/note/social

20年前から同じことを言い続けてとっくに飽きてるんだが、まだ同じことを言い続けなくちゃいけないようだ

要約:

■ 1. 竹中平蔵氏の発言と20年変わらない反応

  • 竹中平蔵氏の「正社員をなくせばいい」発言:
    • 構造改革全盛期の論壇・政策界のヒーローand/orヒールが久しぶりにXで発信し、話題となった
    • 非正規増加を竹中のせいとする批判は的外れであり、派遣は働き手の2〜3%にすぎないと主張
    • 1979年の判例以来、クビにならない正社員という世界でも異常な特権構造こそが病巣だと主張
    • 人件費の固定費化により、企業は非正規を調整弁として搾取せざるを得なくなったと主張
    • 正社員の廃止が働く人全員の救済につながると主張
  • 反応への軽い絶望感:
    • この発言に対する反応は20年前とほとんど変わっていない
    • この間いろいろと論じてきたつもりの身としては、軽い絶望感を覚える
    • そのため、これまでの論稿をいくつか再掲する

■ 2. 解雇規制の二重構造(『エコノミスト』2008年7月1日号)

  • OECD対日審査報告書2008年版の真意:
    • 正規労働者の雇用保護を緩和し、非正規採用のインセンティブを弱めるよう提言している
    • 一見、規制改革会議労働タスクフォースと同じ急進的な規制撤廃論に見える
    • しかしOECDが懸念しているのは、解雇規制の絶対水準ではなく正規・非正規間の保護水準の格差
    • 「ことごとく撤廃せよ」も「一切手をつけるな」も、誤解に基づく不適切な反応
  • OECD雇用見通し(2006年)の指摘:
    • 解雇規制が失業を生むという証拠は見出せない
    • 常用労働者への厳格な規制を維持したまま臨時・派遣労働だけを規制緩和すると悪影響が出る
    • 日本の最大の問題は、賃金、職業訓練、社会保障、雇用保護にわたる正規・非正規の二重構造
    • 全労働者を非正規並みにすれば解決するとは言っていない
    • 一方で、全労働者に現在の正規並みの雇用保護を与えることも不可能
  • 第一段の解雇権濫用法理:
    • 解雇に正当な理由を求めるもので、ほぼすべての先進国に共通する
    • これがなければ、労働者は我慢するか辞めるかしかない
    • 労働者に「退出」だけでなく「発言」の選択肢を与えるには、最低限必要な規制
  • 復職か無補償かという格差:
    • 現在の判例では、解雇無効の場合に金銭補償の途がなく、復職しかない
    • 有期契約の雇止めへの解雇権濫用法理の類推適用は、理論上は可能でも現実には難しい
    • その結果、復職が認められる正規と、金銭補償すら得られない非正規の格差が極端に広がる
    • 不当解雇の解決を原則金銭補償とすれば、非正規の不当な雇止めにも同様の保護を与えられる
  • 第二段の整理解雇法理:
    • 経済学者は解雇権濫用法理を無視し、整理解雇法理だけを論じがち
    • 石油ショック後に確立し、人員整理の必要性、解雇回避努力、選定基準、労使協議の4要件を求める
    • 解雇回避努力として、時間外労働削減、配転による雇用維持、非正規の雇止めが求められる
    • これが恒常的な時間外労働を正当化している面がある
    • 配転に応じられない家庭責任を負う女性への差別も正当化している面がある
    • 非正規の雇止めを解雇回避努力と評価する法理は、それ自体が雇用形態による差別を奨励している
  • 前提の崩れた解雇規制:
    • 妻が専業主婦なら、長時間残業や遠距離配転には十分対応できた
    • 非正規がパート主婦や学生なら、彼らを切り捨て正社員の雇用確保に集中するのも当然だったかもしれない
    • 共働き夫婦には、雇用維持の代償としての長時間残業や遠距離配転は難しく、幼い子供がいれば不可能
    • そのため妻はやむなくパートで働くことになり、その彼女らを切り捨てよと命じる規制は差別的
    • この差別的な解雇規制の見直しは、労働者の利益にとっても重要な課題
  • EU諸国の解雇規制:
    • 差別や人権に関わる解雇は明確に無効とされる
    • 一般的な解雇は、極めて自由なベルギーやオーストリアから、法制上は厳格なオランダまで様々
    • 整理解雇は、概ね解雇を前提に労使協議の手続を求めるにとどまる
    • イタリア等を除き、不当解雇でもほぼ金銭補償が原則であり、有期契約への厳格な規制とバランスをとっている
    • 有期契約規制違反で無期転換しても、勤続に応じた補償が求められるだけで復職は求められない
    • 日本の法制にも参考になる

