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女医さんがやってきた (増田文書)

https://anond.hatelabo.jp/20180630150652

タイムリーな投稿があったので、女医さんと一緒に働くことになった男性医師側の意見を書いておく。

ちょうど、元増田の言及していたマイナー科の一人として。


結論から書くが、「次は元気な若い男を回してくれ」だ。


さて、俺のいる科はこの数年、5人で仕事をやってきた。この業界、5人というのは数字だけみると恵まれているほうだ。

1.ジジイ:名目上のトップ。現場の仕事はほとんどしない。たまに外来をやるくらい。出張多い。

2.上司:実務上のトップ。ベテランにさしかかってきた年で、体力がないと言いつつなんでもバリバリやる。

3.俺:10年目で、専門医になってしばらくたつ。

4.若手:5年目。ルーチンワークは一通り覚えている。

5.新人A:研修医上がりで、この科を選んだばかりの卒後3年目。

以上の体制が、新年度から以下のようになった。なお全員が某医大の医局人事に従っている。

1.ジジイ

2.上司

3.俺

4.女医:育休明けたばかり。いちおう専門医で、俺より1つ2つ上だが修練歴は短い。

5.新人B:上の新人とは別のやつ。新人は毎年交代になる。

異動にあたって医局とジジイが話をつけてきたのだが、「若手を減らすかわりに、非常勤だが専門医を一人増やす」とのことだった。

ふたを開けてみれば、

・女医さんは週3.5日来るはずが、週3日・時短勤務に→人数に余裕のない曜日、時間帯が増える

・夜間の呼び出しに対応できない→ジジイと新人は無理なので、上司と俺で時間外の電話を全部受ける

・当然、内科系医師に割り当てられる当直の仕事もこなせない

・対応できない時間があるため、単独で主治医を任せられない

・今まで下っ端二人に病棟の細々した仕事をお願いしていたのが、年の順で俺にも回ってくるようになる

・女医さんは久しぶりで仕事を忘れている部分もあるので、俺がそのつど教えることに

など明らかにきつくなっている。帰宅時間は平均して1-1.5時間遅くなった。

元々呼び出しはかなり少ない科ではあるが、2日に一回の拘束が生じ、心理的にきつくなった。


少し俺の話をしよう。俺自身が今の診療科を選んだのは「楽だから」だ。

うちは3代続く外科系の家で、長兄も外科だ。俺自身は家に帰らない親父の仕事ぶりを見て「あれは無理だな」と思っていた。

10年以上も前になるが、2chでQOML(quality of my life, quality of medical staff's life)という考えが流行ったことがあった。

仕事もいいが医者自身の私生活も大事にしようぜ、というものだ。(雪月花のブログ、と言えば一部の人に伝わるだろうか?懐かしい。)

俺は大いに感銘を受け、医学生時代は2chのQOMLスレに入り浸った。フリーター・ドロッポ(ドロップアウト)のスレなどもあった。

どこの科が楽だ、研修病院はこう選べ。地方の医師不足や診療科の偏在?構うものか。医療崩壊?ハードランディング上等じゃないか。

いやなら辞めろ、代わりはいくらでもいる。逃散だ。そう言って盛り上がった。

今の若い人たちもQOMLの影響は受けているようだ。今は単にQOLと称することが多いらしい。

「研修医やる気なしクラブ」スレッドなど、その思想は受け継がれている。


とにかく患者が少ないか、急変しないか、そもそも患者を持たない。それが進路選びの大前提だった。実際それに従って進む科を選んだ。

10年経って、意外に医療崩壊の進みは遅く、ゆっくりとシュリンクしていく様相を見せている。

産科、小児科、外科の減少のために人が殺到するかに思われた当科も、思いのほか人手不足のままである。


今年、女医の影響というか、女医にまつわる産休や育休の影響をはじめて受ける立場になった。

女性の同僚はいたが、フルタイムだったためこれまで特に気にすることもなかった。

むしろ俺自身は女医の働き方に理解があるつもりだった。半分が女子学生の大学だってある時代だ。

そして実際に影響を受けて思った。これはきつい、と。


女医さん、時間あたりで外来件数を比較すると、俺の1/3くらいしか働いてない。

それでいて時給換算すると俺より高い額をもらっている(なんで知ってるかというと雇用通知書を机の上に置いてたからだ)。

朝のカンファレンスが終わった頃やってきて、多少の仕事をして、早く帰っていく。俺たちは溜まった仕事もそこそこに、夕方のカンファレンスに臨む。

彼女はときおり電話1本で「子どもが熱出たんで休みます」と言い、俺たちは一つ減ったブースで外来をこなす。


そんでこの前、彼女がさらに時短を望んでいるとかの話を小耳にはさむ。

ジジイや上司は、家庭は大事だからねーと言う。認める方向のようだ。

いやいやお前それ、俺らの家庭が間接的に犠牲になってるのはいいのか。聖人か。

短いなら短いでせめて同じ密度で仕事できませんかって聞きたいが、当の女医さんはいい人そうなので、ってか多分普通にいい人なので聞けない。


やる気はない、医者はただの生きる手段。病院や業界に対する忠誠心はまるでない、と俺は自分で思っていた。

それでもQOMLを達成するためには馬力と要領が必要で、全力投球して9時5時を目指すもんだと考えていた。

そこへ余りにもマイペースな(ように見える)同僚が現れて困惑している。じつはQOML派じゃなかったのか俺。


業界みんなで支えなきゃ。

お前は誰の股から生まれたんだ。

パート女医でもゼロよりはいいじゃん。

お前も無理って言えばいいじゃん。お前も真似してみれば?

女医のせいっていうより実質上の減員だから医局に増員を頼め。

マネジメントの問題だ。人を別に雇え。できなければ診療規模を縮小しろ。

業務の効率化をしよう。

非常勤のほうが雇用の調整弁なんだから待遇がよくて当然。

男も時短勤務を選べる時代にしよう。

主治医制を廃止だ。


そんな正論はいくらでも思いつくが、理想論の上に即効性もなく、さえずるなという感じ。

給料上げてもらえば?とかね。俸給表で決まってるんですがね。ま、残業や呼び出しで10万ほど増えましたがね。


「やっぱさー、一緒に働くなら元気のいい男の子がいいよ」

昔、他の病院に勤める先輩と一緒に飲んだときに言われた。

この人がそんなこと言うんだ、まだこの業界後進だなって思った。

でも今度から俺も言おうと思うわ。「次は活きのいい若い男を頼む」


あ、増田はできるだけ人の多いところに行って好きにすればいいと思う。とにかく人が多いところだ。お互いの幸せのために。