2005年の時点でも人文・社会系分野の研究業績ってどう評価するべきか議論されていた模様。
1) 論文点数は、研究成果の量的指標と考えられるが、学問分野によって、また研究の態様によって、その多寡には大きな開きがある。複数の研究者が共同で行う実験結果のとりまとめを論文として発表することの多い分野に比べて、単独で資料の丹念な蒐集・分析と熟考の結果をまとめることが一般的な分野における論文の発表数が少ないことは容易に理解されよう。
2) 専門的な内容の著書は、人文・社会系の研究業績としてきわめて重要であり、単なる教科書ないしは啓発的な書物として位置づけることはできない。
3) 研究業績としてオリジナルな研究成果が重要であることはいうまでもないが、文献研究の重視される分野等では、先行の研究業績の翻訳や評論の中に価値の高いものが含まれることがある。また、古典的な文献の翻刻・校閲・解説・編纂等の業績、学術書籍や資料集等の編纂、事典・辞書等の編纂、等のうちにもきわめて価値の高いものが含まれる場合がある。さらに、美術館・博物館等の解説資料や展覧会等のプログラム・目録等の解説やその編纂等の中にも、学術的な価値の高いものも含まれている。
4) 著書や論文として発表されたもの以外でも、各種の調査報告などの内には、新たな知見や重要な指摘を含む、きわめて価値の高いものが含まれる場合がある。また、調査や分析の方法として、創意ある試みをともなってなされたものも含まれる場合がある。研究の成果の発表の形態によって一律に取り扱うことは適切でない。
5) 論文が英文で書かれていることを必須とする傾向があるが、人文・社会系の場合には、日本の歴史・社会・文化などの日本研究のように、日本語で表記すること自体が重要である場合もある。また、中国・朝鮮・ロシアなどの社会・文化等の研究などでは、当該言語による論文が世界的に重視されている。また、研究分野によっては、主要な研究業績は日本語で表記されており、英文で表記される論文はむしろ特殊なものに過ぎない場合もある。
6) 国際的な学会誌に掲載された論文は、一般に評価される。ただし、分野によっては、国際的な学会誌が十分に普及していない場合もあり、国際的な学会の存在しない分野も少なくないことも留意する必要がある。
7) 国内の学会誌などの、レフェリー制を採用している学術誌に掲載された論文は、評価される。ただし、学会によっては、一定水準を超えた研究者は、レフェリーによる審査の対象とならない場合もあり、また学会誌にはもっぱら若手の研究者が投稿する状況にある場合もある。
8) 分野によっては、研究会誌・同人誌などに重要な研究業績が発表される場合もあり、大学紀要等になされる場合もあり、内容に基づいて評価・判断される必要がある。
9) しばしば重要視される論文の被引用度については、人文・社会系のほとんどの分野では被引用度についてのデータが整備されていない。
10) 学会賞などの受賞者については、それ自体尊重される必要があるが、学会賞などのうちには、優れた業績やその研究者を表彰するものと、特に若手の研究者に対する奨励賞としての意味あいのものとがあることを考慮する必要がある。また、すべての分野に同じように学会賞の制度が整えられているわけではなく、こうした表彰制度をもたない分野もある。
11) 論文等の形で発表されるものにとどまらず、文学や美術等における創作活動や展覧会等の企画などの活動、音楽の演奏や演劇等のパフォーマンス、体育学における優れたアスリートの育成、といった、さまざまな表現形態による活動も重要な意味を持っている。これらについての評価にも配慮する必要があると同時に、芸術活動と学術活動の境界線をどのようにとらえるのかという課題についても考察される必要がある。
12)研究成果は、学術的な意義に限らず、地域的、国家的、国際的な広がりにおける社会的な貢献としての意義をも果たしており、この点についても評価が行われる必要がある。たとえば、地方史・地誌・地域の資料集の編纂、地域における演奏活動・展示活動・社会教育活動、国の政策形成・その批判的検討・社会運動への研究成果の反映、福祉や身体的・精神的健康にかかわる臨床的な実践、研究活動の発展途上国援助への貢献などの国際貢献、等について考慮される必要がある。
うーん...