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「反戦」「反差別」を掲げる左派周辺に広がる陰謀論

要約:

■ 1. 二つの炎上に潜む共通構図

  • 2026年9月上旬の二つの出来事:
    • 「反戦」を掲げるアニメーターが、ロシアの侵略を正当化する団体に協賛していた
    • 「差別ではない」と釈明する東大教授の文章に、典型的な陰謀論の語彙が練り込まれていた
  • 一見無関係な個別の炎上:
    • 並べてみると、奇妙な共通点が浮かび上がる
  • 左派・リベラルの語彙の裏側:
    • 「反戦」「反差別」「ネトウヨは敵」という看板の裏に、雑多な「隠された敵」の物語が同居している
    • ロシアの対外プロパガンダ、ディープステート論、反ワクチン言説、皇室をめぐる血統陰謀論が並ぶ
  • 既視感のある構図:
    • 反ワクチンやロシア擁護は旧れいわ新選組がはっきりと掲げたことがあり、さほど意外ではない

■ 2. 中野彰子氏: 反戦バズの後に掘り出された言説

  • バズった反戦アニメ:
    • アニメーターの中野彰子氏が2026年9月2日に短い反戦アニメを公開し、閲覧1000万超に達した
    • 注目が集まると過去の投稿が掘り起こされ、デマ拡散や直球の陰謀論が並んでいたことが問題になった
  • 一水会への協賛表明:
    • 批判に対し、自分はサヨクではなく一水会の理念に協賛する保守だと返答した
    • 一水会はロシアのウクライナ侵攻をプーチンの訴えとして受け止める立場を公にしてきた団体である
    • 反戦動画を出しつつ侵略を支持する団体に協賛するという自己規定そのものが論点となった
  • ゼレンスキー人身売買デマ:
    • 2026年2月、高市早苗氏のウクライナ支援メッセージを引用し、ゼレンスキーにエプスタイン文書由来の人身売買疑惑があると投稿した
    • 支援は疑惑解決後でよく、人身売買する者に金を渡すのは加担と同じだと主張した
    • この言説は親露プロパガンダが拡散した典型的なデマであり、ファクトチェックで繰り返し否定されている
    • 文書中に名が現れること自体はあるが、犯罪的関係を示す証拠はない
    • コミュニティノートでも親ロシア派のプロパガンダと指摘され、BBCもロシア発の偽情報キャンペーンを報じている
    • 反戦アニメで注目を集めた人物が、侵略側に都合のよいフェイクを流していたという落差は大きい
  • ディープステート言説:
    • ブルームバーグを個人名かつDS構成員として扱い、高市早苗氏を悪く言うはずがないと投稿した
    • エプスタインやDSの陰謀がなければマイケル・ジャクソンは今も活動していたはずだとも語った
    • エプスタイン事件の実在は論証可能だが、何でもDS陰謀に還元するナラティブは検証可能性を失ったデマである
  • 反ワクチン・パンデミック陰謀論:
    • コロナワクチンやパンデミックがやらせではないかという都市伝説が実際に行われていたと述べ、日本で報道されないことを問題視した
    • 河野太郎氏には、勉強して世界のことが分かったのであなたの陰謀も分かってきたと返信した
    • その「勉強」の中身は検証された知見ではなく、YouTubeや陰謀論ブログの語彙である
  • 「従順な家畜」言説:
    • ロシアのキツネ家畜化実験を引き、日本人も従順な個体を選別交配すれば家畜のような奴隷になると投稿した
    • 動物の家畜化実験を日本人に当てはめる語りは優生思想・人種差別の系譜に近く、反戦のイメージと著しく食い違う

■ 3. 本田由紀氏: 釈明に織り込まれた陰謀論的構図

  • 発端の投稿:
    • 東京大学大学院教授で日本教育学会会長の本田由紀氏が、2026年9月1日に三笠宮家の彬子さまや皇族費増額報道に触れた
    • この人たちを見るたび遺伝的要因のおそろしさを感じる、露出の増加は逆効果かもしれないという趣旨を投稿した
    • 血統・遺伝を理由にした否定的評価ではないかという指摘が相次ぎ、投稿は削除され、所属大学や学会の対応も報じられた
  • 9月5日の「解説」:
    • 遺伝的要因のおそろしさとは皇族への差別ではなく、遺伝子を共有する血縁者を優遇する麻生太郎氏への批判だと釈明した
    • 麻生氏が天皇の外戚として平安時代の藤原氏のように権力基盤を保持しようとしている、という説明が組み込まれていた
    • エプスタインとの親密関係をめぐる言説も説明の一部として使われ、典型的な左派陰謀論だと批判された
  • 皇族費増額の実際:
    • 政治学者の木下ちがや氏は、麻生の指示による増額はありえず、法改正の結果だと説明した
    • 2026年7月の皇室典範改正に合わせて成立した改正皇室経済法により、独立生計の内親王・女王の皇族費が男性皇族と同額に引き上げられた
    • 宮内庁の令和9年度概算要求にも増額分が計上されており、制度的な措置であることが確認できる
    • 三笠宮彬子への支給増額は、支給の男女差をなくす皇室まわりのジェンダー平等政策のひとつと整理できる
    • これを麻生家の私的優遇と説明するのは、制度の説明として飛躍が大きい
  • 専門知の空転:
    • 本田氏は日本学術会議社会学委員会ジェンダー政策分科会の元委員長である
    • ジェンダー平等で説明しやすい制度変更を外戚陰謀の文脈に引き寄せるなら、専門領域で目を曇らせていると言わざるを得ない

