■ 1. 日本人裁判官への米制裁
- 制裁対象となった日本人:
- ICC(国際刑事裁判所)所長を務める日本人裁判官の赤根智子氏が、アメリカ政府から経済制裁を受けている
- 2026年8月18日、トランプ政権が赤根所長を制裁対象に指定した
- 赤根氏はテロリストでも犯罪組織幹部でもない:
- 日本で長く検察官を務め、日本政府の推薦でICC裁判官となり、現在はそのトップを務める人物
- 問題の本質:
- 一人の裁判官の処遇にとどまらず、「法の支配」に関わる問題である
■ 2. ICCとは
- 重大な国際犯罪を裁く常設国際裁判所:
- ジェノサイド、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪など、国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪を対象とする
- 犯罪を犯した個人の刑事責任を追及するためにつくられた
- 発足と日本の加盟:
- 2002年に発足し、日本は2007年に加盟している
- 日本政府自身もICCを「法の支配」を推進する重要な存在として一貫して支持してきた
- ICJとの違い:
- ICJは国家と国家の争いを扱い、ICCは重大な国際犯罪を犯した個人の刑事責任を扱う
- どちらもオランダのハーグにあり名前も似ているため混同されやすい
- ICJは国連の主要機関の一つだが、ICCは「ローマ規程」という条約に基づく独立した裁判所で国連の一機関ではない
- ICCの最大の特徴:
- 相手が国家元首や軍の指導者であっても、重大な国際犯罪について「一人の人間」として責任を問える
- 当然ながら、それを快く思わない国家も存在する
■ 3. 赤根智子の経歴
- 刑事司法の専門家:
- 1956年愛知県生まれ、東京大学法学部卒業後に検察官となる
- 法務省法務総合研究所長、国際司法協力担当大使、最高検察庁検事などを歴任した
- 日本政府による正式指名:
- 2016年、日本政府が赤根氏をICC裁判官選挙の候補者として正式に指名した
- 外務省は理由を、我が国が重視する国際社会における法の支配の推進にも寄与する、と説明している
- 選出とICC所長就任:
- 2017年のICC裁判官選挙で第1回投票88票を獲得し、トップ当選した
- 2024年3月、日本人として初めてICC所長に選出された
- 日本政府による歓迎:
- 政府はICCの役割がますます重要になっているとして就任を歓迎した
- 国際社会における法の支配の推進に積極的に貢献していくと表明している
- 本人は当初消極的だった:
- 自ら裁判官になりたいと手を挙げたわけではなく、日本政府・法務省側から出馬を強く要請された
- 迷った末に引き受けたとインタビューで語っている
■ 4. 制裁の実態
- 制裁の内容:
- 米国内の資産凍結、米国への入国制限、米国人・米国企業との取引禁止などが科される
- アメリカに行かなければ済む話ではない:
- 現在の世界経済は、米ドルやアメリカ企業のサービスと切り離して生活することが非常に難しい
- 赤根所長への実害:
- 8月26日のインタビューで、すでにクレジットカードが使えなくなっていることを明らかにしている
- 他のICC判事の事例:
- 2025年に制裁を受けた別のICC判事は、AmazonやGoogleのアカウントが突然停止した
- 購入済みの電子書籍まで利用できなくなった
- 制裁の性質:
- ある日突然クレジットカードやGoogle、Amazonが使えなくなり、場合によっては銀行取引にも影響する
- 一人の人間を世界規模の経済・情報インフラから締め出す力を持つ制裁である
■ 5. 制裁の背景にある逮捕状
- ネタニヤフ首相らへの逮捕状:
- ICCは2024年11月、イスラエルのネタニヤフ首相と当時のガラント国防相に逮捕状を発付した
- ガザでの戦争犯罪や人道に対する犯罪の疑いによるものである
- ICCの判断内容:
- 民間人を飢餓状態に置くことを戦争の手段として用いた戦争犯罪、殺人、迫害などの人道に対する犯罪について、両氏が刑事責任を負う合理的な根拠があると判断した
- 民間人に対する攻撃を意図的に指揮した戦争犯罪についても責任を問うている
- イスラエルと米国の反発:
- イスラエルと同国を強く支持するアメリカが猛反発した
- そもそもアメリカはICCの加盟国ではない
- 大統領令による制裁:
- トランプ政権は2025年2月、ICCへの制裁を命じる大統領令を発出した
- 大統領令にはネタニヤフ首相とガラント元国防相への逮捕状を根拠のないものと非難する文言が明記されている
- 制裁の背景にネタニヤフらへの捜査・逮捕状があることは、アメリカ政府自身が認めている
- 制裁対象の拡大:
- トランプ政権はICCの検察官や裁判官らを次々と制裁対象に指定した
- 2026年8月18日、対象がついにICCのトップである赤根所長にまで及んだ
- 裁かれる側ではなく、裁こうとした側が制裁されている
- プーチン大統領への逮捕状:
- 2023年、ICCはウクライナ占領地域からの子どもの違法な移送・追放に関する戦争犯罪の疑いでプーチン大統領に逮捕状を出した
- この逮捕状を出した3人の裁判官の一人が赤根智子氏だった
- その後、ロシアは赤根氏を指名手配した
- 赤根氏の立ち位置:
- プーチンであろうがネタニヤフであろうが、国家の力とは関係なく国際法に基づいて判断するICCの最前線にいた人物である
■ 6. 批判の自由と制裁の別問題性
- ICC批判そのものは否定しない:
- 米国側はICCを政治化された裁判所などと批判している
- ICCの判断を批判する自由はあり、逮捕状の妥当性を議論することもできる
