■ 1. 事故の概要と書籍の位置づけ
- 池袋暴走事故:
- 2019年4月19日、東京都豊島区で飯塚幸三(当時87歳)が運転するプリウスが次々と人をはねた
- 松永拓也さんの妻・真菜さん(当時31歳)と娘・莉子さん(当時3歳)が死亡した
- 飯塚氏を含む10名が重軽傷を負った
- 『池袋高齢者暴走事故 遺族と加害者家族の2060日』:
- TBSの守田哲記者が、遺族の松永氏と飯塚氏長男の対話や飯塚氏本人との面会を取材して上梓した書籍
- 高齢ドライバー、被害者遺族のケア、エスカレートする誹謗中傷など、事故に凝縮された社会問題を扱う
- 「上級国民」と呼ばれた飯塚氏の生涯も記している
■ 2. 加害者家族への苛烈な誹謗中傷
- 長男に会った時の率直な感想:
- 「よく自殺しなかった」と感じた
- 事故以来、飯塚家への誹謗中傷は苛烈なものだった
- 長男のネット検索:
- 長男は日々、父親の事故についてインターネットで検索していた
- それは事故と向き合う行為のひとつだったと考える
■ 3. 報道が誹謗中傷を招く問題
- 対話映像の扱い:
- 松永氏と長男の対話は「報道特集」で放送したが、全部は出せなかった
- テレビ放送やYouTube公開をすれば、確実に一部が切り取られ長男への誹謗中傷につながる
- 切り取りの具体例:
- 長男が謝罪の後に「医師のアドバイスや支援が欲しい」と述べれば、そこだけが切り取られうる
- 「謝罪がない」「何様だ」と炎上のネタにされる恐れがある
- 長男の映像の非公開:
- 長男が映る取材映像で、TBSのYouTubeチャンネルに公開できているものは1本もない
- テレビでは伝え切れないことが多かった点が、書籍執筆の動機のひとつ
■ 4. 被害者遺族への誹謗中傷
- 松永氏が叩かれる構図:
- 松永氏は交通事故遺族の現状を知ってもらうため、取材やテレビ出演に応じている
- 誹謗中傷する人々は、承認欲求のためではないかと疑って叩く
- “悲劇のヒーロー”の足を引っ張り、目立つ人間を炎上させようとする
- 金銭にまつわる攻撃:
- 遺族支援団体への寄付金や民事裁判の損害賠償など、あらゆる金銭をネタにする
- 実際には活動に費用がかかり、賠償金は罪悪感から使えなかったりするのが実像
■ 5. 書籍という表現形式の選択
- 敬称の省略:
- 遺族の松永氏も加害者の飯塚幸三も敬称なしで記述し、等距離で描いた
- テレビには尺や情報量の制約、報道番組特有の作法やプロトコルがある
- 書籍ではそこから離れ、一人の記者、一人の人間として事件と向き合って記述できた
- 映像ではなく文章を選んだ理由:
- 映像はインパクトが強く、それだけでニュースが成立してしまう
- 映像の強さに頼らず、自分の理性でコントロールできる文字で表現したかった
- そのためドキュメンタリーではなく書籍という形を選んだ
■ 6. 逃げなかった長男の強さ
- 社会からの締め出し:
- 飯塚氏の退院時、マスコミを避けるため長男はウィークリーマンションを契約した
- 入居者名が「飯塚幸三」であったため、急な工事を理由に取り消された
- 孤立と絶望の中での介護:
- 孤立感と絶望感の中で、長男は父親の面倒を見続けた
- 松永氏との対話は炎上の恐れから家族が反対したが、長男は自分をさらけ出すように応じた
- 強さの源泉:
- 最も的確な言葉は責任感
- 社会に対する責任と、一家の長男としての責任を取材中に感じた
- 飯塚氏の死後、松永氏と長男と墓参りした際、長男が名代という言葉を発したのが印象的だった
■ 7. 捜査員が見た長男の姿
- 捜査員の心配りと敬意:
- 警察官は加害者と向き合い、事故で家族が崩れていく様も目にする
- 長男は事故原因を車の異常ではなくアクセルの踏み間違いだと確信していた
- 長男は父親に踏み間違いを認めるよう説得していた
- 捜査関係者の多くは、認めない父に対する長男のつらさを感じ取っていた
■ 8. 「上級国民」像への問題意識
- 誤った人物像:
- 旧通産省の技官だったことから「上級国民」と呼ばれた人物像は誤ったものではないか
- 2人が死亡し9人が重軽傷を負う事故を起こしたことは事実
- 一方でメディア報道が結果的に誤った飯塚氏像の形成に関与したのではないか
- 実像を報じる使命:
- 飯塚氏の長男を取材できている記者は自分だけ
- だから飯塚幸三の実像を報じることは自分にしかできない
- 楔を打つ必要:
- 飯塚氏は2024年に亡くなったが、残された家族は一生十字架を背負っていく
- それでいいのかという思いがあり、何らかの楔を打たなければならない
- それをしなければ、記者として後悔すると考えた
■ 9. 悪とされる人物を取材する意義
- 記者の姿勢:
- 悪とされる人物を取材するだけで味方と見なされる時代になっている
- 記者は相手がどんな悪人でも、まずその考え方を理解しなければならない
- 共感するかどうかは別の話
- 主張の理由を理解するには、その人物がどういう人間かをファクトとして知る必要がある
■ 10. 日記から描く飯塚氏の生涯
- 入手した日記:
- 1939年(7歳)から1968年(37歳)までの日記
- 事故11日後の2019年4月30日から服役中の2023年9月9日までの獄中日記
- 取材で見た姿や手紙と、その時の心情を突き合わせた
- 93年の生涯:
- 業界団体の会長就任や叙勲で「上級国民」のレッテルを貼られたが、不正で地位を得たのではない
- 仕事や家族、運転を含む自分の老いとどう向き合ったかを書き切ろうとした
- 加害者側を書く意味:
- 遺族をかわいそうな人として報じるために遺族だけを取材しても、事故を取材したことにはならない
- 飯塚氏についてファクトを積み上げることで、高齢受刑者や加害者家族の実相も描ける
- 判断は読者に委ねる
■ 11. 読者の反響と今後の取材
- 免許返納への問題意識:
- 高齢の親の免許返納に苦労した経験や、今後への問題意識が強まったという感想が多い
- 地方では車がないと生活できない現実がある
- 返納させることの限界や返納後の生活を考えるきっかけにしてほしい
- 苦難の中での生き方:
- 日常の連続性が途絶え、予定された未来が壊れた後、人はどう生きるかという根源的な問題を扱う
- 苦難から逃げなかった松永氏と長男の姿から、人はどう生きるべきかを感じ取ってほしい
- 悩みや困難を抱えている人に読んでほしい
- 取材の継続:
- 表面的な上辺の取材ではなく、人とできるだけ長く付き合うことが大切
- 松永氏の闘いはまだ終わらず、終われない
- 長男の葛藤も続いており、これからどう生きていくのかを取材していく