■ 1. マイクロファイナンスの理想
- 仕組み:
- 低所得世帯に少額融資を提供し、事業の立ち上げを助ける
- 所得を増やして貧困から脱却させることを狙う
- 成り立ち:
- 1970年代に始まり、既存の銀行から排除されがちな低所得層向けに考案された
- 世界銀行によれば、17億人以上が銀行サービスを利用できない状態にある
- 女性の自立支援:
- 200〜500ドル程度の少額融資で、女性が事業を始め家族を養えるようにする目的があった
- 数十年の結果:
- 融資だけでは経済的自立を実現できない実態が浮かび上がっている
- そもそも解決しようとした問題の設定自体が誤っていた疑いがある
■ 2. 誤った前提1: 投資機会の存在
- 前提の内容:
- 貧困世帯は資金が足りないだけで、利益を生む投資機会はあるという前提
- 実際の事業規模:
- 多くの貧困世帯の事業は露店、小規模商店、農業、仕立て業などごく小規模
- 多くは労働集約的で競争も激しい
- 需要の奪い合い:
- 融資を広げても顧客は増えず、事業者だけが増えて既存の需要を奪い合う恐れがある
■ 3. 誤った前提2: 起業家精神
- 前提の内容:
- 貧困世帯には起業家精神があるという前提
- 借り手の多様性:
- 事業経験、技能、人脈、機会を持ち、投資で高い収益を上げられる借り手も一部にはいる
- 一方で、安定した雇用や教育、職業訓練のほうがはるかに大きな恩恵となる人もいる
- 交通網、電力、ネット接続などのインフラ整備が有効な人もいる
- 誤った介入政策の危険:
- 全ての貧困世帯を潜在的な起業家として扱うと、誤った介入政策につながりかねない
- インドの事例:
- 既存事業者の借り入れや投資は増えた
- 新規事業の立ち上げを増やす効果はなかった
- マイクロファイナンスは特定の世帯には役立つが、誰もが貧困から抜け出せる万能の仕組みではない
■ 4. 非生産的な用途への流用
- 貧困世帯の抱えるリスク:
- 医療費、学費、食費、住居費の負担を抱えている
- 予期せぬ経済的打撃のリスクにもさらされている
- 生活費や返済への転用:
- 事業向け融資が目先の支出や別の借金の返済に使われるケースは多い
- 緊急事態を乗り切る助けにはなっても、返済や資産形成に足る追加収入を生むとは限らない
■ 5. 高金利による負担
- 金利水準:
- マイクロファイナンスの中には金利が高いものもある
- バングラデシュでは当局が少額融資の上限金利を24%に設定している
- 収益性の問題:
- 高金利の融資で始めた事業が、借り入れコストとリスクに見合う利益を生めるかが問われる
- わずかな利益しか生めない零細事業者は返済不能になる恐れがある
- 融資が日々の生活資金に使われている場合はなおさら返済が困難になる
■ 6. 多重債務の構造
- 借り換えへの流用:
- 複数の金融機関から借りている場合、新たな借り入れが既存の融資返済に回る可能性がある
- カンボジアの事例:
- 農村世帯で、返済のために別の借金に頼る借り手が増えている
- 貸し手側は高い返済率を維持しているように見える
- 実際には貧困世帯は経済的に不安定なままである
■ 7. 土地担保化の矛盾
- パキスタンの変化:
- 土地を担保に利用するケースが増加している
- シンド州農村部の状況:
- 土地は農家が保有する最も価値の高い資産の1つで、銀行融資の担保に広く使われている
- 小規模な土地しかない農家は担保価値が低く、大地主に比べて融資を受けにくい
- 当初の目的との矛盾:
- マイクロファイナンスは本来、担保のない人々を支援する目的で始まった
- 分野の「近代化」により、貧困層の最も価値の高い生産資産である土地が担保にされるようになった
- 返済が滞れば、生活の基盤となる最大の資産を失うリスクにさらされる
■ 8. 苦い教訓
- 資金は制約要因の1つにすぎない:
- 資金調達の問題は、貧困からの脱出を妨げる制約要因の1つでしかない
- 起業家に必要なもの:
- 技能、テクノロジー、インフラが必要
- 市場アクセスと安定した雇用機会も必要
- 最貧困層と借り入れ:
- 安定して持続可能な収益を生む力がない最貧困層では、借り入れ自体が適切でない可能性がある