- 司法機関だからといって、その判断が絶対に正しいわけでもない
- 批判と個人制裁はまったく別の話:
- 気に入らない司法判断をした裁判所の裁判官個人に、国家が経済制裁を科すことは別次元の問題である
- 赤根氏自身が何か犯罪を犯したわけではなく、国際司法機関の裁判官として職務を遂行しただけである
- その結果、世界最大の経済大国から個人として制裁され、実際にクレジットカードまで使えなくなっている
- 制裁の広がり:
- ICCの18人いる裁判官のうち9人が、アメリカの制裁対象となっている
■ 7. 日本政府の関与と対応
- 日本はICCを支持してきた国:
- 2007年の加盟以来一貫してICCを支持しており、外務省のページにも日本はICCを強く支持していますと明記されている
- 高市首相の支援表明:
- 今年1月7日、赤根所長は首相官邸を訪れ高市早苗首相と会談した
- 高市首相は、日本は法の支配を重視しており、ICCがその役割を果たせるよう日本政府としてICC及び赤根所長を力強く支援していく、と伝えた
- わずか数か月後の制裁:
- 日本政府が送り出し、法の支配の象徴として支援してきた日本人が、日本最大の同盟国から制裁された
- 政府の公式声明:
- 8月19日、日本政府は今回の措置は大変残念です、との声明を出した
- 関係国等と意思疎通を取りつつ、国際社会における法の支配の強化に取り組んでいくとした
- 高市首相も大変残念と述べた
- その後の表現の強まり:
- 日本の立場と相いれるものではない、大変深刻に受け止めている、と表現を強めている
- 高市首相は制裁発動前に赤根所長を対象にしないよう米側に累次にわたりぎりぎりまで働きかけたと説明している
- 事前の働きかけと事後対応の違い:
- 高市首相の説明はあくまで日本政府側の説明であり、重要なのは制裁された後である
- 少なくとも現時点で、日本政府がアメリカ政府に正式に抗議した事実は確認できない
- 制裁を撤回するよう正式に要求した事実も確認できない
- ハシゴ外しではないか:
- 本人が躊躇していたICC入りを強く後押ししておきながら、実際に制裁されれば正式な抗議も撤回要求も確認できない
- わずか7か月前に力強く支援すると本人に伝えた日本人であり、大変残念で終わっていい話ではない
- 自ら国際社会へ送り出した日本人すら守り切れないなら、誰が安心して国の要請に応えられるのか
■ 8. 赤根所長が日本に求めたこと
- 日本記者クラブでの会見:
- 8月26日のオンライン会見で、繰り返し語ったのが法の支配だった
- 日本政府への評価:
- これまでの日本政府の対応そのものを否定しているわけではなく、日本からの支援に感謝を示している
- 日本への要請:
- ICCと世界の法の支配を守り抜くための最大限の努力を求めている
- 日本はアメリカの同盟国だからこそ、ICCの重要性と正当性をアメリカに伝え、これ以上の制裁のエスカレートを防いでほしい
- 日本が中心となることへの期待:
- アジアの大国としてアメリカと太いパイプを持つ日本が中心となって動いてほしい
- 締約国と連携しながら、アメリカの強い制裁に対して抗う手段を提供してほしい
- 各国の態度を見るにつけ、日本に頼りたいし頼るしかないとの思いを強めている
- 世界が見ている:
- 日本が圧力に負けるのか、周辺国と協力してICCを支えるのかが問われている
■ 9. 法の支配か力の支配か
- 法の支配は相手を選ばない:
- 相手が日本最大の同盟国であるアメリカになった途端に大変残念で済ませるのは、都合のいい相手にだけ適用する態度である
- 相手が強大であればあるほど、法によって権力を縛る必要がある
- それこそがRule of Law、法の支配という考え方である
- 個人制裁が常態化した先にあるもの:
- 気に入らない司法判断に関わった裁判官を経済的に締め上げることが当たり前になれば、裁判官は法律に照らして正しいかではなく、この判決を出したら大国から何をされるかを考えざるを得なくなる
- それは司法ではなく、力の支配である
- 普通の人間にも及ぶ影響:
- 遠いハーグにある国際機関だけの話ではない
- 権力より法が上にあるという原則が崩れれば、その影響を最後に受けるのは権力を持たない普通の人間である
- 分岐点:
- 法によって力を縛る世界を守るのか、力のある者が法までねじ伏せる世界を許すのか、その分岐点にいま私たちは立っている
■ 10. 署名活動への呼びかけ
- 赤根所長の言葉:
- 8月26日の会見で、ICCは決して負けませんと語った
- 最後に英語でJUSTICE WILL AND SHOULD PREVAILと続けた
- これは正義は勝つだけでなく、正義は勝たなければならないという言葉である
- 正義は自動的に勝たない:
- 正義は黙って見ていれば勝手に勝ってくれるものではない
- 署名活動の開始:
- 赤根所長への制裁撤回と、日本政府に支持・保護の具体的行動を求める署名活動が始まっている
- 宛先は高市首相、茂木外相、平口法相、そしてアメリカ政府である
- 要求内容は制裁の即時撤回、日本政府による具体的な支持・保護、ICCの独立性を守るための行動である
- 署名への反響:
- 8月26日の時点で署名は8万を超えた
- 赤根所長自身が毎朝毎晩署名サイトを見ており、市民から寄せられる声について時々涙が出るほどうれしいと語っている
- 呼びかけ:
- 一人の市民として、日本政府には赤根所長を守ってほしいと声を上げたい
- アメリカ政府には、赤根所長をはじめとするICC関係者への制裁を撤回してほしい
- 賛同する方はぜひ署名に参加してほしい
- 署名の意味:
- 一人の日本人を応援するためだけの署名ではなく、法よりも力が強い世界にしないための署名である