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『100日後に死ぬワニ』の作者が間違ったこと

PR会社とつきあうときの心構えができていなかった。今回の問題はこれに尽きる。

漫画家は普段ほぼ出版社としか付き合いがないのだろうが、出版社の人間というのは編集者はもちろん、企画にせよ営業にせよコンテンツを読み込む能力が高い。だからフリーハンドでコンテンツの展開を任せても、そこまでおかしなことになったりはしない(もちろん例外はある)。同じくツイッター初の『こぐまのケーキ屋さん』が小学館のハンドリングのもと、映像化やグッズ展開をしても炎上せずファンも喜ぶ順調な拡張をしているのは好例だ。

ところが今回作者が組んだのは、ベイシカというPR会社である。

クリエイターがPR会社と組むときに知らなければいけないのが、彼らは出版社の人間に比べ、圧倒的にコンテンツを読む力がないということだ。これを踏まえて対応しないと、せっかく作ったコンテンツをズタボロにされる危険性がある。

PR会社は展開の施策案やコネクションはたくさん持っているが、基本的にコンテンツを読む力はない。どこが読者にウケているのか、何が物語の勘所なのかを理解できない、あるいは理解の精度が低く、ときに見当外れの展開を量だけ持ってきて、火に薪をくべ続けるようなめちゃくちゃなムーブをしてしまう。

『100日後に死ぬワニ』に関していうと、最低でも以下のことに留意をしなければならなかった。

  • 「死を利用して金儲けをしようとしている」という風に見える展開は絶対に絶対に絶対にNG
  • 『100日後に死ぬワニ』はキャラクターが受けたのでも、漫画の面白さが受けたのでもなく、死が確定している人の日常をほのぼのと描き、SNSという媒体でリアルタイムに毎日更新するというコンセプトが受けたのであって、キャラクターを推す展開は効果が薄い
  • 作者とファンが草の根的に作ってきたコンテンツであり、アガリを業者がかすめるような見えかたはNG

今回はこれをすべて外していて、みんなが哀しみにくれているときににロフトに案内する天使ワニの絵をアップしたり(個人的にはあの絵が致命傷だったと思う)、ワニカフェやワニのプレイリストといった全く需要のない展開をしたり、突如ファンコミュニティの外側から現れたいきものがかりが勝手にコラボ曲を作ったりと、見当違いな施策ばかりであった。

たぶん作者も、PR会社と話している間に「こいつらおかしくないか?」と思った局面があったのだと思う(事後のツイートから窺える)。そうなったときに気をつけなければいけないのは、出版社相手には丸投げで済んでいたケースであっても、必ず自らハンドリングしなければならないということだ。PR会社はストーリーやキャラクターのことなど分からないので、丸投げしてしまうと今回のようにとにかく露出を増やせばええんやと灯油を被って焼却炉に突撃するようなわけのわからない行動も平気で取る。

作者がビジネスについて交渉をしようとすると、PR会社の人間は「展開はぼくらの本業ですから口を出さないで」的な圧をかけてくるし、彼らも「無垢なクリエイターは世の中のことは分かりませんからなあ」などと本気で思っているものなのだが、そこで負けてハンドリング権を売り渡してしまうと今回のようなことになる。架空のキャラクターはレイプされようが殺されようが自衛することはできないのだから、作者が盾にならなければいけない。

ということで、クリエイターがPR会社と組むときは、出版社と仕事をする感覚でやってはいけない。今後ヒットを飛ばしたクリエイターが同じ愚に陥らないことを願う。