■ 4. 一水会と共産党支持層の親和性

  • 一水会の立場:
    • 愛国者団体を標榜しつつ、ロシアやアサド政権に理解を示す言論で繰り返し批判されてきた
    • 2022年3月には、祖国とスラブ民族共同体のためのプーチンの訴えを真剣に受け止めると投稿した
    • NATO傀儡政権のスラブ解体策謀の犠牲になった親ロ・ウクライナ国民に哀悼の意を表するとも述べた
    • 2024年12月にはアサド政権を相対化し、イスラエルの虐殺を免罪する西側報道への警戒を煽った
    • 侵略や残虐行為の責任を曖昧にする語り口である
  • 松尾潔氏の事例:
    • 2024年7月8日、第256回一水会フォーラムに「ジャニーズ問題と都知事選」の演題で出演した
    • ほぼ1年後の2025年7月28日には、太田啓子氏らと共産党まわりの「デマと差別が蔓延する社会を許しません」の発起人として記者会見に姿を見せた
  • 共産党支持層の傾向:
    • ロシア侵略やアサド政権を擁護する側のフォーラムに立った人物が、翌年には反デマ・反差別の顔として共産党系の場に立つ
    • 共産党の支持層が一水会を忌避しないという傾向は、中野氏に限らず見られる

■ 5. 左派側の韓国支配陰謀論

  • ネトウヨ言説への接近:
    • 統一教会批判を軸に安倍晋三氏や自民保守派を攻撃してきた界隈の一部が変質している
    • 「日本は韓国に支配されている」という、全盛期ネトウヨを彷彿とさせる構図にシフトしている
  • 桜ういろう氏の事例:
    • 2023年に共同通信社の元名古屋支社デスクではないかと身元を特定され、炎上と譴責処分を受けた左派系インフルエンサーである
    • 「政策はソウルで決まる」「ネトウヨの起源は韓国」「安倍家は韓国人と入れ替わっていた」といったナラティブを展開した
    • ネトウヨの嫌韓は差別だと批判する側にいたはずの言説圏から出てきた点が問題である
    • 左右のラベルを横断して同じ物語の型が再生産されている例にほかならない
    • 同系統のナラティブは映画評論家の町山智浩氏でも指摘されている
  • 陰謀論の伝染経路:
    • 反統一教会の旗印が反韓国・反政府陰謀論へ変質し、かつてのネトウヨ的な韓国支配論と重なっている
    • 2ちゃんねる嫌韓論壇にも、韓国が統一教会から自民党のルートで日本政府を支配するというナラティブが存在した
    • ネット右翼側の統一教会陰謀論が左派に伝染した形とも言える
  • より極端な事例:
    • 社民党や太田啓子氏、金子勝氏をリポストする左派寄りアカウントが、文鮮明が日本人の人口削減計画により第三次世界大戦を切望し裏工作していると投稿した
    • 反カルト・反安倍という政治的動機を超え、人口削減と一枚岩の黒幕という典型的な陰謀論パターンに落ち込んでいる

■ 6. 蹄鉄理論と陰謀論の雑食性

  • 事例に共通する奇妙さ:
    • 反戦、反差別、弱者擁護という左派・リベラルの語彙の担い手が、気づけば侵略正当化論やDS論と地続きになっている
    • 反ワクチン言説、皇室をめぐる陰謀論的図式、韓国支配というネトウヨ的言説とも連続している
  • 蹄鉄理論:
    • 政治的立場を一直線ではなく馬蹄形に捉える見方で、ジャン=ピエール・フェイエが提唱したとされる
    • 左右の対立軸を突き詰めると、極左と極右は中央の穏健派よりも互いに似通ってくる
    • 権威主義的な体質、既存の制度・報道への不信、本当のことは隠されているという世界観で共鳴し合う
    • ただし中道こそ正しいというレトリックに使われがちで、学術的に厳密なモデルとは言い難いという指摘も多い
  • 独白型の信念体系:
    • 被害妄想的な傾向を持つ人が陰謀論にはまりやすいと考えている
    • Ben GoertzelとTed Goertzelの議論を踏まえれば、対話型の信念体系は批判や客観性を受け入れる余地がある
    • 独白型の体系はその余地が少なく、ある陰謀を信じるとほかの陰謀も信じやすくなる
    • 真偽とは別に、独白型のほうが矛盾を無視して混ぜる傾向にある
    • バークン『A Culture of Conspiracy』も、偶然の否定と一枚岩の陰謀主体を陰謀論文化の核として扱っている
  • 陰謀論を見分ける三点:
    • 陰謀をたくらむ集団の存在を主張する
    • 偶然を否定し、すべてが裏でつながっていると考える
    • 世界を善と悪に二分する
  • 矛盾の同居:
    • 三点が満たされる限り、複数の、時には互いに矛盾する陰謀論をまとめて受け入れる傾向がある
    • 左右どちらにもスイッチしうるし、両方が一人の中に併存すらする
  • デヴィッド・アイクという先例:
    • 1980年代終わりから緑の党の全国スポークスマンを務めた
    • 1990年前後の神秘体験を境に、爬虫類型異星人が世界を支配しているという陰謀論の教祖へ転身し、緑の党を追放された
    • それでも出自の政治的立場を問わず幅広い支持者を集め続けた
    • 環境・平和運動から出発し反ユダヤ主義的陰謀論の象徴となった経路は、陰謀論への親和性が党派とは別の軸で働くことを示す
  • 雑食性という結論:
    • 陰謀論を好む態度そのものが一種の雑食性である
    • 権威や公式発表への不信という一点さえ共有していれば、反戦・反差別の看板の下でも区別なく取り込んでしまう
    • 逆に保守を自称する人が、反米・反グローバリズムの一点でロシア支持に回る
    • そこから旧れいわ新選組と参政党の間に見られたような支持者のスイッチが起きる
    • どちらも、事実検証より先に「隠された敵」を措定する物語の型が先行している点で根は同じである