を担ってきた
- 露軍に包囲された部隊を救出するリスクの高い作戦を成功させ、表彰も受けた
- 露兵を殺害せぬ戦い方:
- これまで露兵を殺害したことはなく、銃を向け合う状況になると露兵側が降伏する
- 露軍の無線に味方のふりをして入り込み、待ち伏せして捕虜にしたこともある
- 自然なロシア語話者だから成せた業であり、ロシア人が犬死にする前に助けているとの自負もある
- 捕虜になる恐怖と覚悟:
- 常に恐れるのは露軍の捕虜になることで、ロシアにとって「裏切り者」の自分がどう扱われるかはロシア人だからこそよく分かる
- その時がきたら、手投げ弾を抱え自決すると覚悟している
- 歴史に残す小さな足跡:
- ロシアという大国を変えるのは簡単ではなく、次世代になるかもしれない
- それでもこの歴史の局面を傍観はできない
- 将来ロシアが今よりいい国になって国民がこの時代を振り返る時、自分が小さな足跡を残せていたらそれでよい
■ 3. 同じ部隊のデミド
- 家庭への反動:
- 露西部トベリ出身のデミド(21)は、父親がスターリンを礼賛し母親がプーチン大統領を支持する家庭で育った反動か、政府を懐疑的な目で見てきた
- 開戦時の判断:
- 22年2月の侵略開始時、プーチン氏が大義を語るのを見て、それはウソでありロシアにとっても誤った戦争を止めなければと思った
- 捕虜が示した戦場の現実:
- 前線で捕虜にした露軍兵士たちは、水も食料もなくただ突撃を命じられた人たちだった
- 生活費が必要で軍に入ったが本当は戦いたくないと話し、戦場の現実がこの戦争の誤りを証明していた
- 帰れぬ故郷への夢:
- 「裏切り者」とされ、もう母国には帰れないかもしれない
- もし帰れたら、大好きな故郷の市長になり地元の人々を幸せにしたいという夢がある
■ 4. 反逆罪で服役する女性たち
- 女性刑務所の収容者:
- 中南部クリビー・リフ近郊の女性刑務所には、露側のためにスパイ行為をした反逆罪などで服役する女性受刑者が約130人収容されている
- 受刑者の傾向:
- 刑務所長ウォロディミル・ツィフカ(54)によれば、約8割が大卒の年配者で、ソ連時代をいい思い出として記憶している人たち
■ 5. イリーナ・ボルコバの動機
- 罪状と経歴:
- 大学卒業後に南部ヘルソンで旧ソ連内務省に勤務した経験があり、ウクライナ軍の部隊や武器の位置に関する情報を露側に提供した罪で禁錮11年となった
- ソ連時代への誇り:
- ソ連時代は世界から恐れられる偉大な国であり、規律が重んじられる国だった
- 独立後への不満:
- 独立後は路上にホームレスや売春婦、薬物依存者があふれ、あっという間に堕落した
- それが長年の不満として残っていた
- 情報提供の理由:
- ウクライナは美しい国なのに偉大な指導者がいない
- 罪の否認:
- 近い将来、露政府が民間人の身柄交換で引き取ってくれると信じている
- 自分がしたことは間違っていない
■ 6. オクサナ・オレルの立場
- 罪状:
- ドネツク州出身のオクサナ・オレル(53)は、ウクライナ軍の位置情報などを露側に提供し禁錮15年となった
- 露軍を支援した理由:
- ロシアの方がウクライナよりも文化が近く、親しみが持てる
- 言語への反発:
- 地元では主にロシア語が話されるが、ウクライナ独立後はウクライナ語での読み書きや会話を求められる機会が増え、押しつけられている気がした
- 戦勝記念日への思い:
- 5月9日の対独戦勝記念日も祝われなくなり、祖父が戦った戦争が軽んじられたようで悲しかった
- ドンバス人という意識:
- 自身は東部2州のドンバス人という意識が強い
- 今の戦争は「兄弟」の殺し合いであり、犠牲があまりに大きすぎる
■ 7. 和平交渉をめぐる懐疑
- ベブズ補佐官の認識:
- ウクライナ代表団メンバーのオレクサンドル・ベブズ大統領府補佐官は、真の和平交渉の再開には懐疑的との認識を示した
- 停滞する米仲介交渉:
- 米国の仲介によるロシアとの和平交渉は2月以降停滞している
- ロシアの冬季攻撃準備:
- ロシアは冬季にエネルギー関連施設を狙った大規模攻撃を行う準備をしている
- 次の冬を重要な社会基盤への攻撃に使い、ウクライナに最後通告を突き付けようとしている
- 昨冬同様に厳冬期に電力やガスの供給を途絶えさせ、国民の士気を低下させて大幅な譲歩を迫る戦略を描いている
- 無人機攻撃の限界:
- ウクライナも無人機による長距離攻撃でロシアに経済的打撃を与えている
- 戦闘を続けるコストが侵略終結より大きいことを認識させるまでには十分ではない
- 米側への新提案:
- 交渉再開が見通せない中、ウクライナは戦闘終結に向けた新たな提案を米側に伝えた
- 詳細は明らかにしていないが、エネルギー関連施設への攻撃停止や、穀物輸送に欠かせない黒海での部分停戦といった措置が含まれる
- 露側からの回答は得られていない
- 北方領土訪問への非難:
- プーチン露大統領の北方領土訪問は緊張を高めることを狙ったものだと非難した
- 共通の脅威に直面する日本からの支援強化に期待を表明した