■ 1. 旧敵国条項の概要と現状
- 旧敵国条項とは:
- 国連憲章の53、77、107条に定められた規定
- 第二次大戦の敗戦国への強制措置について、安保理の許可を原則必要とする仕組みの例外を定める
- 削除をめぐる現状:
- 国連は削除の方針で一致したが、条文は今も残る
- 高市早苗首相が国連で削除を訴えた
- 神余隆博元国連次席大使の立場:
- 1990年代初頭から削除問題や国連改革に携わった
- 条項を残しておくこと自体が日本の安全保障リスクになると警鐘を鳴らし続けている
■ 2. 90年代初頭の認識: 「盲腸」としての条項
- 「盲腸」という捉え方:
- 普段は問題にならないが、有事には急に痛み出す可能性を秘めた存在という意味
- 当時の危機感の低さ:
- 冷戦が終結し、東西関係も改善していた
- 条項が実際に日本に使われる危機感はそれほどなかった
- 安保理改革という大きな課題:
- 湾岸戦争を経て、日本は多額の国連分担金を負担し、軍事面を含む国際協力を求められた
- 一方で安保理の意思決定には常時参加できなかった
- 負担や協力を求めるなら、重要な意思決定にも日本を参加させるべきという考え
- 優先順位の比喩:
- 安保理改革を「がん」、旧敵国条項を「盲腸」に例える
- まずがんを治療し、その過程で盲腸も取ってもらえればよいという方針
- 旧敵国条項だけを単独で取り上げるのは労多くして実りが少ない
■ 3. 95年の総会決議と05年の安保理改革挫折
- 削除を求める作業文書:
- 1995年3月、日本など9カ国が国連憲章特別委員会に共同提出
- 1995年12月の国連総会決議:
- 旧敵国条項を「時代遅れ(obsolete)」と認定
- 将来の憲章改正による削除を目指す内容
- 賛成155、反対ゼロ、棄権3で採択され、中国とロシアも賛成
- 安保理改革のとん挫:
- 2005年7月、日本、ドイツ、インド、ブラジルのG4が常任・非常任理事国を増やす決議案を総会に提出
- 日本は常任理事国入りを目指して各国に働きかけた
- 採決に至らず、9月の会期終了とともに廃案
- 神余氏の振り返り:
- 日本が戦後ほとんど経験のない相当な大勝負だった
- 外交的な敗北と挫折感を味わった
■ 4. 「負け戦」を避ける現実論
- 憲章改正の難しさの再認識:
- 05年の挫折で、憲章改正は口でいうほど簡単ではないと実感
- 相当慎重にならざるを得なくなった
- 当時の状況:
- 神余氏は06年から国連次席大使として安保理改革の立て直しに追われた
- 05年9月の国連首脳会合で「敵国」への言及の削除を「決意」済みだった
- 中露も現在のように条項を対日外交で前面に持ち出してはいなかった
- 削除要求の後退:
- 07年に高村正彦外相が国連総会一般討論演説で削除を要求
- その後も政府は削除方針を維持したが、要求は国連の表舞台から姿を消した
- 現状維持の現実論:
- 再び憲章改正に挑んで失敗するより、そのままにしておけばよいという考えがあった
- 負け戦のようなことをやる必要はないという判断
■ 5. 状況の変化と中露の条項利用
- 中露による対日牽制:
- 中国は昨年11月、高市首相の台湾有事を巡る国会答弁後に条項を持ち出して日本を牽制
- それに先立ち、ロシアも条項を対日批判に持ち出していた
- 神余氏の警鐘:
- 今年3月の月刊誌「Voice」への寄稿で、中露などが条項を外交・情報戦に利用する可能性を指摘
- 「死文化している」と安心する余裕はない
- 高市首相の削除要求:
- 9月22日(日本時間23日)の国連総会一般討論演説で早急な削除を要求
- 条項は日本の「誇りと名誉」に関わると主張
■ 6. 安全保障リスクとしての条項
- 安保理改革より危険な問題:
- 日本の安全保障の観点からは、安保理改革よりも旧敵国条項の方が非常に危ない
- 想定する事態:
- 台湾情勢がさらに緊迫し、日本近海でグレーゾーン行動や小規模な軍事的挑発が起きる事態
- 中国がその際、条項を自らの行動を正当化する根拠として国際社会に主張する可能性
- 正当化の根拠となる懸念:
- 小規模な衝突(スカーミッシュ)や軍事的挑発ですら、国連憲章を使って正当化する根拠になり得る
- 現実に使われる可能性がある以上、残しておくこと自体が日本の安全保障リスク
- 「もう盲腸ではない」:
- 30年余り前は、何かあれば急に痛み出す「盲腸」とみなしていた
- 今は化膿して膿が出てきている状態であり、手術が必要