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選考委員・川上弘美さんも「違和感を覚えます」と苦言…テレ朝「報道ステーション」の芥川賞取材に感じた疑問

各新聞、テレビ局の報道、文芸記者による川上さんへの質疑応答の最後に、私が違和感を覚えた一幕が起こった。

司会者の「次が最後の1人です」という声かけに手を挙げてスタンドマイクの前に立った女性は「テレビ朝日『報道ステーション』の〇〇と申します」と名乗ると、こう聞いた。

「高瀬さんの作品は選考の過程では、どんな世相を反映しているという議論があったのでしょうか?」

この質問に川上さんは「どんな世相?」と思わず戸惑いの声を漏らした後、「そういう論じられ方はしませんでした。選考委員は小説をそういう形では読まない。選考の場では、もっと小説自体を論じるような気がします。ごめんなさい。一言でバッと言えるようなことは今は言えません。良かったら(後で)選考委員の皆さんの選評を読んで下さい」

だが、さらに女性は聞いた。

「今の時代に高瀬さんの作品が選ばれた意味は?」―

「世相」を「時代」と言い換えた形の質問に川上さんは「先ほども言いましたように、どの小説も今を書いているんですよ。高瀬さんが今を書いたから選ばれたのではなく、どの小説もそれぞれの作家の今、それぞれの作家の見た現在を書いている。それが自身の作家性と有機的に絡み合って小説ができてくると思う。ですから、ごめんなさい。だから、高瀬さんがこういう世相を切り取っているから受賞したんだとは、どうしても言えません」

川上さんが2度「ごめんなさい」と謝りながら説明したにも関わらず、女性はさらに聞いた。

「実際、現象として、昭和、平成、令和と女性の受賞者が徐々に増えています。その部分の変化について、ご自身はどう感じていますか?」―

今回の芥川賞の候補者5人全員が史上初めて女性だったことを踏まえ、「私も芥川賞を受賞した時、直木賞が乃南アサさんで『初めての女性だけの受賞者の年だ』って、すごく言われたんですね。その後、女性だけの受賞者の年もありましたし、移ってきているんだなとは思います。候補作にどれだけ女性を選ぶか、選考委員にどれだけ女性が入るかということですから、個人的な感想ですけど、(文学界は)風通しがいい場所なんじゃないかなと、ありがたく思ってます」と答えた川上さん。

この答えを受けた女性は「あと一つだけ」と言うと、「女性の方が、男性の方がということはないと思いますが、時代が徐々に変化をしているということを感じられますか?」と聞いた。

あくまで「時代」と絡めた答えを求め続ける女性に「女性です、男性ですって一言で言っちゃうところがもう小説的でないような気がするんで…。ごめんなさい。ご期待に応える答えができないんですけど。一言で言えないところをどうやって表現していくかが小説だと思うので」と、ついに本音を漏らした川上さん。

「男性、女性の(候補者の)数という統計的なことは言えるかも知れないけど、選考委員として、そこに対して何かコメントと言うと、私自身は違和感を覚えます」―。終始、冷静に答え続けたものの最後の「違和感」という言葉に、あくまで「答えてほしい言葉」を質問の形で求め続ける女性へのいら立ちが感じられた。

壊れたテープレコーダー状態である