■ 1. バスローブ会見の発端
- AIデータセンター会見:
- 8月6日、秋田県が日本最大級のAIデータセンター建設に関する記者会見を開催
- 米国のAI関連企業と秋田市のIT関連企業が、秋田市北部の工業団地に建設を進める計画
- 県発表ではない急な説明:
- 県のウェブサイトに発表資料は掲載されておらず、地元紙は当該企業2社が計画を明らかにしたと報道
- 報道を受けた急な説明であり、秋田県からの発表ではなかったと見られる
- 問題視された映像:
- オンライン出席した県産業労働部の企業誘致推進監(当時)の男性が、カメラをオンにしていなかった
- 他の県職員に促された末に映ったのは、スマートフォンと思しき縦長の画面
- メガネをかけた男性が白いバスローブ姿で隣の人物と談笑し、時折鼻からタバコの煙のような白いものを吐いていた
- 県の当初説明:
- 翌7日に産業労働部長が記者会見を開き謝罪
- 8月5日に東京で公務があり、翌日秋田に戻り、体調不良で自宅療養していたと説明
- 横にいたのは妻であり、タバコは無意識に1本吸ったと説明
- SNSでの炎上:
- 県の幹部職員がバスローブにタバコ姿で会見に臨んだ点に批判が集中
■ 2. 訂正と処分の内容
- 14日の二度目の説明:
- 男性は自宅ではなくホテルにおり、配偶者ではない女性=不倫相手と一緒にいたと訂正
- 6日の勤務については、7日になってから提出された休暇申請を事後承諾したと明らかにした
- 寄せられた苦情:
- 8月14日午前8時半までに、県へ145件の苦情が寄せられた
- 県が課した処分:
- 停職6カ月と、課長級から主幹への2段階降格
■ 3. 橋下徹の「重すぎる」
- 庁舎外の行為はプライベート:
- 8月17日放送の関西テレビ番組で、庁舎外でバスローブを着て他の女性といた点はプライベートの問題であり構わないと橋下徹氏が発言
- 非難対象は虚偽の休暇:
- 非難されるべきはウソをついて休んだ点であり、そこだけを見れば処分は重すぎると橋下氏は主張
■ 4. 人事院指針との照合
- 秋田県に量定基準なし:
- 教職員向けの懲戒処分の基準は教育委員会が公表しているが、県職員の具体的な量定基準は確かめられない
- 教職員と同じく、人事院の「懲戒処分の指針」等を参考に量定を決定していると思われる
- 虚偽報告の量定:
- 指針では、今回の処分対象と思われる虚偽報告は減給又は戒告とされている
- 停職に相当する事案:
- 正当な理由なく11日以上20日以内勤務を欠いた長期の無断欠勤や、他の職員への暴行による職場秩序の混乱が該当
- 秘密漏洩、入札談合への関与、セクハラなど、刑法犯として罪に問われかねない事案も停職に当たる
- 半年間は短くない:
- 県条例では停職期間は1日以上1年以下と定められているが、半年間は短いとは言えない
■ 5. 専門家の見解と県の主張のズレ
- 加重を認める弁護士見解:
- 谷真介弁護士は、記者会見の姿が地方公務員法第33条の「信用失墜行為」に当たると解説
- 県幹部として責任者的な立場にあったことも、処分を加重し得る「加重事由」となり得ると解説
- 県が挙げた処分理由:
- SNSなどで様々な情報が発信され批判が殺到し、社会的に大きな影響を及ぼすに至ったと県は説明
- その後の聞き取りでも職員が虚偽の説明を繰り返した点を、重大な信用失墜行為と位置づけた
- 判明しているウソの範囲:
- 聞き取りの詳細が明らかにされていない以上、メディアに出ている限りでのウソは限定的である
- 自宅ではなくラブホテルだった点と、妻ではなく配偶者ではない女性だった点に留まる
■ 6. 不透明なプロセスへの不信
- 反復された虚偽の未説明:
- その後に繰り返されたという虚偽の説明の中身を、県は説明しなければならない
- 説明がない以上、その職の信用を傷つける行為=信用失墜行為が何なのか分からない
- 休暇申請の事後受理:
- 批判された会見の翌日に提出された休暇申請を事後的に受理した県の姿勢は問われる
- 休暇中だったから問題はないという言い訳で、事案をやりすごそうとした可能性がある
- 処分内容の未公表:
- 県のウェブサイトに今回の処分についての説明は見つけられない
- 人事院の公表指針では、職務遂行上の行為に係る懲戒処分は公表するものとされている
- 社会的に大きな影響を及ぼした以上、多くの人に分かる形で公にしなければならない
■ 7. ネット批判と処分の加重
- 加重の説明がつかない:
- 虚偽の説明=減給又は戒告に虚偽説明の反復=信用失墜行為が加わったとしても、6カ月の停職まで重くなるとは考えにくい
- 後者は県のサイトに公表されておらず、報道を見る限りでも詳らかではない
- 空気に抗えない行政への疑い:
- 批判が殺到する結果を行政機関が重く見て、処分の検討にあたって考慮した可能性がある
- 法令を最も遵守すべき行政機関が、減給又は戒告では炎上を鎮火できないと慌てて加重した可能性がある
- 問うべき論点:
- 県がどの事情をどの程度考慮したかという内部過程が不明である以上、SNSが処分を重くしたと断定はできない
- 問うべきは断定ではなく、SNS上の批判を行政機関が懲戒処分の理由としてどこまで考慮してよいかである
■ 8. 炎上はSNS以前から存在
- SNS悪玉論ではない:
- SNSが行政を歪めたと言いたいわけではなく、四半世紀以上前にも同様の幹部職員の炎上があった
- 長野県の名刺折り曲げ事件:
- 2000年10月、長野県知事選挙に当選した田中康夫氏の初登庁時、挨拶回りで名刺を配布した
- 当時の企業局長は、社員に名刺を渡す会社は倒産する会社だと知事に応じた
- それでも名刺を渡した知事に対し、企業局長はなかったことにしてよいかと言いながら名刺を折り曲げた
- 苦情殺到と知事の対応:
- やりとりがテレビカメラの前で行われ全国に報じられると、長野県庁には苦情の電話が殺到し、今で言えば炎上した
- 4日後に企業局長は辞表を提出したが、田中氏が慰留し、その職にとどまった
- 今回とは逆に、集まった苦情を逆手にとって知事がみずからの器の大きさを示した事案である
■ 9. 秋田県知事の対応の変化
- 「ガチャン」の前知事:
- クマの駆除への抗議電話を切るポーズを見せた佐竹敬久前知事は強気であった
- プレジデントオンラインの取材に対しても、その「ガチャン」を再現していた
- 謝罪する現知事:
- 鈴木健太知事は、県民に大変不快な思いをさせたことを深くわびるとコメントした
- 苦情件数の比較:
- 145件の苦情は、時代の違いを考慮した上でなお、2000年に長野県へ寄せられた1万件よりはるかに少ない
- 20日後に残る疑念:
- 批判が殺到してから20日ほど過ぎた今、橋下徹氏や谷真介氏らにより重すぎる、やや重い印象との疑念が呈されている
■ 10. 行政の原則と歯止め
- 炎上は短命、処分は長期:
- SNSで様々な情報が発信される状況はうつろいやすく、忘れられやすい
- ニュースそのものへの関心よりも、処分の妥当性のほうが今なお注目されている
- 炎上は短命だが処分の傷は長く残り、男性職員にとっては職を失うほどのインパクトを持つ
- 右往左往する行政の危うさ:
- こうした状況に右往左往していては、行政の原則はいくらでも捻じ曲げられてしまう
- 十分すぎる社会的制裁:
- 日本では大きく話題になった事件の刑事裁判で、社会的制裁を受けているとして量刑上考慮されるケースが少なくない
- 今回も実名でさんざん報道されており、十分過ぎるほどに社会的制裁を受けている
- 県がとるべき対応:
- 秋田県はまず処分の妥当性について、ウェブサイトなどを通じて広く理由を明らかにすべきである
- それが難しいのであれば、さまざまな基準に照らしてあらためて考え直すべきである
- 加重の歯止め喪失:
- ネットリンチに遭うだけでなく、リンチそのものが処分をさらに重くするなら、加重に歯止めがきかなくなる