■ 1. ラスベガス地下のトンネル網
- 歓楽都市の地下:
- 入り口付近のホワイトボードには「歓楽都市の地下。望まれない者たち」と書かれている
- 賭博で成り立つきらびやかな都市で、観光客の目に入らない闇が広がる
- トンネルの規模:
- ホームレスが千人以上暮らすと言われる巨大な地下トンネル網
- カジノが入る人気ホテルが並ぶ大通りから西に約1キロの地点に入り口がある
- くぼ地に降りると高さ約2メートル、幅約3メートルのコンクリート製の横穴が六つ並ぶ
- 本来の用途:
- このトンネルは降雨時の排水用
- 大雨が降ると川のように水が流れるため退去が必要になる
- 過去には死者も出ている
■ 2. トンネル内部の様子
- 取材時の猛暑:
- 訪れたのは砂漠地帯のラスベガスが1年で最も暑くなる7月の昼間
- 持参した温度計は外気40度を示した
- トンネル内の気温は34度で外よりは低い
- 内部の環境:
- ほこりっぽく、ショッピングカートや自転車、ごみ箱などが雑然と置かれている
- 壁には落書きが目立ち、暗闇の中で頼りになるのは頭部のライトと懐中電灯の明かりのみ
- 暗さのせいで気付かなかった水たまりを踏み、スニーカーのかかとから水が入った
- トニーさんの住空間:
- 入り口から約100メートル歩いた先に、車のカバーのようなものがカーテンとして掛けられている
- その奥に拾ってきたマットレスとソファがあり、マットレスはむき出しで黒ずんでいる
- 奥の暗闇では猫とみられる動物が動き、トニーさんは自分よりも居住歴が長いと笑う
- 住人同士の共有:
- トニーさんはクーラーボックスから周囲の住民と共有する溶けかけのバニラアイスをすくっていた
■ 3. トニーさんがホームレスになった経緯
- 旅行中の出来事が発端:
- 約8年前、南部ミシシッピ州から西部カリフォルニア州へ車で旅行中にラスベガスへ立ち寄った
- 駐車違反で車をレッカー移動され、引き取る金がなくそのままホームレスになった
- 今もここにいるとは思わなかったと振り返る
- 屋外からトンネルへ:
- 当初は屋外で暮らしたが、寝ている間に物を盗まれる生活に疲れて嫌気が差した
- 約半年後、屋根があり拠点のような感覚を得られるトンネルに移り住んだ
- 移住により盗難を気にする必要はなくなった
- 水よりがれきの脅威:
- 水は大した問題ではなく、押し寄せるがれきこそが危険だと語る
■ 4. 収入と薬物
- 換金による稼ぎ:
- 缶のほか、アルミニウムや銅などを拾って換金している
- 1日の収入は20~150ドル、1ドル160円換算で3200~2万4000円になる
- 少なくない額を手にしている日がある
- 使い道:
- 収入は食べ物とドラッグに充てているとさらっと答えた
- メタンフェタミンの常用:
- 使用しているのは覚醒剤のメタンフェタミンで、頼るものがほしくて手を出した
- 路上の売人から買い、毎日使っている
- 使わないと力が湧かず、いらいらすると明かす
- 住人のコミュニティー:
- 六つの入り口の周辺にはそれぞれ人がすみ着いている
- トニーさんは周囲の住人と顔見知りで、コミュニティーのようなものがあると話す
- 住み始めた当初から一緒でルームメートと称した男性は、末期がんで2週間ほど前に亡くなった
■ 5. 無力感がにじむ言葉
- 星条旗と愛国心:
- 取材時にトニーさんが座っていたいすの隣にはアメリカの国旗があった
- ホームレスと国旗という組み合わせに意外性を感じた
- 意外に思ったのは、ホームレスは世の中に対して悲観的な見方をするという思い込みが私にあったからかもしれない
- 旗は自分のものだとし、私は国を愛していると説明してきた
- 支援を使わない理由:
- 国は十分に支援を提供しており、自分が利用していないだけだと言う
- 関心はあるが利用を先延ばししていると答える
- 社会復帰への停滞:
- 支援団体には関心があると伝えているが、実際には参加していない
- 参加する方法については千回くらい聞かれたが、考えても答えが出ないと述べる