■ 3. 解雇規制緩和論の誤解(『労基旬報』2013年5月25日号)

  • まっとうな議論と混乱した議論:
    • 安倍政権成立後、解雇規制論議が再燃し、思い込みによる議論が混乱を増幅させている
    • 経済財政諮問会議と規制改革会議は、職務・勤務地限定の「ジョブ型正社員」の創出を前提としている
    • ジョブが消滅・縮小すれば契約を超えた配転ができず、整理解雇が正当となるという筋道の議論
    • 一方、産業競争力会議ではその前提抜きに、解雇規制が厳しすぎるとして緩和・自由化を求める声がある
  • 労働契約法16条の中身:
    • 客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない解雇を無効とするにすぎない
    • 何が合理的で相当かは、その雇用契約が何を定めているかで変わる
  • ジョブ型と日本型正社員の違い:
    • 欧米のジョブ型では、同一事業場・同一職種で配転できなければ、手続を前提に整理解雇は正当
    • 日本型正社員で正当とされにくいのは、どんな仕事・場所にも配転させると約束しているため
    • 日本企業はそのおかげで、欧米では考えられない内部的柔軟性を享受してきた
    • 最高裁は、介護と保育を理由に遠隔地配転を拒否した共稼ぎ正社員の懲戒解雇を正当と認めている
  • 特殊な約束としての雇用契約:
    • 日本は解雇規制が厳しすぎるのではない
    • 「なんでもやらせるからクビにはしない」「何でもやるからクビにはされない」という特殊な約束なだけ
    • 「なんでもやる」前提に逆らった者には、欧米では信じられない冷たい対応も正当となる
    • 権利と義務は表裏一体であり、内部的柔軟性を享受するなら外部的柔軟性が制約されるのは当然
  • 裁判に来ない解雇の実態:
    • 以上は裁判所に出たときのルールにすぎない
    • 年間数十万件を労働裁判所で処理する西欧に対し、日本で裁判になる解雇は年間1600件程度
    • 労働局への雇用終了関係の相談は年間10万件、うちあっせん申請は約4000件弱
    • 2008年度の実態調査(『日本の雇用終了』)では、態度が悪い、上司に従わない等の理由の解雇が山積み
    • 金銭解決の水準は平均17万円と極めて低い
    • 大部分を占める中小企業では、解雇は限りなく自由に近い

■ 4. 解雇規制の誤解(『Business Law Journal』2014年2月号)

  • 日本は解雇規制が厳しいという誤解:
    • 経済学者や一部法学者までがこの誤った認識で語るのは嘆かわしい
    • 労働契約法16条の下では解雇できるのが原則で、権利濫用は例外
    • ただしその例外が非常に広くなっている
  • 鏡に映った人事労務管理:
    • 欧米で最も正当な経済上の理由による整理解雇が、日本では最も不当な解雇とみなされる
    • 能力不足を理由とする解雇もなかなか認められない
    • それは解雇規制のせいではなく、企業の人事労務管理が鏡に映っているだけ
  • 「就職」ではなく「就社」:
    • 諸外国の就職は職務を限定した雇用契約であり、通常は勤務地や労働時間も限定される
    • 日本の正社員は職務を限定せず、会社の命令次第でどんな仕事でもやる前提で雇われる
    • このような「無限定」社員は、世界的には極めて特殊
  • 解雇回避努力義務の根拠:
    • どこでも何でも働く約束なので、会社には別の仕事や事業所に配転する義務がある
    • 社内で配転可能な限り、解雇は正当とされない
  • 整理解雇を可能にする前提条件:
    • 欧州並みに整理解雇できるようにするには、まず「何でもやらせる」正社員の雇用契約を見直す必要がある
    • 職務限定、勤務地限定の正社員を創り出すことが不可欠の前提

■ 5. 解雇の金銭解決と訴訟物(『生産性新聞』2015年3月5日号)

