■ 1. 研究の概要と結論
- 研究の目的:
- SNS上の「エコーチェンバー」が政治的分極化を強めるという懸念を検証する
- データ不足と大規模フィールド実験の難しさから、問題の規模はこれまで評価が困難
- 記述的分析:
- 2020年の米国の成人アクティブFacebookユーザー全体のデータを用いる
- ユーザーが目にするコンテンツの大半は政治的に同じ傾向を持つ情報源(like-minded sources)由来
- ただし、そのうち政治情報やニュースが占める割合は小さい
- フィールド実験:
- 2020年米大統領選の期間中、23,377人のユーザーを対象に多段階の実験を実施
- 同傾向の情報源からのコンテンツへの接触を約3分の1削減
- 異なる傾向の情報源(cross-cutting sources)への接触が増え、無礼な言葉への接触が減少
- 感情的分極化、イデオロギー的極端さ、候補者評価、虚偽主張への信念など事前登録した8つの態度指標には測定可能な効果なし
- 結論:
- 同傾向の情報源への接触はSNS上でありふれている
- しかしその削減は、信念や態度の分極化を対応して低減させない
■ 2. 問題の背景
- エコーチェンバー批判:
- 党派的分極化と敵意の増大は、しばしばSNS上のエコーチェンバーのせいにされる
- この懸念は2016年米大統領選以降に高まっている
- Facebookなどは同傾向の情報源から好ましいコンテンツを繰り返し見せ、穏健さや寛容を促す反論への接触を制限するとされる
- アイデンティティを強化するSNS上のコミュニケーションは、外集団への否定的態度と内集団への愛着を強めうる
- 本研究の構成:
- 全成人アクティブユーザーのデータで、同傾向の情報源からのコンテンツの割合を分析する
- 同意した参加者の一部を対象に、同傾向の情報源への接触を減らす大規模実験を行う
■ 3. 既存研究の3つの空白
- 接触の体系的測定の欠如:
- Facebookのようなプラットフォームは研究者がほぼアクセスできない
- Webトラフィックデータでは、情報摂取が大きく偏った米国人は比較的少ない
- SNS上で実際に何を見ているかはあまり分かっていない
- 既存の観察研究は利用者が国民の23%にすぎないTwitterに偏っている
- Facebook研究も2014〜2015年に保守・リベラルを自己申告した少数ユーザーに限られる
- 行動データがなければ、測定誤差を伴う自己申告調査に頼らざるを得ない
- 因果的証拠の不足:
- 調査では分極的態度と同傾向ニュースの消費に相関がある
- しかし同傾向コンテンツの消費が持続的な分極化を生む因果的証拠は少ない
- 極端な政治的見解を持つ人ほど同傾向コンテンツを消費しやすいため、相関は見せかけの可能性がある
- 既存実験の多くは短期間かつ模擬コンテンツを使うため、現実環境への一般化が難しい
- 分極化効果がどれほど一般的か、どれほど早く減衰するか、ニュースを避ける人に集中するかも不明
- 介入の副作用の可能性:
- 同傾向コンテンツを減らしても、異なる傾向のコンテンツが同程度に増えるとは限らない
- フィードは既にフォローしているアカウントに限られ、異なる傾向のものは少なく非政治的なものが多い
- そのため、異なる傾向ではなく政治的に中立な情報源のコンテンツが増える可能性がある
- 同傾向コンテンツの語調や話題が系統的に異なれば、削減はフィード構成に別の影響を及ぼしうる
- Facebook外で同傾向の情報を探しに行く行動を誘発する可能性もある
■ 4. 研究体制と主要結果
- Meta社との共同研究:
- 米国2020年Facebook・Instagram選挙研究の一部として実施
- 筆頭の学術研究者が分析計画の最終決定権と、データ分析・原稿に関する管理権を持つ
- Metaは結果の公表を阻止できない
- 学術研究者は金銭的報酬を受けておらず、分析計画はデータ入手前に事前登録済み
- 主要結果の要点:
- 米国の成人アクティブユーザーが見るコンテンツの大半は同傾向の友人、ページ、グループ由来
- 同傾向の情報源への接触を約3分の1減らすと、総エンゲージメントが減少する
- 無礼なコンテンツや誤情報を繰り返し投稿する情報源への接触も減少する
- 異なる傾向の情報源への接触の増加は控えめで、どちらでもない情報源の増加の方が大きい