- 社会復帰へ踏み出せない無気力さが強くにじんだ
■ 6. 支援団体が語るトンネルの実態
- 支援団体シャイン・ア・ライト:
- 地元のホームレス支援団体で、定期的にトンネル内を巡回している
- ホームレスに社会復帰プログラムへの参加を促している
- 幹部のロバート・バングハートさん(50)がトンネル網の実態を語る
- トンネル網の規模:
- 総延長は約965キロで入り口は多数ある
- 簡単に入れる場所もあれば、フェンスを越えはしごを使わないと入れない場所もある
- 住人の構成:
- 全部で1200~1500人が暮らしているとみている
- 物価高を背景に住人は増え続けており、大半が男性で中高年が多い
- ごみ漁りや万引、自身のフードスタンプの販売など、さまざまな方法で金を得ている
- 定職に就いている人もいるが非常に限られる
- 地下に住む理由:
- ホームレスは人目を避けようとするもので、地下に入れば誰にも見られない
- 夏には外の気温が50度近くに達する日があり、冬は冷たい風が吹く
- トンネルではこうした厳しい気候から多少守られる
- 薬物と武器:
- 精神的な問題を抱えたり、薬物に依存したりしている人が多い
- 最も広まっている薬物はメタンフェタミンである
- 身を守るために何らかの武器を持っていることが基本で、ナイフや斧、パイプがよくある
■ 7. バングハートさん自身のホームレス体験
- 転落の経緯:
- 元々は結婚して子どもがおり、仕事もあった
- かつて薬物を使っていたことがあり、あるとき再び手を出した
- 1カ月後に家族が離れ、家賃が払えなくなった
- ホームレス期間:
- 2013年から2018年をホームレスとして過ごした
- このうち後半の2年半をトンネルで暮らした
- 薬物依存とコミュニティーの規範:
- メタンフェタミンのほか、ヘロインも時々使う薬物依存症だった
- トンネル内の各コミュニティーにはルールのようなものがある
- 住んでいた場所では周囲がヘロインの使用を好まず、使う時は1、2日別の場所で過ごした
- 絶望の深さ:
- 最後の1年は朝に目覚めるたび、なぜ起きてしまったのかと怒っている自分がいた
- 全て終わってほしいと願っており、絶望した状態から回復するのは本当に難しい
■ 8. 社会復帰の壮絶なきっかけ
- 襲撃事件:
- 2018年のある日、ごみ収集箱を漁ると宝石類や電子機器の入ったスーツケースを見つけた
- 金や薬物と交換する業者の元を再訪した際、待ち伏せしていた男3人に襲われた
- 斧で頭蓋骨を割られ、脚をナイフで刺された後、線路に運ばれて放置された
- 一度目覚めたが再び気を失い、3日後に病院のベッドで目を覚ました
- 回復と使命:
- 路上生活に戻ったら死ぬと思い、薬物を断ちたかった
- 治療を受けた後にシャイン・ア・ライトでボランティアを始め、3年後に職員になった
- ここでの仕事はライフワークであり、助けが必要な人に奉仕しているとき神を近くに感じる
■ 9. 全米のホームレス問題と政策
- 全米の規模:
- ホームレスの問題はラスベガスに限らず、全米での数は近年高止まりしている
- 政府によると昨年1月時点で路上や車などで暮らすのは全米で推定約26万人
- トランプ大統領令:
- 昨年7月、ホームレスらを排除し路上での犯罪と混乱を終わらせるとする大統領令に署名した
- 違法薬物の使用や野宿、不法占拠を禁止する州や市に優先的に助成金を支給すると定める
- ホームレスの取り締まりに重点を置く内容である
- バングハートさんの批判:
- 1度ホームレスになってしまうと自力で抜け出すのはほぼ不可能だ
- そんな危機的な状況にあるホームレスを犯罪者扱いするトランプ氏は正気とは思えない
■ 10. 取材者について
- 井上浩志記者:
- 2011年に共同通信入社、現在はロサンゼルス支局長
- アメリカで初めてホームレス問題を取材したのは、赴任した2023年に訪れたサンフランシスコ
- きっかけは、路上で倒れて動かないホームレスとみられる男性の脈を警察官が測る場面を目撃したこと