  • 解雇規制をめぐる第一の誤解:
    • 日本は法律で解雇を厳格に規制しているという思い込みは、労働契約法16条を見れば誤りとわかる
    • 大企業正社員で経営上の理由による解雇が最も許されないのは、職務の定めなき雇用契約というシステムのため
  • 金銭解決が禁止されているという誤解:
    • 国会で野党議員が首相に「金銭解決を認めるのか」と繰り返し問う事態まで起きている
    • 解雇の大部分は泣き寝入り等の未解決だが、解決事案の圧倒的大部分は金銭解決
    • あっせん、労働審判、訴訟でも過半数は和解で解決し、その大部分は金銭解決
    • 解雇を金銭解決してはならないという法律は一つもない
  • 問題の根源は訴訟物理論:
    • 金銭解決制度が立法政策の問題となる原因は、労働実体法ではなく民事訴訟法の訴訟物理論にある
    • 新訴訟物理論でも、金銭給付請求と地位確認請求を一つの訴訟物とする理論は存在しない
    • しかし社会的実態として、補償金請求と解雇無効による未払い賃金請求はほとんど変わらない
    • 判決で解雇無効となっても就労請求権は認められず、地位確認請求の実態は金銭給付請求と同じ
    • この法社会学的認識が民事訴訟法学に取り込まれていないため、金銭解決が禁止されているかのように思われている
  • 労働審判という実例:
    • 労働審判でも解雇事案の大部分は地位確認請求である
    • 職場に戻る意思がなくても、地位確認で行かないと多くの解決金は望めないと実務書に書かれている
    • 労働審判は訴訟物理論に縛られず、地位確認請求に100万円の支払いを命じても誰も不審に思わない

■ 6. ねじれる金銭救済制度(『労基旬報』2021年2月25日号)

  • 20年間進展のない解雇法制:
    • 労働時間法制や非正規法制が大きく変わる一方、解雇の金銭解決制度は議論ばかりで進展がない
    • 2003年の労基法改正時には国会提出直前に頓挫した
    • 2007年の労働契約法制定時には、研究会報告で詳細設計しながら労政審でいつの間にか消滅した
    • 2015年から検討会で議論され、2017年に報告書が出た
    • 2018年からは法技術的論点の検討会が続き、2020年11月に再開した
  • 形成権構成:
    • 無効な解雇等により金銭救済請求権が発生し、その行使として訴えを提起する
    • 解消金債権が発生し、金額は判決確定で判明する
    • 解消金支払を条件とする労働契約終了の効果が生じ、支払により契約が終了する
    • 原則は裁判外でも行使可能だが、制度創設時は訴え提起か労働審判申立てに限る
  • 形成判決構成:
    • 無効な解雇等は形成原因の発生にすぎない
    • 解消金債権の発生と条件付き契約終了の判決を求めて訴えを提起する
    • 認容判決の確定で解消金債権が発生し、支払により契約が終了する
    • 労働審判で実現できるかという問題がある
  • 解消金とバックペイの関係:
    • 解消金の支払のみで契約が終了するという構成がある
    • バックペイ履行確保の観点から、解消金とバックペイ双方の支払で終了するという構成もある
    • 後者には、バックペイ先充当の特則を置く案と、バックペイを解消金に含める案がある
  • 解消金の範囲と算定:
    • 補償範囲は、解雇前の就労実績の喪失と、将来得べかりし賃金等の経済的損失
    • 考慮要素は勤続年数、給与額、企業規模、年齢
    • 年齢については、若いほど損失が大きいという評価と、高齢ほど再就職困難で補償の必要が高いという相反する評価がある
    • 客観的要素の算定式で基準額を出し、評価を要する要素で増減する方法がある
    • 定型的要素で基礎部分を出し、上乗せ部分は上限のみ決めて個別要素で算定する方法もある
  • 法技術論議の空虚さ:
    • 解雇の法社会学的実態から見て、こうした法技術的議論が多くの労働者にとってどれほど意味があるか大変疑わしい
    • 日本では労働紛争が裁判所に到達するのはごくわずかである
    • 労働局あっせんの分析(『日本の雇用終了』『日本の雇用紛争』)では、解決事案でも平均10万円台の解決金
    • むしろ解決しないものの方が多く、実態として日本も解雇は金銭解決されている国
    • 上澄みの判例法理だけで議論を重ねるほど、多くの労働者と縁遠い空虚な制度設計になる
  • 込み入った原因は権利濫用法理:
    • アメリカを除く欧州諸国では、解雇規制の救済として金銭解決が一般的
    • 日本で難しいのは、例外的状況の最後の手段である権利濫用法理を、原則的法理として確立してしまったため
    • 権利濫用は民法1条3項の超一般原則で、他の規定で社会正義を実現できないときの万能の武器
    • 民法の授業では、信玄公旗掛松事件や宇奈月温泉事件が教えられる
    • 労働法では正当事由がなければ権利濫用となり、原則と例外が完全に逆転している
    • 原則の余地がないほどの例外が、例外としての法的規定のまま存在し続けていることが法技術的難問の原因
  • 葵の御紋としての例外処理:
    • もともと解雇は自由に行使できる権利であり、ひどい事案を例外的に無効にする発想から始まった
    • 例外処理がいくら積み重なっても、それは天から降りてくる葵の御紋のままである
    • 不当さの程度に応じて無効か金銭支払かを振り分けるような全体的な仕組みにはならなかった
    • 欧州のように早期に解雇規制を立法していれば可能だったかもしれないが、その機会を逸した
  • 2003年改正の責任:
    • 2003年の労基法改正で、初めて解雇権濫用法理がそのまま法律に規定された
    • 従来の判例は個別事案への個別判断の積み重ねにすぎない
    • 正当な理由のない解雇はすべて無効という一般原則を定立したわけではない
    • 事案によっては金銭支払で有効とする判断がありうることも否定していなかった
    • 金銭救済制度が「無理ゲー」になった原因は、判例法理を深く考えず「そのまま」実定法に書き込んだ2003年改正にあるのかもしれない

