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フリーライドなのはどっちなのか

転職して今の会社に入り、数年で結婚して産休とって育休とって少し前に復帰した。

私が今の会社に入って3ヶ月くらい後に同じく中途で入ったAさんがいる。

Aさんは年齢も一つしか違わないし部署は違うが入社時期も近いし業務上関わることもままあってそれなりに仲良くしていた。

私が復帰したときに久しぶりで大変でしょう、とお菓子を差し入れてくれた。

スーパーで売ってるようなお菓子ではなくきれいな包みのもので、その日復帰する私のために用意してくれたのだろうというのが分かり、Aさんの気遣いに嬉しくなったしAさんはそういう気が利く人だった。

私の休業中にDXだと社長が張り切ったようで色々システムなど変わっていたりしたものの、わかりやすい作業手順が用意されていたりして勘を取り戻しながら仕事には慣れていった。

復帰後もAさんとはお昼が一緒になったときには子どもの話や旦那の愚痴を聞いてもらったりしていた。まぁ我が子可愛いけど疲れれば愚痴は出る。よそは知らんがうちの旦那は割と主体的に家事もやる方だと思うけど。

少し前に上司との面談時に育休明けで困っていることはないかと聞かれ、社長張り切りDXのおかげでシステムが変わって狼狽えたものの今のところ大きなトラブルはないし、

他の部分でも慣れればワークフローもわかりやすくなってて便利になりましたよね~なんていう話をしたら

私が休業中にDX的なことに社長が張り切ったが当然ながら導入や実務を社長はやらないのでそのあたりをAさんが整理してパソコンに疎い現場のおじさまたち含めいろんな人が使えるようにしていたらしい。

そこまで大きな会社ではないので割と本社の人間は何でも屋になりがちなのだがAさんは社内の軽易なシステム周りから福利厚生や規程の見直し、広報誌の見直しも色々していて

どれも端的に言って「色んな人が見やすい、使いやすい」を心がけているのが感じられた。

育休制度も法定通りだったものが私が休業中に法定以上の内容になったのだが、それもAさんの発案で進めてくれていたらしい。

しかもAさんは私が休業中に癌の手術をして抗がん剤治療中も在宅で仕事をし、そこから復帰してまた出社して仕事をしているという状況だった。

知らないところでAさんが大活躍していた。

Aさんは未婚で子どももいない。目鼻立ちも良く細身なきれいな人で入社すぐに他部署のパートの女性たちからも話しかけられていて美人は社交の輪がすぐ広がるんだな、と改めて感じたものだった。

恋愛や彼氏の話もあまり聞いたことがない。推してるアイドルの話を聞いたりはしていたが推しがいるから結婚はいらないというタイプでもなさそうだった。

そのAさんと先日お昼が一緒になったとき、ふと見ると指輪をしていた。ピアスはいつもしていたが指輪は珍しかったのでもしや、と思い「Aさんその指輪、彼氏とか?」と聞いたら「彼氏じゃないですよ」と言った後

こっそりと「増田さんにならいいかな、彼女なんです。女の子なんです、パートナーは。」と言われた。「あまり周囲に言ってないので内緒にしてくださいね。」と言われた。

驚いてしまったがそうだったのかと思いつつ、打ち明けてくれる程度にAさんから信頼を得ていたことの嬉しさもあった。

しかしその嬉しさのあとにじわじわと今まで彼女が異性愛者であるものとして接していたこと、

結婚出産育休取得と彼女が利用することが難しい制度に乗っかりながらその愚痴を言っていたことが途端に恥ずかしくて申し訳なくなってしまった。

謝ったところで彼女も本音はどうあれ「気にしてないですよ」しか言えないだろうし、自己満足にすぎないので何も言えない。

思えば産休や育休の制度の拡充をしてくれて、社内報や社内文書のフォントをユニバーサルデザインのフォントに統一したり、ハラスメント防止の指針やポスターの作成も、

私以上に多様性に理解がないであろう現場のおっさんたちにも分かるように手順書をつくったり、他にもいろいろ・・・そういう仕事の一つひとつに

彼女がマイノリティだからこそ見て見ぬふりできなかった部分があったんだろうと思えて、彼女が取り組むまでそうしたものの存在にも気づけなかった自分の図太く無神経な思考に打ちひしがれた。

Aさんは抗がん剤をした後、まだ薬も飲んでいるから生理がないと言っていた。はっきり言えば子どもが産めない体ということだと思う。

正直少し前まで子どもを産んでない人は子持ち(=未来の納税者)にフリーライドしていると少し思っていたくらいだ。

育休取りやすくしてくれてるのも、休業から復帰しやすくしてくれてたのも、その他諸々働きやすくしてくれていたのはAさんだった。

気持ちよく会話してお昼ごはん食べれたのもAさんが黙ってニコニコと私の話を聞いてくれていたからだった。

ちなみに私が休業中に私の仕事を回してくれていたのは子どものいない男性上司だった。

私のようなマジョリティのための既存の制度と、子どものいない人やマイノリティの我慢と努力にマジョリティである自分がフリーライドしている事実を、社内でAさんの活躍を聞くたびに突きつけられる。

自分はAさんのために何ができるんだろうと考えている。

こういう「スッ...」と現れる傲慢さが味わい深い