■ 1. 揺らぐ戦後国際秩序と国連
- 国連が直面する問い:
- 80年にわたり大国間の比較的平和を維持してきた諸原則が崩れ始めているのではないかという問い
- グテーレス事務総長の現状認識:
- 世界の断層線は広がり、亀裂は深い谷になったと総会冒頭で表明
- ラーマン総会議長の問題提起:
- 人々が問うのは国連の存在の有無ではなく、国連が機能しているかどうかだと発言
- 米国の指導力への同じ問い:
- トランプ大統領は国連演説で米国はかつてないほど強いと宣言
- 国家主権、米国の力、敵対勢力と対決する意思を強調
- 一方ワシントンでは、1945年以降自ら構築した国際安全保障体制を今も主導する価値があるかが議論されている
■ 2. ロシアの脅威と米国の欧州政策転換
- NATOの脅威認識:
- ロシアを加盟国の安全保障に対する最も重大かつ直接的な脅威と位置づけ
- 根拠は軍備拡張、核による威嚇、破壊工作、サイバー攻撃、偽情報の拡散
- ウクライナでの戦争継続やNATO諸国の領空の頻繁な侵犯も根拠に含まれる
- 米国の伝統的な欧州観:
- 敵対的な大国による欧州支配の阻止は米国自体の国益にかなうという認識
- 欧州諸国への慈善的な配慮ではない
- 抑止を優先した理由:
- 第二次世界大戦、ベルリン封鎖、NATO創設、対ソ対立から導かれた教訓
- 手遅れになってから侵略に対処するより、事前の抑止のほうが安上がりで安全という判断
- そのため米国は欧州に部隊や核戦力を配備し、同盟関係を維持してきた
- 変化する抑止の負担:
- 7月のアンカラ首脳会議で、ウクライナ軍事支援の大部分を欧州加盟国とカナダが負担していることをNATOが認めた
- ルッテ事務総長は、PURLと米国のFMSを通じ過去1年で100億ドル超が割り当てられたと説明
- PURLでは米国製兵器を米国以外の加盟国やパートナー国の費用でウクライナに供与するケースが増加
- ルッテはこれを欧州の役割強化として評価
- 米国の財政的関与の縮小:
- 見方を変えれば、米国は自ら最大の役割を果たして構築した欧州の秩序防衛の仕組みへの直接の財政的関与を減らしている
■ 3. 破られたブダペスト覚書
- 覚書の内容:
- 1994年、ウクライナはソ連から引き継いだ核兵器の放棄に同意
- ロシア、米国、英国はウクライナの主権と既存の国境の尊重を再確認
- 3カ国はウクライナの領土保全に対する威嚇や武力行使を控えることを誓約
- 覚書の性格:
- 北大西洋条約第5条のような軍事保証ではなく、米国の自動参戦の約束でもない
- それでも大国による主権尊重の保証のもとで核を放棄したという政治的問題は軽視できない
- 米国の保証の意味:
- ロシアの侵攻により合意はあからさまに破られた
- 保証が最も試された時に対応費用を他国が負担するなら、その保証に何の意味があるのかが問われる
- 核不拡散体制への影響:
- 核不拡散体制は、核兵器を持たなくても存続できると各国が信じられるかに依存している
- そのためウクライナだけの問題ではない
■ 4. 「ポスト・アメリカ」へ向かう欧州
- フィオナ・ヒルの指摘:
- 米国の指導力の低下と同盟関係の緊張により、欧州とウクライナは新たな安全保障の枠組みを模索せざるを得ない
- ウクライナも欧州もすでにポスト・アメリカの世界に入りつつあると結論
- マリオン・メスマーの論考:
- トランプ政権は欧州の安全保障への関与縮小に本気で取り組み始めたと分析
- 欧州は米政府の意図を以前にも増して警戒している
- 米国の関与縮小を敵対国が認識した場合、抑止力が信頼に足るものであり続けるか疑問を提示
- リチャード・バロンズ退役大将の発言:
- 欧州のNATO加盟国は、米国への依存を大幅に減らした形で4年以内にロシアへの抑止力を再構築する必要があると主張
- NATO創設を主導した国の同盟国からこうした発言が出るのは異例
■ 5. 誤算がもたらす危険
- 抑止力の不確かさ:
- 第3次世界大戦が不可避なわけではない
- ただし一方が相手の言葉どおりの行動を疑い始めた時、大規模な戦争が起こりやすいことを歴史は示している
- チャタムハウスの警告:
- 十分な安全保障措置を伴わない停戦では、ロシアは態勢を立て直し軍備を再整備するおそれがある
- 破壊工作、サイバー攻撃、政治介入による圧力も続くおそれがある
- ウクライナ問題の本質:
- 単なる停戦ラインの線引き争いではない
- 欧州の国境が武力で引き直されることを再び容認するかが問われている
■ 6. 機能不全に陥る国連安保理
- 国連憲章との矛盾:
- 憲章第2条は他国の領土保全や政治的独立に対する武力による威嚇・武力行使を禁止
- それでもロシアは安保理常任理事国にとどまっている
- 2022年2月の侵攻非難決議案は11カ国が賛成したが、ロシアの拒否権で否決
- 危機の核心:
- 国際平和維持に特別な責任を負うロシアが、自国の戦争に関する行動を阻む権限も持っている
- 改革の必要性:
- 有能な後任事務総長の選出は重要だが、トップの交代だけでは不十分
- ラーマン議長は国連の問題は慢性的かつ根本的だとし、安保理改革を強く要求
■ 7. 米国に問われる姿勢
- より大きな課題:
- 戦後創設の国際機関が、設立の基礎となった諸原則を実効的に順守させ続けられるか
- かつての米国の役割:
- 国連憲章の起草に尽力し、ベルリン封鎖では断固たる姿勢を貫いた
- NATOを創設した
- 数十年にわたり、西欧を侵略すれば西側の結束した対応に直面するとソ連・ロシアに認識させてきた
- 米政府への問いかけ:
- この国際体制を自国の安全保障に不可欠とみなすのか、他国が担うべき負担とみなすのか
- 欧州と北米を守る抑止力が機能しなくなった場合、生じる追加的負担を分担する用意があるのか
- 台湾や韓国など他地域の国々にとって米国の姿勢がどのような意味を持つのか
- 歴史の教訓:
- 失われた抑止力の再構築は、抑止力の維持よりはるかに高くつく場合がある
- その教訓が忘れられているのではないかという問い