■ 7. 解雇規制の誤解と雇用システム(『中央公論』2024年12月号)

  • 自民党総裁選での解雇規制論議:
    • 2024年の自民党総裁選では、解雇規制が政治家やマスメディアの関心を集めた
    • 当初最有力の小泉進次郎氏が3位に終わった一因は、「解雇規制の見直し」を掲げたこととされる
    • 小泉氏は、判例を明記した解雇規制が大企業の解雇を許さず、社内配転を促進してきたと述べた
    • 小泉氏は人員整理が認められにくい状況を変えると訴え、多くの批判を浴びた
    • 8位に惨敗した河野太郎氏も、解雇規制緩和や金銭解決を主張していた
    • マスメディアの解説は通り一遍で、雇用システム論を踏まえたものは少なかった
  • 法規定上の解雇規制は強くない:
    • 特定の解雇を規制する規定は存在する
    • 労基法の30日前予告、産前産後・労災休業中の解雇禁止、労組法の組合員差別解雇禁止などがその例
    • しかし小泉氏が想定するような法規定は存在しない
    • 労働契約法16条は、合理的理由を欠き相当でない解雇を権利濫用として無効とすると述べるだけ
  • 16条を削除しても何も変わらない:
    • 16条は2003年改正で労基法18条の2として書き込まれ、2007年に労働契約法へ平行移動したもの
    • 2003年以前も、六法全書にない解雇権濫用法理で多くの解雇が無効と判断されていた
    • 権利濫用法理は民法1条3項の一般原則であり、16条の文言自体に特定性はない
    • どの解雇が該当するかは、1950年代以来蓄積された判例でしか判断できない
  • 1979年東洋酸素事件:
    • 小泉氏が想定しているのは、整理解雇4要件の第2要件である解雇回避努力義務だろう
    • これは最高裁判例ですらなく、1979年の東京高裁の下級審裁判例にすぎない
    • しかしそれ以来、圧倒的に多くの裁判例がこの枠組みに従ってきた
  • 社会の現実が権利濫用の中身を決める:
    • 人員整理が認められにくいのは国家による法規制のためではない
    • 社会の現実、すなわち日本独特のメンバーシップ型雇用契約が権利濫用の中身を決めてきた
  • ジョブ型とメンバーシップ型:
    • 日本以外の雇用契約のスタンダードは、まずジョブがあり人をはめ込むもの
    • 雇用契約は、借家契約と同様に特定の職務についての労務の賃貸借契約である
    • 募集採用は特定職務の欠員補充であり、社内昇進も公募への応募という形をとる
    • 日本の「しゅうしょく」は、共同体の一員として会社に入ることを意味する
    • 職務が限定されず、社員は社内の全職務に従事する義務の対象となりうる
    • 最高裁は、契約上限定していない限り配転を受け入れる義務があるとした(1989年日産自動車村山工場事件)
    • 職務明示義務の省令や職種限定者の配転を否定する判例など若干の動揺はあるが、職務無限定性が今も日本の特徴
    • これを『ジョブ型雇用社会とは何か』(岩波新書)で定式化してきた
  • 強大な人事権に伴う解雇回避義務:
    • 会社が強大な人事権を持つため、社内で配転可能な限り解雇は正当とされにくい
    • これは規制ではない
    • 職務が特定されていれば、配転で解雇を回避する努力義務などありえない
    • あらゆる職務に配転する権利があるなら、それを行使せずに整理解雇するのが許されないのは当然
    • 会社の強大な人事権が、いざというときに自らを拘束しているにすぎない
  • ジョブ型社会の解雇:
    • 多くのジョブ型社会には解雇規制立法があり、欧州には細かな手続規制もある
    • 職務消滅による整理解雇は、真実である限り最も正当な解雇理由
    • 能力不足や労働者個人の問題による解雇は厳しく制限される
  • 能力不足解雇が認められにくい理由:
    • 日本で能力不足解雇が認められにくいのも、職務無限定性のため
    • ある仕事ができなくても、探せば他にやれる仕事があるだろうという理屈になる
