■ 1. 退職代行市場の異変
- 相次ぐサービス停止:
- 帝国データバンクの調査では、2025年10月時点で実態を確認できた事業者は52
- そのうち14事業者が2026年9月までの約1年間でサービスを停止した可能性がある
- およそ4社に1社に当たる数
- 業界のこれまでの存在感:
- 新年度ごとに新入社員の利用がニュースになるほど話題になった
- 退職時の選択肢の一つとして存在感を増していた
■ 2. 退職代行が生まれた背景
- 辞めたくても辞められない人の存在:
- 上司からハラスメントを受けている人
- 退職を申し出ても強く引き留められている人
- そもそも怖くて言い出せない人
- こうした人にとって、退職代行は最後のとりでだった
- 利用の実態:
- パーソル総合研究所の調査では、離職者の5.1%が退職代行を利用
- 利用理由に「上司への恐怖心があった」を挙げた人は28.8%
- 債務整理業者との類似:
- 眉をひそめる人は多いが、追い詰められた人には欠かせない存在
- 退職代行は本来「セーフティネット」だった
■ 3. 新規参入の急増
- 認知の拡大:
- メディアで取り上げられ、SNSで拡散された
- 若い世代を中心に利用が広がった
- 参入事業者の増加:
- 東京商工リサーチによると、弁護士法人を除き退職代行を掲げる企業は56社
- そのうち32社が2025年設立で、半数以上がわずか1年で参入
- 最後のとりでだったサービスが、いつの間にか成長市場と見なされるようになった
■ 4. 成長の論理と退職の心理的ハードル低下
- 企業が成長を求める理由:
- 働く側は毎年の給料増を願うため、企業は従業員数が横ばいでも利益を増やす必要がある
- 成長の度合いは企業により異なるが、少しずつでも成長を望むのは給料増の願いと同じ
- 退職代行事業者も例外ではない:
- 社員を雇い、広告を出し、相談体制を整える投資が必要
- 投資回収と社員の昇給には、前年より多くの利用者が必要
- セーフティネットと成長の矛盾:
- セーフティネットは使う人が少ないほうが良い
- 事業の成長には利用者を増やす必要がある
- 需要喚起とは、本来使わなくてよい人にまで使ってもらうことを意味する
- 退職代行を利用する3つの理由:
- いじめやハラスメントに悩んでいる
- 真面目で責任感が強すぎる
- 強い引き留めにあっている
- 理由ごとの必要性の違い:
- ハラスメントと強い引き留めは、セーフティネットが必要なケース
- 責任感が強すぎる人には、会社に不満はなく申し訳なくて顔を合わせられないだけの人もいる
- 少し背中を押されれば、自分の口で伝えられた可能性がある
- 手軽さの訴求がもたらす影響:
- 「即日対応」「会社に電話しなくていい」といった手軽さが繰り返し伝えられる
- 自分で言えたはずの人まで、使ったほうが楽だと考えるようになる
- 数万円で明日から出社しなくて済む選択が、驚くほど簡単にできる時代になった
- 退職への心理的ハードル:
- Job総研の調査では、社会人の94.3%が退職への心理的ハードルが下がっていると回答
- 転職サービスにも同じ構図:
- 大量の宣伝により、転職の必要がない人まで「このままで良いのか」という気分になる
- 悪意はなく、そうしなければ企業は成長も存続もできない
■ 5. 需要減を招く2つの環境変化
- 需要が今後も増え続けるとは考えにくく、理由は2つある
- 1つ目、職場のハラスメント対策の進展:
- 2022年4月から、中小企業を含む全事業主にパワハラ防止措置が義務化
- 厚労省の調査では、取り組み実施企業の7割以上が相談窓口を設けて周知
- 管理職への研修や啓発活動に力を入れる企業も珍しくなくなった
- パワハラ経験者の減少:
- 過去3年間にパワハラを受けた労働者は19.3%
- その3年前の調査の31.4%から減少し、職場は少しずつ変わっている
- 追い詰められる人が減れば、退職代行の需要も減る
- 2つ目、転職市場の曲がり角:
- これまでは人手不足で次の仕事がすぐ見つかり「嫌なら辞めれば良い」という発想があった
- 厚労省の一般職業紹介状況では、求人総数は依然多い
- 一方、2025年の一般事務の有効求人倍率は0.32倍にとどまる(パートを除く)
- 求職者の実感:
- ワークポートの調査では、求職者の59.0%が現在の転職市場を買い手市場と感じている
- そのうち84.0%が、求められる専門性や実績の水準が上がったと回答
- 新卒でも大卒求人倍率は2年連続で低下
- 誰もが簡単に次へ移れる時代ではなくなった
- 「しがみつき社員」(ジョブハギング):
- AIに仕事を奪われる不安から、不満があっても今の会社にとどまろうとする人たち
- 現場での具体例:
- ある食品メーカーの30代女性社員は、給料の安さや転職の意向を口にしていた
- 半年ほどでそうした発言を全くしなくなり、理由は転職先がないこと
- 支援先企業でも、転職すると言わなくなった社員が増えたという声が多い
- 辞める人が減れば、退職代行の出番も減る
■ 6. 追い詰められる事業者
- 値下げ合戦:
- 需要の伸びが見えにくい中で、事業者が一気に押し寄せた
- 似たサービスが並べば価格で競うしかない
- 帝国データバンクによれば、平均料金は約2万8000円から約2万7000円に低下
- 大手法律事務所も参入し、競争はさらに激化
- 法的グレー領域と摘発:
- 事業を広げようとすると、法的にグレーな領域に手を広げがちになる
- 2026年8月、業界大手運営会社の前社長が退職希望者を弁護士に有償紹介し有罪判決
- 業界全体に向けられる目も厳しくなっている
- 企業側の対応の変化:
- 東京商工リサーチの調査では、弁護士・労組以外の代行には取り合わない企業が30.4%
- 理由は、非弁行為が含まれる可能性があるため
- 利用歴が分かった場合に採用しない企業も26.0%
- 使えば不利になると知れば、気軽に頼む人は減る
- 市場の適正化:
- 退職代行の会社が存在すること自体は悪いことではない
- 会社数や市場が拡大し続けることは考えづらい
- 4社に1社のサービス停止は、膨らみすぎた市場が本来の大きさに戻る過程
■ 7. 経営者・マネジャーへの示唆
- 事業者の減少は職場改善を意味しない:
- 上司が怖くて退職を切り出せない人は今もいる
- 追い詰められた人にとって、セーフティネットは必要であり続ける
- 辞めないことと意欲は別問題:
- 転職市場が変わり辞める人が減っても、安心はできない
- 辞めないことと意欲的に働いていることは全く別の話
- 上司が考えるべきこと:
- 退職代行の行く末ではなく、日ごろの関係構築を考えるべき
- 相互にコミュニケーションをとり、部下が自分の口で「辞めます」と言える関係を築く
- セーフティネットを必要としない職場づくりは上司の仕事