- 同傾向コンテンツへの総エンゲージメントは減るが、見たコンテンツに反応する率は上がる
- 数週間にわたる削減でも、8つの事前登録態度指標に測定可能な効果はない
- 各指標について±0.12標準偏差以上の効果を確信をもって否定できる
- 効果は政治的イデオロギー、政治的知識、デジタルリテラシー、事前の接触量で有意に異ならない
■ 5. 同傾向の情報源への接触の実態
- 分析対象:
- 18歳以上の米国Facebookユーザーのうち、月1回以上利用する月間アクティブユーザーが中心
- 2020年8月17日以前の30日間に1回以上アクセスした成人で利用水準を測定
- 2020年第3・第4四半期には米国で毎月2億3,100万人がFacebookにアクセスしている
- 政治的傾向の推定方法:
- Facebook内部の分類器で、ユーザー単位に0(左派)から1(右派)の予測値を算出
- 0.5超を保守、それ以外をリベラルに分類し、全アクティブユーザーを分析可能にする
- ページの値はフォロワーや共有者の平均、グループの値はメンバーや共有者の平均
- 情報源は0.4以下をリベラル、0.6以上を保守とし、その中間はどちらでもないものとして扱う
- 接触割合(2020年6月26日〜9月23日):
- 中央値のユーザーは50.4%を同傾向の情報源から、14.7%を異なる傾向の情報源から受け取る
- 政治的(civic)コンテンツでは55%、ニュースでは47%が同傾向の情報源由来
- ただし政治コンテンツとニュースが閲覧全体に占める割合は中央値で6.9%と6.7%にとどまる
- 極端なエコーチェンバーの希少性:
- 接触の75%超が同傾向の情報源由来のユーザーは20.6%のみ
- 50〜75%が30.6%、25〜50%が25.6%、0〜25%が23.1%
- 政治コンテンツとニュースでも割合は近く、75%超はそれぞれ29%と20.6%
- 異なる傾向の情報源への接触の少なさ:
- 接触の4分の1以上が異なる傾向の情報源由来のユーザーは32.2%のみ
- 政治コンテンツでは31.7%、ニュースでは26.9%
- 最もアクティブなユーザーでも同様:
- 毎日利用するユーザーでは、閲覧の53%が同傾向、14%が異なる傾向の情報源由来
- 75%超が同傾向の情報源由来のユーザーは21.1%にとどまる
- 小括:
- エコーチェンバーに関する最悪の懸念とは一致しない
- 非常に高い水準で同傾向コンテンツに接触するのは少数派
- ただし異なる傾向より同傾向の情報源のコンテンツを見る可能性がはるかに高い
■ 6. 実験の設計
- 調査スケジュール:
- 処置群と対照群に、選挙前後で5回の調査を依頼
- 処置前に第1波(8月31日〜9月12日)と第2波(9月8日〜23日)を実施
- 処置期間は9月24日〜12月23日
- 処置期間中に第3波(10月9日〜23日)、第4波(11月4日〜18日)、第5波(12月9日〜23日)を実施
- 共変量は第1・2波、態度の結果指標は選挙後の第4・5波で測定
- 実験期間を通じてFacebook上の接触とエンゲージメントのデータも収集
- 参加者:
- 2020年8〜9月にフィード上部の調査招待で募集した米国の成人ユーザー
- インフォームドコンセントを提供し、選挙後調査に1回以上回答した23,377人
- 介入内容:
- 参加者と同じ政治的傾向と予測された友人、グループ、ページのコンテンツをすべて表示順位で下げる
- 政治やニュースに限らず全コンテンツが対象
- 設計上の3つの特徴:
- 唯一の目的は同傾向の情報源への接触削減で、フィードの他の側面を直接変えるものではない
- 事前テストに基づき、フィードがほぼ空にならない範囲で最大の降格強度を採用
- フィードが空になると使い勝手が損なわれ、結果が交絡するため
- 政治的でないコンテンツも政治的な手がかりを伝えうるため、全コンテンツを対象とする
- 政治とニュースは情報摂取のごく一部であり、それらに限定すると一部の人のフィードはほぼ変わらない
- 倫理的懸念を最小化するため、接触を増やすのではなく減らす介入とする
■ 7. 処置がコンテンツ接触に与えた効果
- 同傾向の情報源への接触:
- 処置群では平均36.2%に低下し、対照群は53.7%で安定
- 差は0.77標準偏差に相当
- 11月2日・3日には、処置を実装するサーバーの技術的問題により処置群の接触が一時的に増加
- 閲覧量:
- 1日の総閲覧数は0.05標準偏差減少
- 対照群の平均は1日267閲覧のうち143が同傾向の情報源由来
- 処置群の平均は1日255閲覧のうち92が同傾向の情報源由来
- 非対称な置き換え:
- 異なる傾向の情報源への接触は20.7%から27.9%に増加(0.43標準偏差)
- どちらでもない情報源への接触は25.6%から35.9%に増加(0.68標準偏差)し、増加幅がより大きい
- 問題のあるコンテンツへの接触減少:
- 差別語を含むコンテンツは0.034%から0.030%に減少(1日あたり0.01閲覧減)
- 無礼なコンテンツは3.15%から2.81%に減少(1日あたり1.24閲覧減)
- 誤情報の常習的投稿元のコンテンツは0.76%から0.55%に減少(1日あたり0.62閲覧減)
- 政治コンテンツとニュース:
- 政治コンテンツへの接触は0.05標準偏差減少
- ニュースへの接触は0.05標準偏差増加
■ 8. 処置がエンゲージメントに与えた効果
- 2つの測定指標:
- 総エンゲージメントは、受動的行動(クリック、リアクション、いいね)と能動的行動(コメント、再共有)の総数
- エンゲージメント率は、実際に見たコンテンツに反応する確率
- 両者は必ずしも連動しない
- 総エンゲージメント:
- Facebookの利用時間には有意な効果なし
- 同傾向の情報源への受動的エンゲージメントは0.24、能動的エンゲージメントは0.12標準偏差減少
- 異なる傾向の情報源への受動的エンゲージメントは0.11、能動的エンゲージメントは0.04標準偏差増加
- 誤情報の常習的投稿元への受動的エンゲージメントは減少したが、能動的エンゲージメントは減少せず
- エンゲージメント率:
- 同傾向のコンテンツを見た際の反応率は上昇し、受動的で0.04、能動的で0.13標準偏差増加
- 異なる傾向のコンテンツは多く見たが反応率は低下し、受動的で0.06、能動的で0.02標準偏差減少
- 利用日あたりの閲覧数もわずかに減少
■ 9. 処置が態度に与えた効果
- 主要な結果指標:
- 事前登録どおり調査ウェイトで母集団平均処置効果を推定し、偽発見率でP値を補正
- 感情的分極化、イデオロギー的極端さ、イデオロギー的に一貫した争点態度・集団評価・投票選択と候補者評価を検証
- 党派に都合のよい信念、選挙不正と結果への見方、選挙制度への見方、選挙規範の尊重も検証
- いずれもゼロ付近で精密に推定された結果が一貫して得られる
- 推定の精度:
- 8つの主要指標のうち7つは±0.03標準偏差以下で精密に推定(探索的同等性範囲は±0.1標準偏差)
- 感情的分極化の最小検出可能効果は0.019標準偏差であり、検出力は高い
- 8つ目の投票選択と候補者評価の一貫性は精度の低いnull(0.056標準偏差、同等性範囲0.001〜0.111)
- 副次的な研究課題:
- 期待の弱い18の態度指標についても、±0.18標準偏差の効果を確信をもって否定できる
- Facebook外の同傾向メディアの自己申告消費量についても、±0.07標準偏差の変化を否定できる
- 異質な処置効果:
- 政治的イデオロギー、政治的知識、デジタルリテラシー、事前の政治コンテンツ接触で検証
- 事前の同傾向接触の割合と総数でも検証
- 事前登録した272のサブグループ推定のいずれも補正後に有意でない
- 探索的分析でも年齢やFacebook利用年数による異質な効果の証拠はない
■ 10. 考察
- 検証されていない前提:
- 米国人がオンラインのエコーチェンバーで分極化しているという見方は広く共有されている
- プラットフォームが同傾向コンテンツへの接触を減らして対処すべきという主張もある
- しかし懸念も対策も、ほぼ検証されていない経験的前提に基づく
- 記述的証拠の意味:
- 政治やニュースのコンテンツは少なく、同傾向への接触が極端に高いユーザーも比較的少ない
- それでも閲覧コンテンツの大半は同傾向の情報源由来であり、現実のネットワークの同類性パターンを反映する
- こうしたコンテンツは明示的に政治的でなくても党派的アイデンティティを強化しうる
- アルゴリズム変更の効果と限界:
- アルゴリズムの変更はユーザーが見るコンテンツに顕著な効果を持つ
- 同傾向コンテンツの削減は、無礼なコンテンツや誤情報の常習的投稿元への接触も減らす
- しかし好ましい情報を求めて反応するユーザーの傾向を完全には打ち消せない
- null結果の考えられる説明:
- 分極化を促すとされる政治情報や党派的ニュースは、Facebookで見るコンテンツのごく一部
- SNSの消費自体も、友人やテレビなどを含む情報摂取全体の一部にすぎない
- そのためFacebook上の大きな変化も、情報摂取全体では小さな変化にとどまりうる
- 説得はそもそも難しく、情報の効果は小さく一時的で、激しい大統領選の最中は特に変わりにくい
- 倫理的理由で接触を減らす方向で検証したが、効果は対称的でない可能性がある
- 接触の削減が分極化を減らす程度は、接触の増加が分極化を悪化させる程度より小さいかもしれない
- 今後の研究課題:
- 実験以前のSNS利用が信念や態度に与えた影響や、長年の累積効果は捉えられない
- より長期の実験や新規ユーザーを対象とした実験が必要
- サンプルはFacebook利用者全体と一部異なるため、より代表的なサンプルや影響を受けやすい層のオーバーサンプリングが必要
- エコーチェンバー内のユーザーは少数派でも、絶対数では大きいため、その要因と帰結の解明が必要
- 本研究は情報源の推定傾向を用いており、共有されたコンテンツ自体の偏りは直接測定していない
- 政治体制や情報環境の異なる他国での追試が不可欠
- 結論的主張:
- SNSのエコーチェンバーを現代米国民主主義の問題の原因とする通説に疑問を投げかける
- 同傾向の情報源への接触を減らすアルゴリズム変更は、単純な解決策にはならない
- SNSで目にする情報は、表明する意見の源というより、自身のアイデンティティの反映かもしれない
■ 11. 方法
- 参加者の特性:
- 白人73.3%、女性57.3%、大卒50.7%、民主党支持または寄りが54.1%
- 一般ユーザーより利用頻度が高く、同傾向の情報源への接触も多い
- そのため態度への効果推定には、募集対象の月間アクティブユーザーを反映する調査ウェイトを適用
- ウェイト後の属性は、AmeriSpeak確率標本の自己申告Facebook利用者と類似
- 割り付けと分類:
- ブロック無作為化で等確率に処置群と対照群に割り付け、参加者には割り付けを知らせない
- 対照群のフィードは系統的に変更しない
- 多様なコンテンツの傾向を大規模に測るのは困難なため、情報源の推定傾向で接触を操作
- ページとグループの傾向は、先行研究にならい閲覧者層の傾向から推定
- 検出力を最大化するため全ユーザーを二値分類するが、0.4〜0.6の回答者を除外しても結果は一貫
- 検出力と無作為化:
- 最終サンプル24,480人で、投票見込み者の投票選択に1.6ポイントの最小検出可能効果を見込む設計
- 処置群と対照群の属性に偶然以上の差はなく、無作為化は成功
- 対象者28,296人のうち82.6%にあたる23,377人が選挙後調査に1回以上回答
- 選挙後調査前に離脱した人は最終サンプルと有意に異ならない
- 分析手法:
- すべての分析は事前登録に従い、逸脱は補足情報で報告
- 頑健標準誤差を用いた最小二乗法で推定し、共変量はLASSOで選択
- サンプル平均処置効果も母集団平均処置効果と非常に近い
■ 12. 倫理と透明性
- 倫理審査:
- プロジェクト全体はNORCの倫理審査委員会が審査し承認
- 学術研究者は各大学の倫理審査委員会と連携して規制を遵守
- 研究チームはEthical Resolveから研究設計に関する倫理的助言を受ける
- 参加者の保護:
- 全参加者が事前にインフォームドコンセントを提供
- 実験中の離脱と、2023年2月の匿名化までのデータ撤回を選択可能
- 臨床試験にならった中止規則を設け、個人の福祉に関わる変数に想定以上の変化があれば選挙前に介入を停止する
- 独立性:
- 学術研究者はMetaから報酬を受けていない
- 筆頭著者が報告内容の最終的な裁量を保持
- Metaは結果に基づく公表前承認を行わないことを公に約束
- データとコードの公開:
- 匿名化データはミシガン大学ICPSRのSOMARで管理付きアクセスとして提供
- 利用は大学の倫理審査を経た選挙研究か本研究の検証目的に限られる
- アクセス制限は参加者のプライバシー保護と同意書の内容に沿うため
- 分析コードもSOMARに保管され、Rと関連パッケージで分析
- 2023年11月1日に本論文の訂正が公表されている