    • ジョブ型では、証明を条件に職務遂行能力が著しく劣る者の解雇は正当と認められる
    • ただしそれは、できると言って採用されたのに全然できない場合に限られる
    • 長年労務を受領しておいて、5年も10年も経ってから能力不足を理由に解雇できるわけではない
  • 法改正では解雇規制緩和は困難:
    • 人事権も実定法にはなく、判例が積み上げた配置転換法理として存在するにすぎない
    • 日本の労働法制の肝心な部分は、法規制ではなく会社の現実を映した判例法理として存在する
    • 規制改革会議で16条の問題を問われたが、当たり前のことしか書いていない条文の改正は不可能
    • 濫用でも有効とするような改正はできず、削除しても2003年以前に戻るだけ
    • 1990年代末に八代尚宏氏らが規制緩和を主張し始めた頃、六法全書に解雇権濫用法理の規定はなかった
  • 解雇規制を明文化する提案:
    • 2013年に産業競争力会議で、解雇ルールを法律に明確に書き込む案を提示した
    • 欧州並みに解雇規制を設ければ、その例外である解雇できる場合も明確になるという理路
    • 重大な非行、職務遂行能力の欠如、経営上の理由による職務の消滅・縮小の場合を除き解雇を禁止する条文
    • 職務縮小時には対象者を公正に選定し、過半数組合等と誠実に協議することを求める
    • 小泉氏の主張したリスキリングや再就職支援の義務も、第2項への追加で実現できる
    • ただしこれは職務が限定的に存在することを前提としたジョブ型の規定
    • 無限定正社員と強大な人事権を維持するなら、ほとんど解雇禁止規定になってしまう
    • 大多数の日本企業がメンバーシップ型であり続けようとする今日、実現の見込みはほとんどない
  • 現実が先行する金銭解決:
    • 解雇の金銭解決は2003年以来20年以上検討され、現在は労政審労働条件分科会で審議中
    • 自ら金銭解決の実情を調査・報告しており、この問題の当事者でもある
    • 日本の実定法に、解雇を金銭解決してはならないという法律はどこにもない
    • 金銭解決の判決が出せないのは、裁判で解雇無効の判決が出た場合のみ
    • 裁判上の和解や労働審判では、解雇事案のほとんどが金銭解決している
    • 労働局あっせんでは金銭解決は3割で、残りは泣き寝入りの方が多い
    • 金銭解決できずに問題となっているのは、氷山の一角どころか本当に上澄みの一部だけ
  • 本当の問題は解決率と金額の低さ:
    • 労働局あっせん事案を千数百件分析した結果、解決金の中央値は16万円程度
    • 労働審判の中央値は概ね150万円、裁判上の和解は300万円程度
    • 基準が不明確なため、非常に低額の解決か未解決になっている
    • 裁判ができるのは大企業正社員などお金のある人で、中小零細企業や非正規ほど裁判も弁護士依頼もできない
    • 中小零細・非正規労働者の保護の観点から、金銭解決を法律に定める意味はある
  • 現実と切り離された制度案:
    • 審議会の案は、裁判で解雇無効の場合に原職復帰の代わりに労働者が金銭救済を請求できる限定的な設計
    • 現実社会の事実上の金銭解決とは切り離された議論になっている
    • ドイツやフランスでも解雇は金銭解決が一般的なのに、日本で難しいのは権利濫用法理を原則化したため
  • 的外れではなかった河野氏の主張:
    • 欧州のように解雇を正面から規制していれば、例外としての金銭解決の立法も簡単だった
    • 日本労働弁護団も2002年に、解雇の原則禁止と金銭賠償規定を含む立法提言を公表していた
    • 会社都合解雇に金銭補償ルールが大事だという河野氏の主張は、それほどおかしなものではない
    • 中小零細では会社都合の解雇でも補償がない場合が多いという論拠は、むしろ現実を見据えたもの
    • 小泉氏の議論と同列に批判されたのはやや気の毒であり、今後の議論はせめてこの水準から始めてほしい