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コミュニケーションしすぎ問題

要約:

■ 1. エコーチェンバー/フィルターバブル論の問題点

  • 概念の一般化:
    • エコーチェンバーやフィルターバブルという言葉は定着して久しく、現在では小学校の道徳の教科書でも解説されている
    • インターネットで自分と同じような意見ばかりに取り囲まれる状況を指す言葉
  • 実証研究による支持の薄さ:
    • これらの概念は実証的な研究ではあまり支持されない
    • ソーシャルメディアのフォロー/フォロワー関係は同じ価値観のユーザー間で起きることが多い
    • しかしユーザーの情報接触をみると、思いのほか様々なメディアに接している
  • 情報アクセスコストの低さ:
    • 支持されない大きな要因は、インターネットの情報アクセスコストの低さ
    • 朝日新聞の定期購読者が産経新聞を読むには駅かコンビニまで買いに行く必要があるが、ネットなら数クリックで済む
  • アルゴリズムの寄与の小ささ:
    • ソーシャルメディアのアルゴリズムはエコーチェンバーに大して寄与していない
    • Xのアルゴリズムはむしろユーザーが嫌がるものをかえって表示させる傾向にあるという研究もある

■ 2. コミュニケーションへの信仰

  • 論じたい前提:
    • エコーチェンバーやフィルターバブルが問題だとされる前提は、意見の異なる他者とコミュニケーションをとるのは良いことだという発想
    • その発想はもはや一種の信仰と言っていい
  • 前提への懐疑:
    • エコーチェンバー論を提起したキャス・サンスティーンには怒られそうだが、その前提にはかなり懐疑的
    • いまソーシャルメディアが荒れているのは、意見の異なる他者とのコミュニケーションをしすぎていることが原因
    • 書かれたものを読むだけという一方向的なものも、そのコミュニケーションに含まれる

■ 3. まともな話し合いに必要な条件

  • 例外的な環境の必要性:
    • 意見の異なる人びとがちゃんと話し合うためには、かなり例外的な環境が必要
  • 三つの条件:
    • お互いが対等な立場であること
    • お互いが相手の話にちゃんと耳を傾けること
    • お互いに譲り合う精神があること
    • さらに付け加えるなら、お互いが目的を共有しているとなおよい
  • ソーシャルメディアの欠如:
    • 大部分のソーシャルメディアでのコミュニケーションにはそれらの要素が全部ない
    • 一方が実名で他方が匿名だったり、相手の書いていることをろくに読もうとしていない
    • それぞれ妥協の余地が一切なかったり、お互いが別の目的をもっているのが常
    • それでまともな話し合いができると思うほうがどうかしている

■ 4. 質の悪いコミュニケーションの害

  • やらないほうがマシ:
    • 質の悪いコミュニケーションなら、はっきり言ってやらないほうがマシ
  • 先鋭化を示す実験:
    • 米国の共和党支持者と民主党支持者のタイムラインに対立党派の意見を意図的に流し込む実験がある
    • 自分の党派が攻撃されているのをみて、被験者がかえって先鋭化したことを示す研究もある
  • 攻撃性の増大:
    • 異なる派閥がバチバチやりあっている空間にずっと身を置いていると、多くの人はしだいに感情的になり攻撃的になる
  • 自身の体験:
    • Xの「おすすめ」でムカつく投稿をみせられ、書き込みはしないものの罵詈雑言を口にすることが多い
    • カッとしたまま文章を書き、一息ついて投稿せずにデリートすることも結構ある
    • 書くという行為はそれだけでかなりスッキリする
    • ついうっかり、やな感じの引用ポストをしてしまうこともある
  • 居場所の選択:
    • Xにいると攻撃性を抑えられなくなるため、最近は「リベラルのエコーチェンバー」ことBlueskyになるべく居るようにしている

■ 5. 理解の追求がもたらす関係の破綻

  • 相互理解という目的の逆説:
    • コミュニケーションの目的は相互理解だとされる
    • しかし理解を追求しすぎると、人はかえって他者といられなくなってしまう
  • 質問が続くコミュニケーション:
    • 最近のはてなで「果てしなく質問が続くコミュニケーション」が話題になった
    • 納得できる答えが返ってくるまで質問を続けた結果、関係が破綻してしまった
  • 欠けている諦観:
    • この問題は、つまるところ他者とは理解し合えないという諦観が欠けていること
    • 話し合い自体が無意味だというわけではなく、先に挙げた条件を満たせるなら素晴らしい結果を生むことはある
    • しかし別人格である以上、お互いが究極的に理解し合うのは不可能
  • 奥村隆の指摘:
    • 社会学者の奥村隆は『<他者>といる技法 コミュニケーションの社会学』のなかで次のように述べている
    • 他者はわかるはずと思うといっしょにいられる領域は限定される
    • わからないのが当然と考えるならば、ずっと多くの場合いっしょにいることができる

■ 6. トピックを選ぶという実践

  • 父との関係:
    • 亡くなった父とは政治的にまったく違う立場で、たまに政治の話をするとまるで意見が合わなかった
    • そのため父とはなるべく政治の話をしないようにしていた
    • 仕事の話、子どもの話、昔の話などをしていると楽しく時間を過ごすことができた
  • 想定される批判への応答:
    • こういう話をするとリベラルは異なる意見の持ち主と対話しようとしないと思われるかもしれない
    • しかし、それの何が悪いのか
    • 政治の話で限られた時間をいがみあって過ごすのではなく、トピックを選ぶことで父と一緒にいることができた

■ 7. 分かりあわずともいられる状態

  • 公共空間との差異:
    • 父との事例は家族の内輪の話であって、公共空間でのコミュニケーションとは異なる
  • ソーシャルメディアの構図:
    • ソーシャルメディアでは、もっとも意見の異なる人たちが、もっとも意見の合わないトピックで角を突き合わせている
    • しかも営利目的で対立を煽り立てている人たちまでいる
    • そのようなコミュニケーションは、対立する派閥への憎悪を深めるだけ
  • 必要なものの転換:
    • 必要なのはお互いにわかり合おうとする努力ではない
    • 分かりあわずともいられる状態を模索していくこと
  • 歴史的な裏づけ:
    • マスコミュニケーションの効果研究の歴史が教えるように、ソーシャルメディアがない時代、人は似たような意見の人たちに取り囲まれて暮らすことが多かった

MEMO: